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第1章
17.
しおりを挟むという訳で、午後十一時。
俺は一人会社に残って、仕事をしていた。
ようやくまとまった資料をコピーしながら、ホッチキスで綴じていく。
……あの野郎…
林さんは何かにつけ、嫌がらせのような雑務を大量に押しつけてくる。
……俺、あの人になんかしたっけ…
ぼんやりと考えていると、ドアが開く音がした。
「なんだ、まだ残ってたのか」
部屋に入ってきたのは華原さんだった。
その姿を見て内心げっ、と思いながらもなんとか笑顔をつくる。
「お疲れさまです」
「お疲れ」
華原さんは自分のデスクに鞄を置き、ネクタイを緩める。
「接待ですか」
「おう。さっき終わったんだけどな、仕事が残ってたのを思い出して…って、おまえそれ、一人でやってんのか?」
視線の先には、山の様に積まれた書類の束。
「いえ、さっきまで松田さん達に手伝って貰ってたんですけど…もう遅いし、先に帰ってもらいました」
「そうか…。あとどれくらい残ってる?手伝おうか」
「いえ、大丈夫です。もう少しですから」
とゆうかこんな雑用で、彼の手を煩わせるわけにはいかない。
「それでも二人でやった方が早いだろ」
「本当に大丈夫です。それに室長、まだ仕事が残ってるって…」
「俺のは家に持ってかえれるから」
華原さんはそう言うと、近くのデスクからホッチキスを持ってくる。
「すみません…」
「いいって」
彼のこういうところが、部下から慕われる一因なんだろう。
……きっと女の人にもモテるんだろうな、この人…
だって、文句のつけようがない。
「三宅は、努力家だな」
「……え、」
「一人で出来る量じゃないだろ、これ。前も何度かあったよな。だけど文句も言わずにやってくれるし」
「……いえ、単に俺の仕事が遅いだけなので」
前に食事をした時も、彼は俺のことを誉めてくれた。
人格についてはだいぶ過大評価されているみたいだったけど、自分の仕事をちゃんと見てくれてる事が素直に嬉しかった。
「最近は課の連中とも上手くやってるみたいだし…安心した」
「……すみません、気を遣って頂いて」
「そう他人行儀になるなって」
華原さんは笑った。
「なぁ三宅、おまえはなんの為に働いてるんだ?」
「……え、」
「自分の為だろ?」
コピー機とホッチキスの音に混じって、彼の言葉を聞く。
「みんなそうだ。だけどそれは一緒に働く仲間の為でもあって、結果的に会社の為になるんだ」
「………。でも俺は、」
正直、仲間とか会社とかそういうのはどうでもよくて。
ここで働いてるのは給料が貰えるからで、それで今の生活が出来るからで。
「……そのうちわかるさ、おまえにも」
ところで訊きたいことがあったんだど、と華原さんは言った。
「三宅の同居人、名前はなんていうんだ?」
「寺嶋…ですけど」
「いや、下の名前」
「海斗です。寺嶋海斗」
すると華原さんは手を止めて、ふうんと言った。
「あの…?」
「この前タクシーの中で、呼んでたから」
「え」
思わず手に持っていた書類を落としてしまった。
「す、すみません」
慌ててそれを拾いながら謝る。
「その寺嶋くん…だっけ?」
拾うのを手伝ってくれながら、特に何でもないふうに華原さんは言った。
「本当に、ただの友達か?」
「………」
言葉が、出てこなかった。
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