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第1章
2.
しおりを挟む「ほんとに来たんだ」
不意に声をかけられ、振り向いた。
「……呼び出しといて、それかよ」
そう言うと、三宅は笑いながらごめんといった。
彼の事を、生徒達はミケと呼ぶ。
小柄で中性的な雰囲気と、整った顔立ち。
そしてまるで雪のように白い肌。
彼の容姿は入学当初から相当目立っていた。
それはたぶん、男子校だからという理由だけではなかったと思う。
ところがそれから間もなくして、妙な噂が流れ始めた。
内容は低俗極まりないもので、誰にでもヤらせるだの教師とデキてるだの、本人を中傷するような内容が多かった。
そして最近では、ウリをやってるという疑惑まで持ち上がっていた。
ただ、その数々の噂にはっきりとした根拠があるわけではなかったらしい。
問題は、三宅自身がそれを否定しなかったことだ。
そのせいで、ますます彼は孤立するようになった。
三宅もまた顔に似合わず無愛想で、自ら生徒達と関わりを持とうとしなかった。
結果、彼はクラスでも浮きまくった存在らしい。
気ままで奔放で、群れようとはしないのにエサをあげればすり寄ってくる。
その愛くるしさの裏にある、したたかさといやらしさ。
まるで野良猫のようだと、誰かが言った。
つまり、ミケというあだ名には侮蔑の意も込められていた。
クラスも違うし話したのもこの前トイレで会った時が初めてだったけど、俺だってそのくらいのことは知っていた。
それぐらい、彼の存在は目立っていた。
「……で?なんの用だよ」
「あぁ、一応口止めしとこうかと思って」
例の噂は、事実だったらしい。
「………。そんなことかよ」
三宅はちょっと笑って、俺の隣りに立った。
「ノゾキじゃなかったんだ」
……失礼な奴だな
「興味ねぇな。……用がないなら帰る」
わざわざごめんね、と三宅。
……来るんじゃなかった
踵を返して、心からそう思った。
……あぁなんか、胸くそワリい…
「……なぁ、」
振り返って言う。
「お前、なんであんなことやってんの?」
「……興味ないんじゃなかったの?」
三宅がニヤニヤ笑いながら言う。
「ねぇけど」
「金が欲しいから」
あっさりと彼は答えた。
「……わざわざあんなとこでやる必要はないだろ。てゆうか、俺が言わなくてももう噂になってるし」
「多少の噂なら、いい宣伝になる」
……こいつバカじゃねぇの
金の為なら、なんでもアリか。
……サイテーだな
余程不快感をあらわにした顔をしていたのか、三宅は小さく吹き出した。
「あんた正直だね」
「………」
「じゃあね。もう話すこともないだろうけど」
彼はそう言うと、背を向けた。
夕陽があたる彼の背中は小さくて、どこか頼りなかった。
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