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第3章
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しおりを挟む「……心配してたんじゃないか?」
運転席で華原さんが言った。
「……はい」
携帯の画面を閉じながら答える。
そして窓の外の景色を眺めながら、俺は何をしてるんだろうと思った。
あの後、華原さんにアパートまで送ってもらった。
だけど車から降りて部屋の灯りを見た途端、一歩も動けなくなった。
……どんな顔をすればいいんだろう、
俺がいつものように何事もなかったみたいに笑っても、海斗はきっと気づくだろう。
そして何があったんだって訊くだろう。
上手くごまかせる自信なんてなかった
ーー入らないのか、
車から出てきた華原さんが、茫然と立ち尽くしている俺の隣りに立った。
ーー………
何も答えられずにいると、うちに来るかと彼は言った。
華原さんが住むマンションは、アパートから結構離れた場所にあった。
「まぁ適当に座れよ。あ、その前にコートを脱げ」
「……本当にすみません」
広々としたリビングを前に恐縮して謝ると、彼は気にするなと笑う。
「とりあえず何か飲むか…っておまえ酒は駄目だったな、コーヒーでいいか?」
「あ…、はい」
華原さんがキッチンに行ってしまうと、俺は何だか落ち着かない気持ちで窓の傍に立った。
十二階ということもあって、夜景が綺麗だ。
「悪い、砂糖もミルクもなかった」
つい景色に見入っていると、いつの間にか戻ってきた華原さんが言う。
「大丈夫です」
「熱いから気をつけろよ」
お礼を言って、差し出された白いマグカップを受けとった。
淹れてもらったコーヒーはいい薫りがして、少し苦かった。
「……あの、」
「ん?」
「……今日のこと、誰にも言わないで貰えませんか」
「……あぁ、」
「林さんにも」
華原さんは驚いた顔で俺を見た。
「それは無理だ。あいつがおまえに何をしようとしたのかは、ちゃんと本人に話を」
お願いします、と頭を下げる。
「俺は平気です。こういうのは…結構慣れてるんで」
そうだ、これくらい別に大したことじゃないと自分に言い聞かせる。
「慣れてるって…」
それより問題はあの写真だ。
あれをもし、誰かに見られたら…。
「……三宅、おまえは何に怯えてるんだ?林に脅されてるのか?」
「……そうじゃなくて、ただ…」
壊したくないんです、と俺は言った。
「……俺、昔から人と関わるのが苦手で。だから仕事の付き合いとかも、正直面倒だと思ってて」
仕事はあくまで生活をする為の糧であり、そのなかの人間関係はそこに付随するだけのものだ。
だから自分にとってはさして重要なものではないと思っていた。
「でも…室長のおかげで、課の人たちとも上手くやれるようになってきて…そしたら仕事も楽しいって、ちょっとだけ思えてきて…」
あの会社でいろんな人と出会って、毎日顔を合わせて、一緒に仕事をして。
良いことも嫌なこともあった。
辞めたいと思ったことも、何度もあった。
でもそうして人と関わっていくうちに、俺のなかでも何かが変わっていったんだと思う。
だからあの時、林さんの言葉に躊躇した。
……失いたくないって、思った
「前に、室長に仲間だって言って貰えて…俺、本当は嬉しかったんです」
そして気づいた。
俺はただ、怯えていただけだ。
他人と関わることの、その重さに。
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