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第5章
4.
しおりを挟む蝉の鳴き声がする。
どれくらい時間がたったのかわからない。
気づいたら、外はいつの間にか晴れていた。
窓を開けると、熱のこもった不快な湿気が部屋のなかに侵入してくる。
「………」
冷蔵庫の中には食べ物しかなかった。
食欲は無かったけど喉が渇いたので、仕方なくコンビニに行くことにした。
太陽が、眩しい。
河川敷を歩いている途中、ぼんやりしていたせいか何度も転びそうになった。
容赦なく照りつける、夏の日差し。
ゆらゆらと揺れる陽炎。
歪んでいく白っぽい景色。
ここに来ると思い出すのは、あの日の綺麗な夕焼け空。
――もう、どこにもいくな
あの時そう言ったのは、あいつなのに。
ずっと傍にいるって、約束したのに。
……蜃気楼って、遠くのものが近くに見えるんだっけ…
ぼんやりとそんなことを考えていると、目の前にちかちかと黒い斑点があらわれた。
古い映画のフィルムに映るようなそれは、瞬く間に視界を覆っていく。
なんだか息が、くるしい。
「……三宅?」
「………」
その懐かしい声に応える間もなく。
俺は真っ暗になった世界で、自分の倒れる音を聞いた。
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