俺はただ怪しい商人でいたかっただけ

みるこ

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第一章

もしかして俺の家族ってチート?

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「ふふ、いらっしゃいリュヌ」
「お邪魔しま~す」
 一見ごちゃついているように見えるが、部屋の主の性格が反映されたかのように几帳面にラベリングされた道具や薬、専門書等が並んでいる空間には秘密基地のようなワクワク感が満ちている。
「はい、お茶どうぞ」
「ありがとマウ兄! 忙しいのにごめんね」
「全然大丈夫。もう明後日だもんね入学試験」
 マウ兄お手製のハーブティーを一口飲むと、ここ数日ずっと抱えていた不安がゆっくりとかされていくように感じた。これもどうぞ、と追加で出されたクッキーも花が練り込まれていて、素朴な甘みと優しい香りに癒される。
 ……どうやら俺がどうして部屋を訪れたのかマウ兄にはお見通しだったらしい。用意されたものすべてに心を落ち着かせる作用のある薬草が使われていた。

 お茶をゆっくり飲みながら辺りを改めて見回すと、マウ兄がつくってきたであろう様々な魔道具やその材料と思わしき魔石、魔物素材、魔方陣が棚にいっぱい並んでいる。もう普通に独立して魔道具屋を営んでいてもおかしくないくらいだ。
「あ、そういえばリュヌも鑑定使えるようになったんだね。おめでとう」
「ありがとう……ってあれ、その話したっけ?」
「いや、今見たらそう出てるから」
 マウ兄が作業用ゴーグルを外すと、その下から覗く茶色い瞳がほんのり光っていた。
「うんうん、まだ目覚めたばっかって感じだね。でも妖精は見えてるのかな? そこはフォルより早いんだね」
「え、ちょっと待ってマウ兄」
 俺はお茶を優雅に飲みながら一人で何か納得したようにうなずくマウ兄にそう話しかけた。
 もしかして、マウ兄もフォル兄も鑑定できるのか? え、チートとかではない感じ?
「? 何かあった?」
「あ、あのさ、もしかしてその鑑定って皆普通に使えるの……?」
「う、うん、父さんも母さんも皆使えるよ? さすがに母さん並みに詳しい鑑定はできないけど」
「そ、そっかぁ……」
 ガーン。俺の心中を一言で表すならこの言葉に尽きる。なんだか鑑定をチートだと思って若干はしゃいでいた自分がものすごく恥ずかしい。……まあ薄々気づいてはいたけど、我が家は俺以外がチートなんだなきっと……。
「あ、そうだリュヌ。学校ではあんまり鑑定は使わないようにね? 相手によっては見たことに気づく場合もあるらしいし、それがトラブルに繋がる可能性もあるんだって」
「わかったよマウ兄。ありがとう」
「リュヌは素直だね。鑑定のことさえ気を付ければきっと入学試験は大丈夫」
 父さんにもらったローブも着るんだよ? と念押しするマウ兄に返事をすれば、頭を優しく撫でられた。
 
 マウ兄に癒されてすっかり忘れていたが、今回ここを訪れたのには不安の解消もあるが、聞きたいことがあったのを思い出した。
「そういえばマウ兄、マウ兄の学校ってどんな感じなの?」
「僕の学校? うーん、すごく自由、かな?」
「自由って?」
 自由な校風ってよく聞くけど、結構抽象的なんだよなあと思いつつ俺は続きを促した。
「うーん、ちゃんとやるべきことをやっていると、自分がやりたいことを好きにやらせてくれるんだ。それに、学校側に実力が認められると援助もしてくれるんだよ」
「へぇ! フォル兄に聞いたんだけど、魔道具と付与魔術に関して勉強してるんでしょ?」
「そうそう。僕の通う学校がある国では魔道具作りがとっても盛んでね、制作技術はもちろん、実用性を損なわないのに洗練されたデザインとか魔道具の用途に合わせた運用に最適な素材の組合せとか、様々な知識や技術が集まるところなんだ。だから僕もそれを学びたくて今の学校を選んだんだけど……」
「な、なるほどね」
 すごく瞳をキラキラさせながら学校について語るマウ兄に若干引きつつ、改めて兄の凄さを実感した。
 だってそんな魔道具作りが盛んな、要するにその道の専門家がたくさんいるような国の学校を七歳の時に自分で見つけて飛び級までしたんだもんな。……なんか、我が兄ながらその情熱がまぶしいや。
 俺なんて、明後日入学試験なのに全然何をしたいか思いついてないし。
「ねえ、マウ兄はまだ学校始まらないの?」
「え? 僕も明後日から学校だよ」
 フォル兄は新学期に向けて明日家を出発するのに、他国の学校に通うマウ兄はまだまだゆっくりしているからスケジュールが違うんだろうなあなんて考えていたのだが、どうやら俺達と同じらしい。
「えぇ! こんなゆっくりしてて学期はじめに間に合うの!?」
「大丈夫大丈夫、これがあるから」
 そう言いながらマウ兄は席を立ち、部屋の奥へと進んでいった。手招くマウ兄に着いていくと、そこにはなぜか支えも無いのに自立している古い木製の扉があった。
「え、これ何?」
「これは僕が作った魔道具だよ。……あけてごらん?」
「あけるって、普通のドアみたいに?」
「そうそう」
 俺はマウ兄に促されるまま扉の取っ手に手をかけた。全然手ごたえを感じないままとりあえず引いてみると、そこには知らない部屋が広がっていた。
「え? なにこれ?」
「ふふ、実はこの扉は寮の部屋に繋がってるんだ」
 あ、念のためリュヌは入らないでね、と言いながら扉を閉めたマウ兄に、俺は思わず叫んでしまった。
「いやいや、これど〇でもドアじゃん!!」
「ど……? なんて?」
「い、いやなんでもないから忘れて……」
 なんだか納得がいっていないマウ兄をまた席に促しつつ、俺は話を逸らした。
「そういえば、なんでさっき念のため入らないでって言ったの?」
「ああ、それはね、まだ改良前で危ないからなんだ」
「え、そんなやばいものなの?」
「僕は大丈夫なんだけど、この前フォルンに試してもらったらすごく酔っちゃってね……」
「酔う?」
 よし、良い感じに俺の叫びは忘れらてるっぽいぞ。ただ今度はまた別の問題が出てきちゃったけどね!
「そう。乗り物酔い? みたいな感じ。気持ち悪くなっちゃうんだって」
「ただ扉通るだけなのに?」
「一応人間が通る道じゃないところを通るからね。なんて言ったら良いかなあ……」
 きっと俺にもわかりやすい言葉で説明しようとしてくれてるのだろう。うーんと悩んでいるマウ兄を見守っていると、少し経ってからぽんと手のひらを叩いた。いや、随分古典的なリアクションだな。
「リュヌにも見えてる妖精たちの通り道を通ってるんだ。彼らは障害物とか関係なしに行きたい場所へ行けるんだけど、それは彼らだけが知ってるものすごい近道を通ってるからなんだよ」
「へぇ~そうなんだ!」
「さっき扉の先に見えた部屋の様子は実は張りぼてみたいなもので、どこに繋がってるかをわかりやすくするために魔法で映し出してるだけなんだ。だから実際は扉をくぐるだけじゃなくて、少し歩かなきゃいけないんだけど、その歩く道が妖精の近道」
「じゃあほんとに一瞬で着くわけじゃないんだね」
「そうそう。でも本来妖精だけが通るような道を無理やり通ってることになるから、人によってはその環境が体に合わなくて、ものすごーいけもの道を無理やり馬車で通って何時間も揺られて気持ち悪くなっちゃうのと同じような状態になっちゃうんだ」
「あー、だから乗り物酔いに似てるんだね」
「そうそう。僕はどうやら人一倍三半規管が強いみたいだね」
 母さんと父さんにもお前の三半規管は商人向きだって言われたなあ、なんて笑いながら話すマウ兄に、心の中で商人に三半規管の強さって関係あるのか? なんて思ったが口には出さなかった。
 ど〇でもドア、現実にも欲しいなんて思ってたような気もするが、この話を聞くと微妙だな……。
「そうそう、ちなみに母さんと父さんは僕みたいに魔道具っていう媒体を介さずに直接自力で妖精の近道に入れるんだよ。さすが商人だよねぇ」
「そうなんだ~流石だね……(多分普通の商人はそんなことできないだろうけどね!)」

「じゃあ俺戻るね」
「うん。また後でね」
 俺は色々濃い話をしてくれたマウ兄の部屋を後にし、夕食の時間まで自室でゆっくりすることにした。
「なんか、あまりに家族がチートすぎてどうでもよくなってきたな」
 入学試験がどうとか、やりたいことがどうとか、もうなんだか家族がぶっ飛びすぎてどうでもよくなってきてしまった。ある意味最高のリラックス効果を得たかもしれない。
「とりあえず最終的に商人にはなりたいとして、後はゆっくり学校に通いながら考えよう……。妖精の近道使えなくたってなんとかなるさ……」
 色々な場所を飛び回って商売をする両親の移動方法が分かったが、俺には到底できる気がしない。きっと何かほかに方法があるはずだし、俺はコツコツ日々の勉強に励みつつ、学生生活を楽しもう。
 
 まあ結局両親のような商人になるためにはぶっ飛んだ力が必要だったし俺もヘイアン家に生まれた時点で一般人ではないということに気づいたのはかなーり先のことだった。
 うん、俺は悪くないもんね。周りがチートなのが悪いんだ……。
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