迷子猫(BL)

kotori

文字の大きさ
52 / 78
第4章

8.ミケside

しおりを挟む
 
これまで俺は、あまり他人と関わらないようにして生きてきた。

なんだかそういうのって煩わしいだけで、必要性を感じられなかったっていうか。
だから休みの日にみんなで遊びに行くなんて、自分には一生縁がない事だと思ってた。

砂浜が熱いなんて、知らなかった。
海で泳ぐことが、あんなに気持ちいいとは思わなかった。
青空の下、みんなで遊んで。
焼きそばやかき氷を食べたりして。

――ねぇ、写真撮ろうよ!

――え、なんで?

――なんでって、記念よ。はい、並んで!

可奈さんはいつも通り元気だったし。

――ほら二人とも、笑って

ユカリさんも楽しそうだった。

そして時間はあっという間に過ぎていって。
海に夕陽が沈んでいくのを見てあぁ、これが゙思い出゙になるんだと思った。

――あんたと一緒に、来れてよかった

帰り際、少し名残惜しい気持ちでそう言うと海斗は笑った。

――また来ような

その時繋がれた手はとてもあたたかくて。
なんだか俺は、とても満ちたりた気持ちになった。





「三宅、」

河西に呼び止められたのは、補習の最終日だった。

「進路の事で話があるから、残ってるように」
「……はい」

教室には他の生徒もいたので無視するわけにもいかず、帰る支度をしていた俺は仕方がなく返事をした。



「じゃあ先生、いい夏を!」
「お世話になりましたーっ」

ようやく勉強から解放された生徒達が、嬉々として教室を出ていく。
あんまりハメ外すなよー、と河西は彼らに声をかけた。

「……担任でもないのに、俺の進路の心配してくれんの?」

二人きりになってから嫌味っぽく尋ねると、勿論と彼は笑った。

「教師が生徒を心配するのは、当然だろ」

……白々しいんだよ

「……で、なに?話って」

早く話を終わらせたくて、そう促した。

「寺嶋、バイトしてるだろ。おまえの為に」

驚いて彼を見た。

「この前偶然、その場に居合わせた。なんかいろいろ、青くさいこと言ってたよ」
「………、」

動揺している俺を見て、河西は笑みを浮かべる。

「あいつ本気みたいだな、おまえのこと」
「……あんたには、関係ないだろ」
「そうだな。でもあいつ、俺たちの事を知ったら驚くだろうな」

教壇に寄り掛りながら、河西は俺を見た。

「それともいっそ、学校にバラしてみるか?」

唖然として、彼を見た。

「……っ、そんな事したら、あんただって」
「クビだろうな。でも、おまえもここにいられなくなる」

……こいつ、なに考えて…

「それに寺嶋も。おまえに関わった奴は全員だ」

がたん、と勢いよく立ち上がった。

「……あいつは、関係ない」
「関係なくはないだろ。それにおまえが窮地に立たされたら、あいつは黙ってないだろうし」
「……っ」

憎悪に近い感情が、自分のなかに芽生えた。
握りしめた拳が震える。

「……冗談だ」

河西が笑う。

「俺だって、こんなことで自滅する気なんてないさ。……だけど方法なら、いくらでもあるってことだ」

不意に伸びてきた手が首筋に触れる。
それを振り払い、俺は鞄を掴むと教室を出た。



学校を出ると、河川敷まで走った。

「……っ」

肩で息をしながら、川べりの小さな木の下に座り込む。
そして川面に反射する陽の光に目を細めた。



汚いと思ったと、あの時海斗は言った。
どんな理由があるにせよ、友達の母親と関係を持ってしまった自分が許せなかったと。

……だったら、俺は?

「………」

本当に汚れてるのはあいつじゃない。
その時俺は初めて、今まで自分がしてきた事を後悔した。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

彼は当て馬だから

藤木みを
BL
BLです。現代設定です。 主人公(受け):ユキ 攻め:ハルト

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】

まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

処理中です...