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想い
しおりを挟むいつものように、一緒に夕飯の買い物をした帰り道。
「……あ、」
「ん?」
「コーヒー豆、」
「もうなかったっけ?」
「ちょっと待ってて、すぐ戻るから」
俺はそう言うと、一人で店に戻った。
那波も俺もコーヒーが好きだ。
那波はブラック、俺はちょっとだけ砂糖とミルクを入れたやつ。
いつも買ってるお店でいつもの豆を買って、急いで那波のところに戻ったんだけど。
……誰だろ、
俺を待っていたはずの那波は、女の子と一緒にいた。
「………」
二人はなにやら楽しそうに話している。
那波はモテる。
それは今に始まった事じゃないし、気にしても仕方がないってわかってる。
……わかってるけど、
こんなふうにまのあたりにすると、なんか嫌だ…。
「……浩介?」
那波に呼ばれて、はっとした。
「コーヒー、買った?」
「……あ、うん」
女の子が振り返って、俺を見た。
「こんばんはー」
「……こんばんは」
目がくるっとしたその可愛らしい女の子は、フードのついたダウンにショートパンツという暑いのか寒いのかよくわからない格好をしている。
「那波さんの友達?」
「や、恋人」
あっさりとそんなことを言ってのける那波に、唖然とした。
「……えぇ?!」
「ちょ、ちょっと那波っ」
慌てる俺の前で、女の子はぽかんとした顔で言った。
「……ウソ、じゃあもしかして、あの八年越しの片思いっていう…?!」
「……え?」
「マジでぇー?!やばい、ほんとにいたんだー!」
すごーい!とやけに興奮気味の女の子。
……てゆうかそれ以前に…
性別に関しては驚かないんだ…。
「弥生…おまえそれ、誰に聞いた?」
「兄貴に決まってんじゃん」
「……皐月…あのヤロウ…」
低く唸る那波。
……兄貴?皐月さん…?
「……え、もしかして皐月さんの…」
「妹でーす!いつも兄がお世話になってますー」
「い、いえ、こちらこそ…」
「でもいいなぁーっ、那波さんとつきあえるなんて!」
「おまえ彼氏いなかったっけ?」
「いるけどー、ソレとコレとはまた別ってゆうかぁ…あ、ヤバいもう行かなきゃ!」
じゃあまたねーっと笑顔で言って、彼女は街中へと消えていった。
「相変わらずだなあいつ…」
「…………」
「浩介?」
部屋に戻ると、ビニール袋を床に置いた那波の背中を抱きしめた。
「うわ、なに」
「………」
「浩介?どうしたの?」
「………」
那波のにおい。
ずっと変わらない、ぬくもり。
「……あ、もしかしてやきもち妬いちゃった?俺が弥生と浮気してるとか…」
「違う」
……八年、とか
どうしよう、なんだか。
……なんだか…
いろんな思いで胸がいっぱいになって、俺は何も言えずにただぎゅっと那波にしがみついていた。
「……浩介、」
「すき」
「え?」
「すきだよ、那波」
「……うん、」
これから。
那波が俺のことを想っていてくれたぶん、俺も那波にかえしていけたらいい。
抱きあって甘いキスを繰り返しながら、そんなことを思った。
「……あ」
服を脱がされながら、玄関に放置されているビニール袋に気づく。
「冷蔵庫に、入れなきゃ…」
「後でいいじゃん」
「や、肉とか悪くなるし」
ぐいっと那波を押しのけて、キッチンに戻る。
「もー…焦らすなよ」
那波の拗ねた声。
「すぐ済むから、」
野菜や肉を冷蔵庫にしまいながら、俺は小さく深呼吸をした。
そして今夜は、出来るだけ素直に甘えようと思った。
end.
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