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旅行(1)
しおりを挟む三月ももう終わりに近づく頃。
色々あってすっかりのびのびになっていた旅行に行くことになった。
那波は温泉なら熱海がいいって言ったけど、予算的にも距離的にもちょっとキツかったので結局箱根。
――海の幸、食いたかったのに…
前日まで那波はグチグチ言ってたけど、俺にとってはどこに行くかというより、誰と行くかということのほうがずっと重要だ。
山の幸でもいいじゃんと宥めつつ迎えた当日は、あいにくの空模様というかまさかの大雨。
梨香のおみやげ催促LINEに了解と返事を入れて、雨粒に映る歪んだ景色をぼんやりと眺めた。
シーズンオフでしかも平日なので、電車のなかは空いている。
……静かだな…
最近、ずっと慌ただしい日々が続いていた。
こんなふうにゆったりとした時間を味わうのは久しぶりだ。
「………」
隣りで眠っている那波を見て、ちょっと笑った。
那波は最近、バイトを始めた。
実家に帰った時に散々絞られて反省したのか、学費の一部を自分で払うことにしたらしい。
昨日も遅くまで働いて疲れてたらしく、電車に乗ってしばらくすると眠ってしまった。
「……なんで着くまで起こさねーかな」
「だって、気持ちよさそうに寝てたし」
「にしたってさぁ、おまえ退屈だっただろ」
「ううん、別に…」
ゆっくり景色が見れたし。
それに那波の寝顔を見るのは、結構好きだし…。
「ほら、LINEとかしてたし」
「……誰と?」
「あ、バスの時間!乗り場どこだっけ?」
こっち、と手を引かれる。
「ちゃんと酔いどめ飲んだか?」
「うん」
「気持ち悪くなったら、すぐ言えよ?」
「うん」
今日の那波は、まるで母親みたいだ。
「浩介、」
「ん?」
「旅行中は携帯禁止」
思わず吹きだして、うん、と頷いた。
今回の旅行を楽しみにしてたのは、むしろ俺のほうかもしれない。
就活が始まったら、きっと今よりも忙しくなる。
那波も学校とバイトの両立は大変だろうし、しばらくはこうやって二人で遠出なんてできないと思う。
会う時間も、今よりは減るだろう。
……それは少し、寂しいけど
でもずっと一緒にいられないからこそ、一緒にいる時間を大切にしていきたい。
「……すっごい」
「結構でかいな」
那波が予約してくれていた旅館は、ひっそりとした山奥にあった。
日本家屋を改装したその佇まいには、真新しさや派手さはない。
けれど昔ながらの情緒が上手く取り入れられていて、上品で落ち着いた雰囲気があった。
見事に手入れが施された庭園を眺めていると、旅館の中から和服姿の女の人が出てきた。
「雨のなか、遠路はるばるようこそお越しくださいました。さ、どうぞ、中に」
「……那波」
「ん?」
「……ここ、ほんとにじゃ○んの格安プランに載ってたのか?」
案内された部屋に、荷物を置きながら言う。
「穴場見つけんのは得意なんだよ。なぁ、風呂行こうぜ」
那波は笑って言った。
三月とはいっても、まだ夜は冷える。
しかも山の中だし、雨も降ってるし。
「はぁ――…」
あまりの気持ちよさに、溜め息が漏れた。
……ほぐれる…
大浴場は広々としていて、もうもうと湯気がたちこめていた。
お湯はちょうどいい熱さで、冷えた身体が外側からじんじんと暖まっていく。
「……やっぱアパートの風呂とは、全然違う」
「だな。まぁでも、狭いのもいいけどな」
「……そう?」
風呂は断然広い方がいいと、俺は思うけど。
すると那波はにやりと笑った。
「だって密着できるし?」
湯船のなかで伸びてきた手を、がしっと掴む。
「………まさかとは思うけど、ここで妙なことしたら、俺まじキレるから」
「……ハイ」
まったく、油断も隙もあったもんじゃない。
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