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第1章
16.
しおりを挟む……毎日俺の為に飯を作って…ってなんだよそれ、プロポーズかよ
仕事中に海斗の言葉を思い出して、つい笑ってしまった。
声が出てなかったから誰にも気づかれなかったものの、慌てて表情を引き締める。
いつか小さな家を建てたい。
人が聞いたら平凡だと笑うかもしれないそれは、夢というより憧れだった。
明るくてゆったりとした、家族が幸福な時間をすごせる家を作りたい。
子どもの頃の自分にとって、"家"は"家庭"の象徴だった。
「はい、これ」
「ありがとうございます」
差し出された書類を受け取ると、何やら視線を感じて顔をあげた。
「……ミケちゃんってさぁ、肌つるっつるだねー」
「は?」
「あー、あたしもそれ思ってた!まつげも超長いしさー」
隣りのデスクで入力作業をしていた松田さんが、笑いながら言う。
「絶対女装とか似合うよね」
「普通にうちらより可愛い気がする」
「……いやいやいや、」
思わず苦笑いを浮かべる。
「てゆうかあたし三宅くんとなら、一緒にお風呂入れそうな気がするし」
「やだぁ、何言って…ってミケちゃん顔赤くなってるし!かわいーー」
「ちょ…、やめてくださいって」
例の居酒屋の一件があってから、同じ部署の女の人たちとよく話す(というか絡まれる)ようになった。
とはいっても殆ど彼女たちが一方的に話すし、俺はそんなに喋らなくてもいいから大して困らないけど。
むしろ大変なのは男の方だ。
これまで殆ど関わる事はなかったのに、女子社員と仲良く?なった途端、飲み会や合コンのセッティングをさせられるようになった。
更には気になる子に彼氏がいるのか確認して欲しい、好みのタイプを訊いて欲しいなどと頼まれる事もある。
なんだか変な意味で、俺はこの部署に馴染みつつあった。
と、その時。
「三宅、資料は出来たのか?」
「すみません、すぐ持っていきます」
慌てて席を立つと、後で一緒にランチしよーね、という誘いに取り敢えず笑顔をかえした。
「遅くなりました」
書類を渡すと同時に舌打ちされる。
「急いでんだよ、こっちは」
「……すみません」
いやそれ昼までにって言ったじゃん…と思ったけど言わない。
「仕事もマトモに出来ねぇくせに、ヘラヘラしてんじゃねぇよ」
「はい…」
誰にでも苦手なタイプはいる。
俺の場合、彼がまさにそうだった。
林さんはこの課で、華原さんの次に発言力がある。
ただ気が短くて、いつも苛々しては部下にあたるのであまり人気はなかったが。
あいつエラソーでまじムカつくし、と松田さん達が言ってたのを聞いた事もある。
説教なのか嫌味なのかよくわからない話を聞いていると、お疲れ様ですーという声が聞こえた。
「おう、おつかれ。いやー参った、プレゼン予想以上に長引いちゃってさ。麻里ちゃん、悪いんだけどお茶淹れてくれる?」
「はい」
……苦手なタイプ、その2…
華原さんは別に苦手というわけではないけど…エレベーターで衝撃的事実(とゆうか失態)を聞かされて以来、まともに顔も見られない。
「おい、聞いてんのか?」
「あ、はい」
はっと我にかえると、どさりと分厚いファイルを手渡された。
「これ、整理して入力して出力して人数分コピーしといて。明日の朝まで」
「はい…って、」
……これ全部かよ?!
「なんか問題あるか?」
「……いえ、」
これはもうランチなんかしてる場合じゃない…てゆうか今日中に帰れるのか…?
働くって大変だな…と今更ながら痛感しつつ、俺は引きつった笑顔を浮かべた。
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