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第5章
2.
しおりを挟む「……なんだか、閉じ込められてるみたいだね」
視界を遮るように降り続ける雨を、ぼんやりと眺めながら美咲は言った。
寒くないかと訊ねると、平気だと答える。
けれど繋いだ手は震えていて、それは俺も同じで。
「ずっと、夜が続けばいいのに」
そんな美咲は呟きは、雨音のなかに消えていった。
雨は、明け方になってようやく止んだ。
早朝の公園は静かで、青白かった。
「……海斗、」
「……ん、」
「来てくれてありがとう。もう平気だから」
彼女はそう言って立ち上がった。
ずっと繋がれていた手が、はなれる。
「……一緒に行くよ、」
そう言うと美咲は首を振った。
「大丈夫だから」
「……だけど、」
「……あたしね、ほんとはわかってて電話したんだ。海斗なら絶対来てくれるって…最低でしょ?巻き込みたくないとか言って、こんな…」
「美咲…」
「もう嫌だったの。何も考えたくなかった。全部捨てて逃げたいって思った」
「………」
「そんなこと、できるわけないのにね」
彼女は小さく笑った。
いくら現実から目を逸らしたところで、何も変わらない。
そして逃げれば逃げるほど辛くなることを、知っているから。
「やっぱり、一緒に行こう」
そう言って、彼女の前に立つ。
それはただの自己満足なのかもしれない。
あの時彼女を助けられなかったことに対する罪悪感から、逃れたいだけなのかもしれないけど。
「………」
こつん、と小さな額が胸に当たった。
そのまま肩を震わせて泣きだした彼女は、今にも壊れてしまいそうで。
そんな彼女をいま支えられるのは、自分しかいないと思った。
泣いている彼女の背中に、腕をまわそうとしてやめた。
「……俺さ、大切な奴がいるんだ」
今言うべきことなのか、迷ったけど。
少しずつ明るくなっていく空を見上げながら続けた。
「あの時のこと、話したよ。そしたらそいつ、俺の為に泣いてくれた」
そして何も言わずに、抱きしめてくれた。
「そいつもいろいろ抱えててさ、俺もどうすればいいのかわかんねぇことばっかだけど」
悩んだり、間違えたりすることもあるけど。
それでも一緒にいるって決めたから。
「俺はもう逃げたくない。そいつの為にも」
こんな自分達を、大切に思ってくれる人たちの為にも。
強くなりたいと思う。
「美咲」
そっと手を握る。
「一緒に、乗り越えよう」
簡単じゃないことはわかってる。
怖くないと言ったら、嘘になる。
現実は自分が思っているよりも遥かに残酷で、報われないのかもしれない。
だけど明けない夜はないように。
壊せない壁はないように。
今は手探りで迷ってばかりでも、目を逸らさなければ、信じていればいつか、答えを見つけられるはずだから。
それぞれの過去と向き合って、ひとつひとつ乗り越えて。
そして今を、生きていく。
総てはきっと、そこから始まる。
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