迷子猫(BL)

kotori

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第1章

19.海斗side

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「海斗」

その声にびくっとした。

振り返ると、やはりそこには彼女がいた。

「……美咲、」
「ごめん…迷惑だってわかってるんだけど…」

校門の前でずっと待ってたのか、制服姿の彼女の額には少し汗が滲んでいた。

「どうしても話を聞いて欲しくて」
「……悪いけど、俺ちょっと用が」

真っすぐに見つめてくるその瞳から目を逸らす。

「……お願い、ちょっとでいいから」

聞きたくなかった。

「時間ねぇから…また今度な、」
「待って!」

どんなにすげない態度をとっても、美咲は諦めようとしなかった。

「すぐ終わるから、ねえ海斗!」

つい苛々してしつけェんだよ、と強く言おうとした時だった。

「美咲ちゃんっ」

割って入ってきたのは、校門から飛び出してきた裕太だった。

「裕太くん…」
「………」
「ごめんね美咲ちゃん、こいつほんとに素直じゃなくてさあ」

はっはっはと笑いながら、そのまま背を向けようとしていた俺の肩を抱く。

「ほんとは海斗だってちゃんとわかってるから!なあ?」
「……おまえ、何言って…」

いいからいいから、と裕太は笑った。

「ちゃんと話をしなさいよ、二人で。いいねえ青春だよねえ!!」
「意味わかんねーし」
「わかろうとするな感じるんだ!!てゆうか空気を読め!!」

……いや、おい…

唖然としている俺の耳元で、もう絶対泣かせんなよと裕太が言う。

「じゃあ海斗、また明日な!!」

颯爽と校内へ戻っていく彼の後ろ姿を、呆然として見送った。

「………」
「………」

ぶっ、と先に吹きだしたのは美咲だった。

「……あいつまじワケわかんねー…」

続けて俺も吹きだした。



「裕太くんって、ほんとにいい人だね」

並んで歩きながら、美咲が言った。

「……バカだけどな」

隣りで笑っている彼女は、あいつの気持ちに気づいてるんだろうか。

「……ごめんね、無理言って。でもあたしどうしても、海斗に謝りたいことがあって」
「……謝るって」

……何を?

「……あの時のこと。ごめん、あたしもう全部知ってるの」
「………!」

立ち止まって、彼女を見た。

「あのひとの日記を読んだの。そこに全部書いてあった」

一瞬、目の前が真っ暗になった。
背中を冷たい汗が伝う。
絶対に、知られたくなかった。
それは、あってはならない過去。

「……みさ、」
「すごいショックだった。裏切られたんだって思って、許せなかった」

美咲が目を伏せる。

「あのひとのことも、海斗のことも、本気で恨んだよ」
「………」
「でも…時間が経ったら冷静に考えられるようになって、わかった。海斗、あのあとわざとあたしを避けてたじゃん?」

極力話さないように、目も合わせないようにして。

「あたし理由がわかんなくて、辛かったけど…海斗はもっと辛かったんだよね。あのことを絶対気づかれないように、あたしが傷つかないように、そうしたんだよね」

震える声。

「海斗はなんにも悪くないよ。それだけ、伝えたかった」

赤い目をした美咲を見た時、胸が潰れそうに痛んだ。

「気づいてあげられなくて、ごめんね」

泣きながら彼女は言った。

「信じてあげられなくて、ごめん…」


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