迷子猫(2)

kotori

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第1章

7.

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その日は珍しく接待もなく、定時に仕事が終わった。
たぶん今月に入って初めてだ。
早速帰る支度をしていると、真田に声を掛けられた。

「寺嶋くん、帰るの?さっき佐々木さん達が飲みに行くって…」
「今日はパス!わりぃんだけど、なんか上手い事言っといてくれる?」

こんなに早く帰れる日は滅多にないし、久しぶりにミケと夕飯を食べたかった。

「いいけど…、一緒に行きたかったな。寺嶋くん、盛り上げるの上手いし」
「え、おまえ行かないの?」

横から口を挟んできたのは佐々木さんだ。

「あ、もしかしてデートか?てかおまえ、彼女いんの?」
「や、彼女ってゆうか…」
「えー、そうなんだ?」

真田が驚いた顔をする。

「知らなかった、寺嶋くん全然そういう話しないし」
「まぁ、そういう理由なら無理に付き合わせらんねぇな」

うんうんと訳知り顔で佐々木さんが頷く。

……んー…まぁいっか…

曖昧に笑って流すと、お疲れっしたと言って席を立った。



帰る途中、何かおみやげを買う事を思いついてデパ地下に寄った。
ミケは甘いものが好きだ。
だけど、自分で買おうとはしない。

――だって男がそういうお店に入るのって、なんか恥ずかしいじゃん

前にそんな事を言ってたけど、俺は大して気にならない。
とゆうか、ミケの喜ぶ顔が見られるならどうでもいい。

苺が沢山のったショートケーキと人気だというチーズケーキ、それと小さなチョコムースを選ぶ。
混んでいる電車の中でもなんとかそれだけは守りぬいて帰ってくると、部屋の灯りがついてなかった。

「ミケー?」

ミケの会社は羨ましい事に滅多に残業がないので、この時間にはもう帰ってきてるはずだった。
不思議に思いつつ携帯を見ると、LINEが一件。

『ごめん、職場の人とご飯食べに行ってくる』

ミケが外で食べてくるなんて、珍しいことだった。
しかも職場の人と。
忘年会や新年会に出席する事さえ嫌がってたのに、どういう風の吹きまわしだろう。
冷蔵庫にケーキをしまい、缶ビールを出すとソファーに座った。

……まぁ、でも

あいつにとっては、いい事なのかもしれない。
今まで職場の人の話を聞く事が殆どなかったので、少し心配だったのだ。

「………」

ミケは泣き言を言わないし、悩んでる素振りも見せない。
だけど気づいていた。
それでも何も言わなかったのは、見守るべきだと思ったから。
ミケもそれを望んでるような気がしたから。
だけど本当に無理な時は、いつでも受けとめられるようにしておこうと思っていた。

……頼られないのは、少し寂しい気もするけど

でもそれは俺の我儘だ。
普段は俺がいない事の方が圧倒的に多いし、それですれ違う日々が続いてもミケは文句一つ言わずここで待っていてくれている。



同棲を始めて二年。

幸せな日々は続いている。
たまにつまらない事でケンカしたり意見が食い違う事もあるけど、そういう時は時間をかけて話し合って、それでも解決しない場合はユカリさん達に相談して。
あの二人には相変わらずお世話になっている。

――ひとは信じられるものがあるから強くなれるの

いつか聞いた言葉をぼんやりと思い出した。

……少しは強くなれたのかな、

俺も、ミケも。

そんな事を考えながら、俺はいつの間にか眠っていた。


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