モンド家の、香麗なギフトは『ルゥ』でした。~家族一緒にこの異世界で美味しいスローライフを送ります~

みちのあかり

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二章 新たなる街へ

第5話 取り調べ

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「止まれ! なんだそのケダモノは」

 遠くからルナを見つけた二人の門番さんが叫びながら走ってきて、勢いよく槍をルナに向けた。

「アーク、心配するな。俺たちが保証する。こいつらは俺たちの命の恩人だ」
「銀杯のローディか? それは本当か?」

「わたしも保証するわ。この狼はこの子が育てた従獣じゅうじゅうよ。よく言うことを聞くわ」

 門番さんはルナの背中にリューが乗っていることに気が付いて、僕に聞いてきた。

「本当に君が使役しているのか?」
「使役?」

「君の仲間かと聞いているんだ」
「ルナは僕の仲間だよ。ほら」

 ルナをなでると、門番さんたちは安心したのか槍を向けるのをやめてくれた。
 門まで歩きながら、門番さんは外の状況を確認していた。

「街の外はどうだった?」
「ああ。ロンリーウルフがいた。何とか倒したが子連れで、こいつらが死にそうなところを助けてくれたんだ。ほら」

 後ろにいたルナが門番さんたちの前に来て、子供の狼を見せた。驚きながらも歩みは止めない門番さんたち。

 門の前に着くと、ローディさんが指示を出した。

「そういうわけで、俺はギルド長に報告してくる。ランゼ、おまえはマリーさんたちの登録に付き合ってやれ。レイクはロンリーウルフの処理を頼む」

「おう。任せろ」
「そうね。ルナちゃんを街に入れられるとは思えないしね」

 衛兵さんの一人が、慌てたようにどこかに行った。驚き慌てている門番さんを落ち着かせながら、打ち合わせを始めた。

 そのうちにギルドの職員さんがやって来て、僕と母さんは門の隣にある衛兵詰所の一室にランゼさんと一緒に連れていかれた。

 リューとルナは、門番さんのとなりで大人しく待っているように言われた。まだルナを街に入れるわけにはいかないからって言われたんだ。



「自分はこの門の詰所を管理する衛兵部第二班、班長のイケアだ。身分証を確認する」

 母さんが三枚のカードを、さっきまで門番をしていたアークさんに手渡した。

「ローズマリー。29歳。離婚して今は家名が失われている元貴族。間違いないか?」
「あら、二日しかたっていないのにもう手続き済ませたのね。そうですわ。間違いありません」

 母さんは何が楽しいのか笑いながら答えた。

「子供の方はルーベルト10歳とリュミエル7歳。間違いは?」
「ありません」

「どちらも元貴族の子女だが、現在は家名が外れている。平民の扱いになるがそれでいいのか?」

「かまいませんわ。後ろ盾がなくなったのですから」

「それでこの街には何をしに来たのだ?」

 母さんは今までの事を話した。父さんが死んで家を乗っ取られたこと。再婚して離縁されたこと。僕のギフトについては秘密にしていたけど。

「それは大変でしたね。病気の娘を連れて平民になって住む所もなく。これからどうするおつもりで?」

「それが。追い出されてからまだ二日。幸いある程度の路銀はありますので、落ち着いたら仕事を探そうかと思っています」

「そうですか。それでしたら通行の許可を出してもよいのですが」

 イケアさんは僕を見て、それまでの優しい感じがなくなって強く言った。

「あのオオカミは君の従獣で大人しいということはわかったのだが、街を守る衛兵の判断として狼を街に入れることは許可できない。主人から離れた状態で街の外に置くわけにもいかない。この街で暮らしたければあの狼を処分するんだ」

「それは……、ルナを殺せっていうことで」
「ああ。君達は平気かもしれないが、一般の住民は狼と共には暮らせないんだ」

 そんなことできるわけがない!

「ねえイケア。本当にダメなの?」
「ランゼ。常識的に考えてみろ。無理に決まっているだろう。この街だけじゃない。どこの街だって狼を入れるわけがないだろう。せいぜい小型の犬とか猫とか鳥までだ」

「……確かにそうね」

 ランゼさんが肯定して、誰も口を開けなくなった。シーンと静まり返った部屋の空気が重く感じられた。

「……僕みたいに大きな動物を使役している人はどうしているの? そんな人いないの?」

「使役している冒険者はいるにはいる」
「だったら僕もそうしたい。どうすればいいの」

 イケアさんが「仕方がないな」と教えてくれた。

「従獣使いは街には入らない。大抵が冒険者だ。パーティを組んではいるが門の中には入らず、門から少し離れたところで一人きりで野営をしている。他の仲間は街中での宿で泊まり買い物も食事もできるが、仲間が持ってくる食料で自活しているんだ。たまに仲間に従獣を見てもらって買い物をするために街に入ることもあるようだが、それもわずかな時間だけだな」

 真剣な目で僕を見つめて続けた。

「お前の妹は病気じゃないのか? 母親と妹二人を放っておいて獣と二人で野営をするのか? お前みたいな子供が? それとも病気の妹も野営につき合わせる気か? 仕事は? 食べ物は? 携帯食だけじゃそのうち倒れるぞ。悪いことは言わん。獣を手放してつましく生きろ」

 イケアさんが僕たちの事を真剣に考えてくれている。だからこその提案だってことは伝わってくる。でも……、

「ルナを森の中に放すのはだめでしょうか」
「だめだな。野生化して人を襲われても困る。狼は我々にとって危険すぎる存在だ。特に人間の食べ物の味を覚えた狼はな」

 空気が重い。ランゼさんもうつむいている。僕ではどうすることもできないのか?

「それじゃあ、テントを買いましょう」

 場にそぐわない、明るい声で母さんが話を始めた。

「何悩んでいるの? ルーデンス、私達は家族よ。もちろんルナちゃんもね。家族が離れて暮らすなんてありえないじゃない。料理は母さんが作ればいいのよ。ルナちゃんがいれば狩りもできるし、そうすればお肉が手に入るじゃない。野菜とパンは買えばいい。私は街に入ってもいいんでしょう? 大丈夫。ルーを一人になんかさせないわ。お母さんを信じなさい」

 え、これがお母さん? あの物静かなお母さんがこんなこと言うなんて。
 でも、嬉しい。母さんが大きく見える。

「落ち着いてくださいローズマリーさん。そんなこと」

「できるわよね、私たちなら」

 そうだね、母さん。僕が守らないといけないのに母さんに守られるなんて。

「うん」
「よし。そうしましょう」

「ちょっと待ってマリーさん。無茶はよくないわ」
「そうです。門の周辺は比較的安全ですけど危険なことには変わりないんです。獣だけじゃない。夜盗とか人間にも注意しなければ」

「あら、ルナちゃんに立ち向かえる人間なんているかしら」
「そうかもしれませんが」

 母さんは本気だ。イケアさんが必死に止めているが、母さんは全てを笑い飛ばしている。

「あの、イケア。提案なんだけど」
「なんだ? いいからお前も止めるの手伝ってくれよ」

「魔女様の家、いま誰も管理していないよね」
「ああ。みんな気味悪がって近づきもしない」

「魔女様、帰ってくるまで管理人置いた方がよくない?」
「何を言っているんだ? いきなり別の話をぶっこんでくるな」

「だからぁ。この子たちに管理させたらどう? 家なんて誰も住んでいないとすぐ痛むでしょ」
「そういうことか!」

 ランゼさんの提案はこういうことだ。門から離れた森の入り口に、魔女様と呼ばれている薬師の家がある。魔女様は異国の人なのか真っ黒な髪と瞳の女性。いつまでも歳をとらないのか見た目が若く変わらない人だったらしい。

「2年前に、しばらくここを離れるから家を管理しておいてほしいと、ギルドに金を置いて出て行ったんだ。管理者を募集したけど森の近くに住むヤツなんていなくてな。猫のバケモノが出るとか、幽霊屋敷だとか噂がたって近づく人もいなくなったんだ」

 そんな理由でたまに掃除をするくらいになっているみたい。

「魔女様が帰ってきたら出て行ってもらわなければいけないが、この状況なら管理人になるのか一番よくない?」

「それは素敵だわ。掃除は得意よ」

 母さんは乗り気で交渉を始めた。「しばらくかかりそうだから、リューのこと見てきて」そう言われて僕は詰め所を出てリューとルナの所に急いだ。
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