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第2章
4.
しおりを挟む「あら?今日は、海斗くんだけ?」
ユカリさんは目を丸くして言った。
「あいつは仕事っす。髪、切ったんすね」
似合ってると言うと、彼女はビールを出してくれながら笑った。
「でしょー?気に入ってるの」
でも珍しいわね、とユカリさん。
「あの子、いっつも海斗が帰ってこないってグチってたのに」
「今は逆っすよ…あいつ最近、会社の女の子と飯食いに行ったりしてるし」
「あらあら。でもミケ、女の人に可愛がられそうだもんねぇ」
……上司からも気に入られてるみたいだしな、
「いいことなんすけどね…あいつ、あんま他人と関わろうとしないから」
煙草に火をつけながら言う。
「そうねぇ、あの子の場合はちょっと異常なくらいだから」
ユカリさんも煙草に火をつけた。
メンソールの匂いが辺りに漂う。
今夜は珍しくお客さんが少ないからか、いつもは騒がしくて殆ど聞こえないBGMが耳に入ってくる。
「……そういえば海斗くんさぁ、よくお土産にケーキ、買って帰るんだって?」
「よくっていうか、まぁたまに…。あいつ、好きみたいだし」
「あの子ね、ここで初めてケーキを食べたのよ」
「……え?」
ユカリさんはふーっと煙を吐き出した。
「この店に来るようになってしばらくした頃ね、誕生日だって言うから小さなケーキを出してあげたの。そしたらすごく喜んで。好きなのって訊いたらあの子、今まで食べたことがなかったって」
「………」
「だからね、今でも海斗くんがケーキを買ってくると、いつも嬉しそうに報告してる」
「……知らなかった」
ぽつりと呟く。
「その時思ったの。あぁ、この子は今までほんとに独りだったんだって」
海に行った事がない、花火大会に行った事がない。
学校でもいつも独りで。
「でも、あの子は海斗くんには心を開いた。私や可奈にも、ちゃんと話をしてくれるようになった。勿論それは、すごくいい事だと思うけど」
カラン、と手元のグラスの中で氷が音をたてる。
「そこはまだ“内側”でしょう?だから…あの子が今やっと“外側”の関係を作ろうとしてる事が、私は嬉しい」
ユカリさんはそう言って微笑んだ。
「ちょっと寂しいけとね」
人は人と出会い、多かれ少なかれ影響を受ける。
それは恋人や、気を許せる友人だったり。
共に働く仲間だったり、単なる知り合いだったり。
赤の他人ってこともあるだろうし、良い人ばかりとも限らないけど。
人は人と出会い、関わっていくことで自分が生きる世界を広げていく。
俺はミケの家族の事をあまり知らない。
何か複雑な事情がありそうだったけど、本人があきらかに話したくなさそうなので詳しく訊いた事もなかった。
知ってることといえば、父親が早くに亡くなって、母親は男と住んでいるということくらいで。
それもだいぶ前に聞いた話だ。
その時ミケは、母親が今どこにいるのかは知らないと言った。
そして今も、連絡を取っている様子はない。
「……ユカリさん、」
あいつの母親って、と言おうとしてやめた。
「昔のあいつって、どんなだった?」
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