迷子猫(2)

kotori

文字の大きさ
16 / 41
第1章

16.

しおりを挟む
 
……毎日俺の為に飯を作って…ってなんだよそれ、プロポーズかよ

仕事中に海斗の言葉を思い出して、つい笑ってしまった。
声が出てなかったから誰にも気づかれなかったものの、慌てて表情を引き締める。

いつか小さな家を建てたい。
人が聞いたら平凡だと笑うかもしれないそれは、夢というより憧れだった。
明るくてゆったりとした、家族が幸福な時間をすごせる家を作りたい。
子どもの頃の自分にとって、"家"は"家庭"の象徴だった。



「はい、これ」
「ありがとうございます」

差し出された書類を受け取ると、何やら視線を感じて顔をあげた。

「……ミケちゃんってさぁ、肌つるっつるだねー」
「は?」
「あー、あたしもそれ思ってた!まつげも超長いしさー」

隣りのデスクで入力作業をしていた松田さんが、笑いながら言う。

「絶対女装とか似合うよね」
「普通にうちらより可愛い気がする」
「……いやいやいや、」

思わず苦笑いを浮かべる。

「てゆうかあたし三宅くんとなら、一緒にお風呂入れそうな気がするし」
「やだぁ、何言って…ってミケちゃん顔赤くなってるし!かわいーー」
「ちょ…、やめてくださいって」

例の居酒屋の一件があってから、同じ部署の女の人たちとよく話す(というか絡まれる)ようになった。
とはいっても殆ど彼女たちが一方的に話すし、俺はそんなに喋らなくてもいいから大して困らないけど。

むしろ大変なのは男の方だ。
これまで殆ど関わる事はなかったのに、女子社員と仲良く?なった途端、飲み会や合コンのセッティングをさせられるようになった。
更には気になる子に彼氏がいるのか確認して欲しい、好みのタイプを訊いて欲しいなどと頼まれる事もある。

なんだか変な意味で、俺はこの部署に馴染みつつあった。
と、その時。

「三宅、資料は出来たのか?」
「すみません、すぐ持っていきます」

慌てて席を立つと、後で一緒にランチしよーね、という誘いに取り敢えず笑顔をかえした。



「遅くなりました」

書類を渡すと同時に舌打ちされる。

「急いでんだよ、こっちは」
「……すみません」

いやそれ昼までにって言ったじゃん…と思ったけど言わない。

「仕事もマトモに出来ねぇくせに、ヘラヘラしてんじゃねぇよ」
「はい…」

誰にでも苦手なタイプはいる。
俺の場合、彼がまさにそうだった。
林さんはこの課で、華原さんの次に発言力がある。
ただ気が短くて、いつも苛々しては部下にあたるのであまり人気はなかったが。
あいつエラソーでまじムカつくし、と松田さん達が言ってたのを聞いた事もある。
説教なのか嫌味なのかよくわからない話を聞いていると、お疲れ様ですーという声が聞こえた。

「おう、おつかれ。いやー参った、プレゼン予想以上に長引いちゃってさ。麻里ちゃん、悪いんだけどお茶淹れてくれる?」
「はい」

……苦手なタイプ、その2…

華原さんは別に苦手というわけではないけど…エレベーターで衝撃的事実(とゆうか失態)を聞かされて以来、まともに顔も見られない。

「おい、聞いてんのか?」
「あ、はい」

はっと我にかえると、どさりと分厚いファイルを手渡された。

「これ、整理して入力して出力して人数分コピーしといて。明日の朝まで」
「はい…って、」

……これ全部かよ?!

「なんか問題あるか?」
「……いえ、」

これはもうランチなんかしてる場合じゃない…てゆうか今日中に帰れるのか…?

働くって大変だな…と今更ながら痛感しつつ、俺は引きつった笑顔を浮かべた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

シスルの花束を

碧月 晶
BL
年下俺様モデル×年上訳あり青年 ~人物紹介~ ○氷室 三門(ひむろ みかど) ・攻め(主人公) ・23歳、身長178cm ・モデル ・俺様な性格、短気 ・訳あって、雨月の所に転がり込んだ ○寒河江 雨月(さがえ うげつ) ・受け ・26歳、身長170cm ・常に無表情で、人形のように顔が整っている ・童顔 ※作中に英会話が出てきますが、翻訳アプリで訳したため正しいとは限りません。 ※濡れ場があるシーンはタイトルに*マークが付きます。 ※基本、三門視点で進みます。 ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

処理中です...