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第5章
3.ミケside
しおりを挟む窓の外が少しずつ明るくなっていくのを、床に座ったままぼんやりと眺めた。
冷たくて、静かな夜明け。
テーブルに置いてある灰皿は、海斗が持ってきたものだ。
部屋に匂いがつくから外で吸えなんて文句を言いながらも、俺はあいつが煙草を吸う仕草が好きだった。
煙草を吸う時、あいつはいつもどこか遠くを眺めていて。
俺の知らない何かを見ていて。
俺の視線に気づくとあいつは笑って、どうした?って訊く。
その優しい表情(かお)を見るたびに、なんだか胸がきゅっとなった。
――ミケ、
俺を呼ぶその声は、その姿は、もう俺のなかに灼きついてしまっていて。
ほんの些細なことで、嬉しくなったり悲しくなったり。
気持ちが伝わらないことに苛立って、そんな自分に腹がたったり。
誰かを大切だと思うこと。
誰かを信じること。
いとおしさと共にあるせつなさ。
ただ傍にいるだけで、感じるぬくもり。
それを俺に教えてくれたのは、海斗だった。
だけど知らなければ。
この胸を抉られるような痛みを覚えることも、なかったのかもしれない。
鳴らない電話と、明けゆく空と。
俺はあいつの気配が残る薄暗い部屋のなかで、ただ静かに涙をながした。
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