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三章 お引っ越し
第7話 覚悟
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お家の掃除は四日間かかった。母さんと僕の二人でやったのと、母さんが「まあお風呂があるわ」とか「ここは書庫だったはずね。本はどこへ行ったのかしら?」とか、いちいち手を止めるものだからなかなか進まなかったんだ。
見た目より広いお家は不思議な感じがした。
ルナは「ここは澄んだ魔力が多い。聖域に近い感じがするな」とか言っていたけど、だったらお父さんの夢、もう一度見られないかな。
◇
ここで暮らしていくなら仕事を探さないといけない。でも貴族として育った僕は、平民がどんな事をして働いているのかよくわからない。
僕が頼れる大人は、銀盃のみんなだけ。 母さんに内緒で三人に相談した。
「そうね。ルーは今まで働いたことはないのよね。うーん。難しいわね」
ランゼさんが悩むとレイクさんが僕の肩を叩いた。
「痛い」
「ボウズ、まずは体を鍛えるんだ。これくらいで痛がっては何もできん。筋肉だ筋肉! 筋肉はいつでも寄り添い助けてくれるぞ!」
「でたな脳筋!」
「うるせぇ、ランゼ」
なんかランゼさんとレイクさんが言い合っている。でも楽しそうだからケンカじゃないよね。
リーダーのローディさんが二人を止めてくれた。
「しかし、レイクの言うことには一理ある。ルー、お前は街に定住できない事を選択したんだ。そうなれば誰かに雇ってもらうことは無理になる。現実的に考えれば冒険者ギルドに登録して薬草集めでもするその日暮らしだな」
「冒険者ねぇ」
「さすがに今のボウズじゃ頼りねえな」
みんなが僕を見てため息をついた。
「あっ、でもあれだ。ボウズの従獣、ルナがいれば狩りができるんじゃないか?」
「そうねぇ。ウサギくらいしか出ないフィールドなら、危険が少ないかも」
「ルナと狩りに? やり方を教えてください」
三人にじっと見つめられている。
「本気でやらないと死ぬことになる」
「そうよ。命をかけてまでやる価値がある?」
「ボウズ、死んでもいい覚悟がないならやめとけ」
僕は真剣なみんなに対して、誠心誠意答えた。
「死にたくないです。だって僕が死んだら家族を守れないじゃないですか! 母さんもリューも僕が守る。冒険者になってみんなを守る。そのためには死んだらダメなんです」
都合のいいこと言っちゃったかな。でも、これが僕の嘘偽りない本心。
シーンと静まり返った重い空気が流れる。
「ガハハハハ。よく言ったボウズ! 正解だ」
「合格よ。死にたがりと無謀者には冒険者は勧めないわ」
「短絡的に死んでもいいから冒険者になる、なんて言っていたら、俺たちはお前を見離すところだった」
認めて……もらえたの? 本当に?
「ボウズ、こんなことで泣いてどうする。やる事たくさんあるんだぜ」
泣いている? 本当だ。
僕は袖で必死に涙を拭いた。
「まずは最初の目的と将来のビジョンをきめようか。やみくもに行動しても効率が悪い」
「とりあえず筋肉つけな!」
「黙れ脳筋!」
「ルーよ。どんな未来を想像する? お前の幸せってなんだ?」
ローディさんが言った未来を考えてみた。
「僕がお肉を取ってきて、母さんが料理をしてくれる。妹のリューが元気になって三人で楽しい食卓を囲みたい。それが僕の幸せだよ」
「金持ちになりてぇとか、一旗揚げて名を売りてぇとか、女にモテまくりてぇとかないのか?」
「僕は、家族が笑って暮らせるようになりたい。そのためならなんだって頑張る」
いきなりランゼさんに抱きつかれた。
「なんていい子なの。そこのバカとは大違いね。うん。お姉さん協力するよ。ローディ! プラン立てて」
僕、どうすればいいの? 母さん以外の女の人から抱きしめられるなんて初めてだから照れくさいよ。
手をバタバタ動かしたら、やっと離してくれた。
「ルー。ささやかだが良い夢だな。冒険者になるなら、レイクが言う通り筋肉をつけるべきだ。それと剣の使い方もな。習うべきは……」
ローディさんを遮ってレイクさんが勢いよく割って入った。
「おう! そいつは盾に決まっているだろう。こいつは家族を守りたいんだ。攻撃はルナに任せればいい」
「そうね……。魔法も得意じゃなさそうだから後衛じゃなさそう。私が教えたかったけど、ルナがアタッカーでルーがタンクが理想的ね」
「ならばレイク、お前が教えてやれ」
「おう! 立派な筋肉に育ててやる」
「筋肉じゃなく盾の使い方教えなさいよ!」
「盾使いには筋肉が必須なんだよ!」
レイクさんとランゼさんの言い合いが続くなか、ローディさんが二人を無視して僕に言った。
「それから、お前は冒険に出る前にギルドの解体所でバイトしろ。給金は安いが解体技術は学べる。ルナが取った獣を解体できたら便利だぞ」
「えっ、僕、街の中に長く入れないのに?」
「狩った獣を街の中に入れるわけないだろう。どこの街でも引き取り所は街の外の川辺に作るのが常識だ」
そうして僕は、冒険者ギルドで冒険者と解体所での見習いバイトを申請した。
見た目より広いお家は不思議な感じがした。
ルナは「ここは澄んだ魔力が多い。聖域に近い感じがするな」とか言っていたけど、だったらお父さんの夢、もう一度見られないかな。
◇
ここで暮らしていくなら仕事を探さないといけない。でも貴族として育った僕は、平民がどんな事をして働いているのかよくわからない。
僕が頼れる大人は、銀盃のみんなだけ。 母さんに内緒で三人に相談した。
「そうね。ルーは今まで働いたことはないのよね。うーん。難しいわね」
ランゼさんが悩むとレイクさんが僕の肩を叩いた。
「痛い」
「ボウズ、まずは体を鍛えるんだ。これくらいで痛がっては何もできん。筋肉だ筋肉! 筋肉はいつでも寄り添い助けてくれるぞ!」
「でたな脳筋!」
「うるせぇ、ランゼ」
なんかランゼさんとレイクさんが言い合っている。でも楽しそうだからケンカじゃないよね。
リーダーのローディさんが二人を止めてくれた。
「しかし、レイクの言うことには一理ある。ルー、お前は街に定住できない事を選択したんだ。そうなれば誰かに雇ってもらうことは無理になる。現実的に考えれば冒険者ギルドに登録して薬草集めでもするその日暮らしだな」
「冒険者ねぇ」
「さすがに今のボウズじゃ頼りねえな」
みんなが僕を見てため息をついた。
「あっ、でもあれだ。ボウズの従獣、ルナがいれば狩りができるんじゃないか?」
「そうねぇ。ウサギくらいしか出ないフィールドなら、危険が少ないかも」
「ルナと狩りに? やり方を教えてください」
三人にじっと見つめられている。
「本気でやらないと死ぬことになる」
「そうよ。命をかけてまでやる価値がある?」
「ボウズ、死んでもいい覚悟がないならやめとけ」
僕は真剣なみんなに対して、誠心誠意答えた。
「死にたくないです。だって僕が死んだら家族を守れないじゃないですか! 母さんもリューも僕が守る。冒険者になってみんなを守る。そのためには死んだらダメなんです」
都合のいいこと言っちゃったかな。でも、これが僕の嘘偽りない本心。
シーンと静まり返った重い空気が流れる。
「ガハハハハ。よく言ったボウズ! 正解だ」
「合格よ。死にたがりと無謀者には冒険者は勧めないわ」
「短絡的に死んでもいいから冒険者になる、なんて言っていたら、俺たちはお前を見離すところだった」
認めて……もらえたの? 本当に?
「ボウズ、こんなことで泣いてどうする。やる事たくさんあるんだぜ」
泣いている? 本当だ。
僕は袖で必死に涙を拭いた。
「まずは最初の目的と将来のビジョンをきめようか。やみくもに行動しても効率が悪い」
「とりあえず筋肉つけな!」
「黙れ脳筋!」
「ルーよ。どんな未来を想像する? お前の幸せってなんだ?」
ローディさんが言った未来を考えてみた。
「僕がお肉を取ってきて、母さんが料理をしてくれる。妹のリューが元気になって三人で楽しい食卓を囲みたい。それが僕の幸せだよ」
「金持ちになりてぇとか、一旗揚げて名を売りてぇとか、女にモテまくりてぇとかないのか?」
「僕は、家族が笑って暮らせるようになりたい。そのためならなんだって頑張る」
いきなりランゼさんに抱きつかれた。
「なんていい子なの。そこのバカとは大違いね。うん。お姉さん協力するよ。ローディ! プラン立てて」
僕、どうすればいいの? 母さん以外の女の人から抱きしめられるなんて初めてだから照れくさいよ。
手をバタバタ動かしたら、やっと離してくれた。
「ルー。ささやかだが良い夢だな。冒険者になるなら、レイクが言う通り筋肉をつけるべきだ。それと剣の使い方もな。習うべきは……」
ローディさんを遮ってレイクさんが勢いよく割って入った。
「おう! そいつは盾に決まっているだろう。こいつは家族を守りたいんだ。攻撃はルナに任せればいい」
「そうね……。魔法も得意じゃなさそうだから後衛じゃなさそう。私が教えたかったけど、ルナがアタッカーでルーがタンクが理想的ね」
「ならばレイク、お前が教えてやれ」
「おう! 立派な筋肉に育ててやる」
「筋肉じゃなく盾の使い方教えなさいよ!」
「盾使いには筋肉が必須なんだよ!」
レイクさんとランゼさんの言い合いが続くなか、ローディさんが二人を無視して僕に言った。
「それから、お前は冒険に出る前にギルドの解体所でバイトしろ。給金は安いが解体技術は学べる。ルナが取った獣を解体できたら便利だぞ」
「えっ、僕、街の中に長く入れないのに?」
「狩った獣を街の中に入れるわけないだろう。どこの街でも引き取り所は街の外の川辺に作るのが常識だ」
そうして僕は、冒険者ギルドで冒険者と解体所での見習いバイトを申請した。
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