俺はただ怪しい商人でいたかっただけ

みるこ

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第二章

転生チートとやらは期待できなかった

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「ねえ、待ってこれほんとに入学してすぐやる勉強? 理解できる未来が見えないんだけど」
「一番上のクラスだからね……内容もそれ相応なんだよきっと」
「オレ、すぐいなくなるかも……」
「そんなこと言わないで一緒にがんばろ?」
「「うぅ……」」
 特に迷うこともなく教室移動を済ませた俺たちは、二時限目の魔法語学基礎のガイダンスを受けていた。初回だからか教科書を本格的に使うことはなく、担当の先生から簡単な自己紹介の後プリントが配られた。

「さて、プリントの内容は理解できたかな? 君たちはルーナクラス。三クラスある中でトップの成績を求められることになる。中には既に私が担当する部分を学習済みの子もいるだろうが、復習だと思って授業に臨んで欲しい」
 担当のレヴィア先生は、眼鏡をくいっとさせてそう言った。ルーカス先生に比べると厳格そうな先生だが、眼鏡仲間というところに親近感を覚える。
 ただ、授業内容は別だ。プリントに書かれている概要がまず難しい。これほんとに初等部向けか? というくらい難しい。その下の方には各回の具体的な学習内容や、試験に関して書いてある。え、俺、すぐルーナクラスから落ちるのでは?

「では簡単に各回で学ぶ内容に関して説明していく。まず初回、これは今行っているガイダンスにあたる。そのプリントにも書いてあるが、今回は授業の内容や二回行われる試験に関して、授業を受けるうえでの注意点や魔法語学というものが一体何なのかということを説明していくので、必要だと思われるところはメモを取るように」
 そう言うとレヴィア先生はどこからか指示棒のようなものを取り出した。それで大きな黒板を二回ほど叩くと、じわぁっと見慣れない文字が浮かび上がってきた。なんだか五十音の表のように見える。
「これは今期の授業で扱う文字の一覧だ。魔法語学はまずこの基本文字の形や意味、成り立ちに関して学ぶ。そうしてやっと実践的な内容に入ることができるわけだ」
 そう言うともう一度黒板を叩いた。今度は文字の一覧の横の方に方程式のようなものが出てきた。
「これは魔法式。基礎の段階では極々簡単なものを学ぶが、これは文字と文字が結びつくことでどういった意味を持つのかを表している。例えば、この魔法式には火を表す文字が二つ使われている」
 そう言って懐から何か紙切れのようなものを取り出した。
「これはこの魔法式を刻んだ紙だ。この作成方法は後々学習するので今はただ見ているだけで良い。さて、ここに魔力を流し込むと――」
 先生が指で魔法式とやらをなぞると、一瞬光った後大きな炎がぼうっと上がった。一番近くで見ていた生徒は思わず声を上げている。
「我々が行使する魔法は本来ならばその場限りのものだが、魔法語学を修めることでこうして魔法を保存することができるのだ。魔法を生業とする者には感覚派の者が多く、正直魔法語学まで究める人間は少ない。しかし、魔法を行使するうえで魔法語学の知識の有無はかなりのアドバンテージを産むだろう。ただ漠然としたイメージで魔法を行使する者より、早く、そして強い魔法を行使できるようになる」

 教室はいつになくシーンとしていた。キラキラ軍団や一部の生徒は落ち着き払っているが、多くの生徒は不安そうな顔をしている。
「文字やその意味、魔法式を覚えることは簡単だが、魔法式を刻むとなると話は別だ。まあ、君たちの様子を見るに既にその難しさや理由はよく理解していそうだがね」
「さて、このまま試験の内容も説明してしまおう。まず、君たちの担任からも説明はあったかもしれないが、二か月後の試験では魔法語学の簡単な歴史、文字の書き取りや意味を問う問題、あとはいくつかの魔法式を問う。最後の試験では、授業で扱うすべての魔法式の意味を問い、実際に式を刻み発動させるところまで行ってもらう」
「また、これは試験とは別だが、もし自分でオリジナルの魔法式を創り出し、刻み、発動まで行えた場合は、試験免除、成績は一番上の5を保証する」

 ……めっちゃ疲れた。え、普通さ、国語、算数、理科、とかそういうのじゃないの?
 あの後授業時間のギリギリまで先生はガイダンスを続けたのだが、もう既に心が折れそうだった。そもそも文字を覚えるのは簡単とか言ってたけど一文字一文字がありえない細かさだし、似てる文字も結構あるし、ひらがな五十音覚えるのとはわけがちがう。さらにその組合せや意味まで覚えなきゃいけないなんて……
「なんか既に疲れちゃったね……」
「ほんと……てか先生厳しそうだよな」
「ルーカス先生が言うには魔法語学基礎が特に難しいだけで他は算術とか歴史とか基本的な科目らしいけどね。他の科目も怖くなってきたよ僕」
「ハリマ君もシャルル君も理解できた? 俺先生が説明してる内容全然わからなかったんだけど」
「オレもダメだった。説明されればされるほど混乱するっていうか……」
「僕は家で少しだけやってた部分もあるけど正直自信は無いかな。今日だけで文字って言葉何回聞いたんだろって感じだよねぇ」
 俺たち3人は同時にため息を吐いてしまった。次の科目は算術、多分算数なのだが俺が知っているようなものなのか今から不安になってきた。
「リュヌ、魔法語学だめ?」
「今のところ希望ゼロだよ。そういうお前は余裕そうだなぁ」
 どんよりとした俺達を不思議そうに見てくるリヒトにそう返すと、どこか満足気な顔で俺の手を握ってきた。
「大丈夫、リュヌがダメでも僕がいる」
「そうかいそうかい……ま、ありがとなぁ」
 リヒトの頭をぽんぽん叩けば、むふーっとどや顔で俺の手を引っ張った。
「はいはい、そんな引っ張らなくてもちゃんと歩くよ」
「はは、リヒト君ってほんと頼もしいね」
「年下だとは思えねぇや」
 珍しくリヒトに先導される形で俺たちは次のクラスへ向かうのだった。

 結局、三時限目の算術も、四時限目の歴史も思っていたより難しくなさそうだった。あれだけ不安がっていたが、ルーカス先生の言っていた通りやっぱりレヴィア先生と魔法語学が例外だったらしい。ガイダンスは終始初等部らしい穏やかな空気感の中で進んでいった。まあ、俺は家で全然勉強をしてこなかった分、前世の記憶があるとはいえちゃんと努力しないとだめなのだが。前世持ち特有の知識チートのようなものには期待できなさそうだ。

「そうだ、この間にお昼済ませとくんだっけ?」
「そうだね。次の五時限目までは大体一時間くらいあるらしいから」
「じゃあ食堂行く?」
「……ハリマもシャルルも来るの?」
 四時限目の終わりから五時限目の間は長い休憩時間が設けられている。大体の生徒はこの時間でお昼を済ませるそうなので俺達も行こうと思ったのだが、リヒトが少し不機嫌になってしまった。
「リヒト君が良ければ……どうかな?」
「オレ、あんまし同世代の子と飯食ったことなくて……ダメかな?」
 俺がリヒトをたしなめる前にハリマ君とシャルル君が控えめに誘うと、少しぶっきらぼうに「良い」と一言返事をした。……え、俺より扱いうまいなこの二人。
「ありがとねハリマ君シャルル君。それじゃ行こうか」
 大丈夫だよと優しく返してくれた友人に感謝しつつ、俺達は食堂へ向かった。
 やはりお昼時だからか食堂内は人でごった返していたが、どうやらここで食べるだけでなくどこかへ持って行って食べても良いメニューがあるということで、俺達はそれぞれ好きな物を頼み学院内の庭園の方でランチにすることにした。
 サンドウィッチとかそういったものくらいしかないかなと思ったが、まさかのおにぎりセットというものがあったため思わずそれを頼んでしまった。ほんと、ファンタジーな世界観の中でこんなに馴染み深いものが食べられる環境に感謝だな。周りの光景とはかなりミスマッチだけど。

 うららかな日和に眠気を誘うようなそよ風が吹く中、俺たちは庭園に点在するがゼポでゆったりとランチタイムを楽しんでいた。なんだかんだ不機嫌そうだったリヒトもどこか楽しそうな表情を浮かべている。
「そういえばさ、レヴィア先生って何歳なんだろうな」
「あぁ、エルフの人って見た目と実年齢の差すごいもんね」

シャルル君がそう切り出すと、俺達はそれぞれレヴィア先生の年齢を予想し始めた。リヒトは食後ということもあってかうとうと船をこいでいる。
「150歳!」
「300歳!」
「え、500くらいかと思った」
 示し合わせたように俺たちは同時にそれぞれの予想を口にした。思ってたより二人とも若い(エルフの中では)予想だったことに面白さを覚えつつ、俺はリヒトにも聞いてみた。
「なあ、ちなみにリヒトは何歳だと思う?」
「ん、あれは1000はいってる。エルフはエルフでも長命の氏族に見られる雰囲気があるし」
「「「1000!?」」 
 ふわぁ~と大きなあくびをして勝手に俺の膝を使い始めたリヒトの発言に、俺達は驚きの声をあげた。エルフの見た目詐欺具合も恐ろしいが、なんでこいつはそんな他種族の事情に詳しいんだよ。
「うるさい」
「いやいやお前の言うことがまじだったらそりゃ大きい声も出るって」
「ほんとほんと。てかリヒト君ってなんでそんなこと知ってるんだ?」
「魔法語学もそうだけど、リヒト君もエルフ並みに見た目にそぐわない知識の持ち主だよねぇ」
 すごいすごいと、どこかキラキラした目でリヒトを見つめるハリマ君とシャルル君に、どこかむずがゆそうに身動ぎしたリヒトはそのまま飛び起きた。
「ハリマもシャルルも大げさ……ねえ、そろそろ移動した方が良いんじゃない」
 照れ隠しなのかぶっきらぼうにそう言うと、リヒトは先に校舎の方へ歩いて行った。
「あれ、絶対照れてるぞ」
「なんだかんだ可愛いところあるよな」
「不思議な子だよねリヒト君って」

 俺たちはそんな不思議な友人の背に向かっておーいと声をかけながら追いかける。
 次の授業は確か魔法と武術の実技科目だ。前世では考えられなかった科目を楽しみにしながらルンルンで歩みを進めた。
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