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すれちがい(1)
しおりを挟む最近、那波がよく店に来る。
浩介があまり構ってくれないらしい。
「就活で忙しいんだろ」
「………」
不貞腐れた顔しやがって…子どもか。
「余裕がねぇ男は嫌われるぞ?」
笑いながら言うと、那波は眉間に皺を寄せたまま、わかってるよと答えた。
その数日後、今度は浩介が開店前の店に来た。
「久しぶり」
「はい…」
その声は、心なしか元気がない。
「どうかした?」
ビールのグラスをカウンターに置きながら言う。
「那波とケンカでもした?」
「そうじゃないんですけど…。実は最近、会ってなくて…」
……あぁ、そういうこと
「浩介、最近忙しいんだろ?気を遣ったんじゃないの?」
「でも…電話やLINEも、あんまりなくて…」
不安げな表情のまま、浩介は続ける。
「……その、もしかしたら、浮気…とか…」
いやいやそれは絶対ないって思ったけど、まぁここは敢えて。
「あいつ最近、浩介が構ってくれないってイジけてたしねー」
「………」
「不安ならさ、浩介から連絡してみれば?」
「……え、」
「会いたいって、言ってみたら?」
たぶん小踊りして喜ぶんじゃねぇの、あいつ。
「でも…」
「那波のこと、信じられない?」
「いえ、そうじゃなくて…。それもなんだか、都合がよすぎるってゆうか…」
そう言ってシュンとしちゃうあたりが、奥ゆかしいというか可愛らしいというか。
うちのお姫様も、これくらい謙虚だったらなぁ…。
……逆に怖いか、それは…
「……浩介はさ、もっと我が儘になっていいと思うよ?」
「……え?」
「そのほうが、那波も喜ぶと思うけど」
「……我が儘…」
とその時、店のドアが開いた。
「……どういうことだよ」
「え、那波…?!」
お、タイミングいいな。
「よう、」
「よう、じゃねぇよ!なんで浩介がここにいんだよ!」
「なんでって…」
「その、いろいろ相談にのってもらってて…」
浩介の言葉に、那波は更に不機嫌な顔になる。
「……相談って、なんの?」
「……え、っと」
おまえのだよ、とはさすがに言えないよな…。
「………」
「……あ、あのさ那波、」
「もう、いい」
吐き捨てるように言うと、那波は荒々しくドアを開けて店を出ていった。
「……ほんと成長しねぇな、あいつは…」
はぁ、と溜め息を吐く。
「………」
「追いかけないの?」
「……え、」
茫然としていた浩介が、我にかえったように俺を見た。
「あいつヤケになって、またどっか行っちゃうかもよ?」
「………!」
「浩介、」
勢いよく席を立った浩介に、声をかける。
「たまにはちゃんと、伝えないと」
「……はい」
ぺこ、と頭を下げて店を出ていく浩介を見送る。
「………」
……伝える、か
なんかまた、偉そうなことを言っちゃったけど。
「……難しいよなぁ、実際」
黙っていてもお互いのことがわかるような関係に憧れたりもするけど、そしたらもう言葉なんて必要じゃなくなるから。
言葉は思いを伝える為にある。
そして敢えて言葉にすることに、きっと大きな意味がある。
……それにしても、世話が焼ける
那波の顔を思い出して、小さく笑う。
……相当我慢してたな、アレ
そして煙草の火を消すと、まぁたまにはいいんじゃね、なんて思いつつ俺は仕込みの続きを始めた。
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