俺はただ怪しい商人でいたかっただけ

みるこ

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第一章

何事も始める前が一番不安

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「リュヌ~!! この寝坊助!」
「ごめんよぉフォル兄」
 ぐすぐす鼻を鳴らしながら抱き着いてくるフォル兄をよしよしとなだめる。後ろから少し遅れて来たマウ兄も落ち着いてはいるが、その目は涙で潤んでいた。うん、我が兄ながらとても可愛らしい。
「とにかくなんともなくて良かった……」
「ありがとうマウ兄。ほんと心配かけてごめんなさい」
ぺこりと頭を下げると、不器用ながらも優しく頭を撫でられた。その感触がどこかくすぐったくてくふくふ笑みがこぼれてしまう。
「ほらほら、リュヌが元気になったのが嬉しいのはわかるけど、早く朝ごはん食べちゃいなさい」
「「はーい」」
 マウ兄とフォル兄が席に着くのを見届け、既に朝ごはんを済ませてしまった俺と母さん父さんは改めてこれからの話をするために別室へと移動した。
 結局トールとリリーはあの後二人でなんだかんだ揉め、それじゃと突然いなくなった。ほんっと嵐のような奴らだ。リリーはトールがいなくなってからこっそり、「学校には私も行くからね」と一言告げていなくなったし。妖精を連れて登校とか、ますます中二心をくすぐられるというかなんというか……。
「リュヌ?」
「ああ、大丈夫大丈夫」
 そんなことをぼーっと考えていると、父さんの書斎にたどり着いた。トールとリリーが来ていたあの時間、父さんと母さんはある程度二人で俺の入学に関して話をまとめていたらしい。何かと動きが早い不思議な両親にしたってあまりにも話の進行が早すぎるし、元々商人になりたいか聞いてきたときには学校の話も決まっていたのだろう。
「それで、改めて確認だけど、リュヌは父さんと母さんみたいな商人になりたい?」
「もちろん今なりたいと返事したからって将来が確定したわけじゃないよ」
 父さんと母さんはあくまでも現時点でどうしたいのか聞きたいと、念押しして俺の意思を聞いてきた。
 前世の記憶を思い出す前から答えは決まっている。俺は、父さんと母さんのような商人になりたい。
「なりたい。父さんと母さんみたいに、どこにでも現れてどんな商品でも用意できる、そんな素晴らしい商人になりたい!」
 どんな辺鄙な場所でも誰かに求められれば現れて商品を提供する、時に幻とも謳われる商人。そんな仕事ができるようになるには自分には想像もつかないくらいの試練があるのかもしれないが、今はとにかく面白そうという気持ちが大きかった。それに、前々から憧れていたのだ。目立たないけどなんか凄い奴に。
「やっぱり、リュヌならそう言うと思った」
 母さんは俺の迷いのない返答に少し困ったように笑いながらそう言った。父さんもやれやれと言いたげに額に手を当てている。
「まあリュヌだしなぁ。……よし、それじゃあ父さんたちも商人として必要なことを少しずつ教えていくことにするよ。とりあえずは来月から始まる学校生活の準備をしなきゃな」
「え、もう来月から行けるの?」
「ちょうど来月から新学期が始まるのよぉ。これから少し慌ただしくなるわねぇ」
 あれやこれやと入学準備の話に花を咲かせる両親を眺めながら俺はほっと一息ついた。どうやら話は完全にまとまったらしい。まあ入学時期に関しては自分で想像していたよりもかなり早かったが、長引いても不安がより増していくだけだ。俺はこれから始まる新生活にワクワクしながらも、一抹の不安を抱えながら両親の話に加わった。
「そうだリュヌ、学校では制服が支給されるけど絶対このローブは脱いじゃだめだぞ」
……友達何人できるかな、なんて少しワクワクしていたが、どうやら友達づくりの難易度は跳ね上がりそうだ。だって、どこからか取り出した真っ黒い怪しげなローブなんて羽織っていたら避けられまくりだろうし。
「……わかったよ父さん」
 初めての学校生活、何事もなく過ごせますように、なんて、後々考えてみれば叶いっこない願いを胸に俺は新生活へ思いを馳せるのだった。
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