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第4章
13.海斗side
しおりを挟む雨の勢いは増す一方だった。
滴り落ちる雫が目に入り、視界がボヤける。
美咲の行方なんて、実際見当もつかなかった。
中学の頃ならともかく、よく行く場所も仲のいい友達も、もう知らない。
それでもじっとなんかしていられなかった。
……最低だ、俺
最近、何度か掛かってきていた電話。
掛けなおすことだってできたはずなのに、俺は自分のことばかり考えていて。
彼女のことは、祐太と上手くいってるならまぁ大丈夫だろ、くらいにしか考えてなかったような気がする。
あの時のことを知ってるのは…話を聞いてあげられるのは、自分しかいなかったのに。
他人に打ち明けることなんて、出来ないに決まってるのに。
自分が、そうだったように。
……なにが幸せになって欲しいだよ
繋がらない電話を握りしめ、都合がいいことばかり考えていた自分に本気で腹が立った。
おぼろげな記憶を頼りに、なんとか彼女の家に辿り着いた。
部屋の灯りも、門灯も点いてない。
インターホンを鳴らしてみたけど、やはり応答はなかった。
暗闇のなかに浮びあがる、白い外壁。
見覚えのある玄関も、ちょっとした庭も、そこに置いてある自転車も。
あの頃と何も変わってないように見える。
そして自然に、目が二階へと向いた。
――二階の、一番奥の部屋よ
どんなに忘れたくても忘れられなかったあの女の声が、頭のなかで響く。
「……っ、」
吐き気がこみあげてきて、目を逸らした。
今は…それどころじゃない。
かぶりを振って、あいつが行きそうな場所を考えた。
と、その時――
手のなかで、電話が震えた。
住宅街の外れにある小さな児童公園。
そこは中学の頃、よく塾の帰りに寄り道をした場所だった。
「……美咲っ、」
一つしかない街灯の光を頼りに目を凝らして辺りを見回すが、人がいる気配はない。
キイ、とかすかな音がして振り返ると、無人のブランコが風で揺れていた。
――……海斗?
電話口で聞いた、彼女の声を思い出す。
――美咲っ、おまえ、今どこに
――………
――……美咲?
――……ねえ海斗、あたし…
どうすればいいのかな、と今にも消え入りそうな声で彼女は言った。
――どうすればよかったのかな
「……美咲っ!!」
公園の中を歩きまわりながら彼女を呼ぶその声は、雨の音にかき消される。
「どこにいんだよ…っ」
その時、背後でぱしゃんと水が跳ねる音がした。
「……海斗?」
振り返ると、そこには自分と同じようにびしょ濡れの格好をした彼女が立っていた。
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