迷子猫(BL)

kotori

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第5章

1.海斗side

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「ここ、前によく来てたよね」

美咲が言う。

「コンビニで、アイスとか肉まん買って」

公園の隅にある小さなベンチに二人は座っていた。
そこには屋根があったので、少しは雨も凌げる。

「……懐かしいね」
「……美咲、」
「海斗のせいじゃないよ」

目を細めながら言う。

「あの時の事とは、なんの関係もないから。なのにごめんね、電話なんかして…」



数週間前、美咲の母親が急にいなくなった。
前にも何度かそういうことはあったらしいが、その時はいつもと様子が違っていたらしい。

「ちょっと動揺してて…。他に相談できる人がいなくて…」

そして今朝、都内のホテルの一室で母親は見つかった。

「でも命に別状はないって、言ってたから」
「……けど、なんで…そんな…」

無理心中、なんて。

「………。きっと、あたしのことが許せなかったんだよ」

知ってるんでしょ?と美咲は言った。

「あの家で何があったか、あの人から聞いたんでしょ?」
「………」

俺は何も答えられなかった。



「……ごめんね。もう関わりたくないよね、こんな事…」

そう言って、美咲はふらりと立ちあがる。
服の袖からぽたぽたと水滴が落ちた。

「……ねぇ海斗、あたしは…どうすればよかったのかな…」

どうしてこんなことになってしまったのか。
そこには俺が知ってる、いつも楽しそうに笑っていた彼女はもういなかった。

「……ごめん」
「……なんで、謝るの?」

掴んだ細い手首に残る、数本の赤い筋。
あの時俺が、逃げなかったら。
本当に辛い時に傍にいてあげられたら。
彼女を守る、その覚悟があったなら。

「なんで、泣くの?」

彼女がここまで追い詰められることは、なかったのかもしれないのに。


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