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第3章
1.海斗side
しおりを挟む――……特別
――……大切…
あの時ようやく俺は、本当の意味でミケと繋がることができたような気がした。
それが嬉しくてたまらなくて、有頂天になっていた。
だから次の日の朝、ミケの様子が少しおかしかった事にも全く気づかなかった。
学校に行く途中、携帯の着歴に美咲の番号が残ってる事には気づいたけど、後でいいやと思ってつい忘れてしまった。
そして俺はその事を、後で死ぬほど後悔することになる。
「寺嶋くん、なんだか今日元気だね」
「え、そっすか?」
「うん、イキイキしてる」
春日さんが笑いながら言った。
「なんかいい事、あったの?」
「いや、別に…」
あったけど。
あー、早くバイト終わんねーかな…。
「……寺嶋くん、」
「ハイ?」
「実は、ちょっと話があるんだけど…」
「なんすか?」
呑気に返すと、春日さんは少し口ごもった。
「……ここじゃ、ちょっと…。今日終わってから、少し時間貰えないかな?」
「別にいいっすけど…」
じゃあ駅前のスタバで待ってて、と彼女は言うと、フロントを出ていく。
「……?」
「……なになになに、新展開~?」
ぎょっとして振り返ると、いつの間にか背後にいた上原にがしっと肩を抱かれた。
「いや、話があるって言われただけっすよ?」
「そんなんおまえ、告られるに決まってんだろ」
「はぁ?」
「で、どうすんの?」
上原がニヤニヤ笑いながら言う。
「どうすんのって…」
どうもこうも…。
「おまえ彼女いるんだよな?どっち取るんだよ」
「どっちって、」
「二股はやめとけよ?あのテの女は案外、執念深いから」
「いや、だから…ってゆうか、経験あるんすか?」
「刺されそうになった。三回くらい」
「……誰に?」
「今のオンナ」
「……マジっすか」
じゃあ俺休憩入るからー、と上原は笑顔で去っていく。
……いろいろすげーな、あの人も…
一人フロントに残された俺は、伝票を捲りながら小さな溜め息を吐いた。
二時間後。
俺はス○バの外で、春日さんを待っていた。
同じ時間にあがっても男と女じゃ支度にかかる時間が違うらしく、彼女は二十分ほど遅れて姿を現した。
店の制服を着てない春日さんは雰囲気が全然違って、手を振られるまで気づかなかった。
薄手のジャケットに淡い花柄のワンピース、華奢なサンダル。
いつもきっちりと束ねられた髪はおろされている。
「ごめんね、遅くなって」
「……いえ、全然」
「暑いよね。なか、入ろっか」
「……ハイ」
ふわりと漂う香水の匂いに、ドキドキしなかったと言えば嘘になる。
いや勿論、ミケに対するソレとは別だ。
これは断じて浮気じゃない、男の生理的な(?)アレだ。
「あたしモカで。寺嶋くんは?待たせたお詫びに奢るから」
「いやいいっすよ、そんな」
「誘ったのあたしだし。遠慮しないで?」
春日さんはにっこりと笑って言った。
上原のにやけた顔が頭のなかをチラつく。
……いやいやいや
それはねぇよ、年上が好きって言ってたし…ってゆうかそれ言ったのって誰だっけ?
「……ごめんね、突然」
「いえ…」
「店ではどうしても、話しにくくて…」
向かい側の席に座った春日さんは、伏し目がちに言った。
……やばい、緊張してきた…
「こんな事いきなり言われても、寺嶋くんが困るってわかってるんだけど…でもどうしても、聞いて欲しくて」
……まじかよ、おい…
信じられない思いで、心なしか頬を赤く染めている彼女を見た。
……待て待て待て、何考えてんだ俺にはミケがいるだろーが…。……いやでも、こんなキレイな人に告られて喜ばない男はいねーだろ…
「……実はね、気づいてなかったと思うけど…」
春日さんは俯きながら言った。
「……あたし、好きなんだよね」
「……!!」
「上原のこと…」
「……?!」
……はい?
彼女の顔がみるみる赤くなっていく様子を、俺はぽかんとして見ていた。
「……誰にも相談できなくて…」
「………」
「でも寺嶋くん、仲いいじゃない?あいつと。だから…」
「………」
確かに、告られても困るけど。
でもなんでよりによって、上原…。
恥ずかしそうに目を逸らす春日さんの前で、大きな安堵と小さな落胆を隠せない俺がいた…。
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