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四章 家族一緒に
第15話 ルーデンスの試練
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誰もいない。みんなどこへ行ってしまったんだ?
広い空間を歩いていくと、不意に声が聞こえた。
「お前の願いは何だ」
「僕の願いは、家族を守ること」
「ならば、こいつを倒すことだな」
目の前が草原に変わった。
ここは、いつもルナと行く魔物の狩場だ。
レイクさんにもらった盾と、解体用のナイフが落ちている。
使い慣れた解体用のナイフを、僕は武器として使っている。
急いで拾うと、魔物の気配がした。
あれは……。
僕が一人では倒せたことがない魔物、『剛針鼠』。
攻撃は鋭い牙で噛みつく近距離攻撃と、針のように鋭い前足の爪10本を、まるで矢のように飛ばす遠距離攻撃をする、攻撃の間合いが広い強敵だ。
いつもは見つからないように隠れるか、ルナにお願いして倒してもらっているのに。
「どうした? 家族を守るのではないのか?」
クスクスと笑い声が響く。その声に反応したネズミが僕を見つけた。
カキン。
ネズミがあいさつ代わりに飛ばした爪を盾ではじくと、ネズミは一気に距離を詰めた。
体当たりをしてきたネズミを盾で止める。ネズミの勢いが強くて、僕の体は後ろに吹き飛ぶ。
良かった。立っていられた。
転んだらおしまいだった。
「お前の願いは?」
またか。僕は家族を守る! 家族のために戦う。
「お前は弱い。弱いやつが守れるのか?」
ネズミが移動していた! 慌てて横から来た針を避けた。
「なぜ狩りに出る? 弱いくせに。家族を守る? お前がばか犬に守られているんだろう」
クスクスと笑う声は、僕の心を抉っていく。容赦ない針の攻撃は、僕の体力と集中力を奪う。
よけきれない! 一本の針が僕の右肩をかすった。
痛い。ルナ、助けて。
いつものように叫んでも、ルナはいない。
クスクスクスクス。
「やっぱりお前は守る側じゃない。守られる側の人間じゃないか」
クスクスクスクス。
笑うな! やめてくれ!
全ての針を飛ばしたネズミは、勝利を確信したのか、ゆっくりと僕に向かって歩いてくる。
怖い。逃げたい。
盾もナイフも捨てて、走って逃げよう。
そう思った時、頭の中で僕を止める声がした。
「ボウズ、苦しい時こそ逃げ出すんじゃねえ。獣はな、背中を見せたら一気に襲う。怖くても腹と目に力を込めて睨みつけるんだ」
レイクさんが繰り返し、僕に伝えた言葉。
そうだ。逃げたらやられる。
腹に力を入れ、ネズミを睨みつけた。
息を止め、手に力を込める。
ネズミの動きが止まった。
呼吸を整え、ネズミの動きを待つ。
「盾役は攻撃を受け切ってからの勝負だ。相手の隙を見つけて、すかさず攻撃に移れ。決して深追いはするな。守りが主だ」
そうだね、レイクさん。突進してきたネズミを、腹に力を入れて受け止めた。
解体所のシロ所長の声が聞こえた。
「解体の基本は、筋肉の配置と流れを覚えることだ。太い筋肉、細い筋肉、硬い、柔らかい。シロ、お前が冒険者になって獲物を狩るなら絶対に役に立つさ。小さな刃物でも、細くて流れの重要な所を切れば、動きを止められる。解体はばらすだけの技術じゃないんだ。覚えておけ」
細くて流れの中にある筋肉? ここだ!
剣として持っていた解体用のナイフを、本来の意味で使った。
ネズミの足首と太ももを繋ぐ細い筋状の腱を解体した。
バチン、と引き延ばされていた腱が離れる音が響いた。右前脚が使えずバランスを崩し倒れ込むネズミ。今だ!
僕は思いっきりネズミの首と頭を繋ぐ細い筋肉を捌いた。そして一気に大動脈を切り裂いた。
ネズミはキラキラと光の粒になって、僕の前から消え去った。
「おめでとう。ルーデンス。分かったことはあるか」
あれほど嫌だった声が、今は優しく僕に語りかける。
「僕は、家族を守りたい。それは本当の願いです。ただ」
僕の目に、銀杯の祝宴のみんなや、解体所の仲間が見えた。
母さんと、リューと、ルナも一緒に。
「僕は家族と一緒に頑張っていると思っていました。家族を守るために。幸せになるために。笑顔でいられるために。家族がいればそれでいいと思っていた。でも、僕は一人で成長したんじゃない、こんなにもたくさんの人に育ててもらっていたんです。みんながいたから、今の僕がいるんです」
僕の世界が広がったような気がした。
パチパチパチと拍手が聞こえる。
「合格だ。よい戦いを見せてもらった。褒美をやろう」
ネズミが消えた時出たキラキラとした光が、広い空間のあちらこちらから現れた。
ふわふわと僕の目の前に集まり、人の形になった。
「ひさしぶりだな、ルーデンス」
それは、僕が小さい頃に死んでしまった父さんだった。
「父さん……父さん!」
父さんのもとに駆け付け、胸に飛び込んだ。がっしりとした腕が僕を抱きかかえる。
「父さん、会いたかった」
僕の頭をなでながら「すまないな、ルーデンス。頑張ったな」と優しい声でかたりかけた。
僕は夢中で今まであったことを報告した。嫌だったことは短く、この家にきてから、頑張ったこと、母さんの料理のこと、リューが元気になったこと、ルナと友達になったこと。
うんうん、とにこやかに父さんは聞いてくれた。
「よかったな、ルーデンス。お前は大事な家族と仲間に囲まれて過ごしてきたんだ。これからも母さんとリューを助けて仲良く暮らしてくれ。約束だ」
「もちろんだよ。でも、父さんは?」
「父さんはお前のおかげで安心することができた。もう心配するようなことはない。そろそろ神様のところで生まれ変わる準備をすることにするよ」
「そう……なんだ」
さみしいけど、それが父さんのためなんだろう。
「母さんには会わないの?」
「残念だけど、縁《えにし》の糸はお前だけにつながった。母さんは大丈夫。前の満月の晩にたくさん話せたからな」
そうか。じゃあ、父さんに出会ったことをちゃんと伝えないと。
「そうだ、お前に教えておくことがある。お前のギフト・ルゥについてだ」
「知っているの?」
「ああ。モンド家の当主になるものには、稀にルゥのギフトが現れると聞いている。もっとも、前に現れたのは6代前、もう120年前に亡くなったご先祖で、食べ物で幸せにするギフトということしかわからないのだが」
そうなの? モンド家の大切なギフトだったの? だから他の人は分からなかったのか。僕はうなづいた。
「そうだね。確かに食べ物でみんなを幸せになるギフトだね」
「そのギフトは段階を踏むと成長するらしい。何段階まであるかは分からないが、一段階目はカレーだ」
「うん。僕のギフトと同じだ」
「二段階目がクリームシチュー」
「え、なにそれ?」
「わからない。三段階目もあることは分っているんだが、記録が失われているんだ」
それなら、もっといろいろな味があるの? もしかして辛くない食べ物かな。それならリューも喜ぶかもしれない。
「そこから先はお前に託す。家族で協力してギフトを成長させてくれ。それが、家族だけでなく、全ての人を幸せにする道なのだから」
父さんは笑顔のまま消えた。
◇
「ありがとう。素敵なご褒美だったよ」
感謝を声の主に伝えた。
「今のは、お前の父とお前の縁の糸がつながっただけの話だ。私からの褒美は別だ。父親の縁の糸をもう一度お前に結んでやろう。お前が結婚し子ができた時、その子はお前の父の魂が生まれ変わった子供になる。それまで父に恥じぬよう立派に成長しろ」
父さんが、僕の子供に? 父さんの父さんに僕がなるの?
ありがとう! 父さんに恥ずかしくないように立派な大人になるよ。
「ほら、お前が倒したネズミのドロップアイテムだ。それと共に戻るがいい」
僕の試練は終わったんだ。よし、
帰ろう、大好きな家族のもとへ。
※作者より
すみませんでした!13話が予約投稿にならずに、14話が先に投稿されてしまいました。
読み飛ばしてしまわれた方、チェックをお願いいたします。
13話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/892339298/634019917/episode/10614412
本当に申し訳ございませんでした。
広い空間を歩いていくと、不意に声が聞こえた。
「お前の願いは何だ」
「僕の願いは、家族を守ること」
「ならば、こいつを倒すことだな」
目の前が草原に変わった。
ここは、いつもルナと行く魔物の狩場だ。
レイクさんにもらった盾と、解体用のナイフが落ちている。
使い慣れた解体用のナイフを、僕は武器として使っている。
急いで拾うと、魔物の気配がした。
あれは……。
僕が一人では倒せたことがない魔物、『剛針鼠』。
攻撃は鋭い牙で噛みつく近距離攻撃と、針のように鋭い前足の爪10本を、まるで矢のように飛ばす遠距離攻撃をする、攻撃の間合いが広い強敵だ。
いつもは見つからないように隠れるか、ルナにお願いして倒してもらっているのに。
「どうした? 家族を守るのではないのか?」
クスクスと笑い声が響く。その声に反応したネズミが僕を見つけた。
カキン。
ネズミがあいさつ代わりに飛ばした爪を盾ではじくと、ネズミは一気に距離を詰めた。
体当たりをしてきたネズミを盾で止める。ネズミの勢いが強くて、僕の体は後ろに吹き飛ぶ。
良かった。立っていられた。
転んだらおしまいだった。
「お前の願いは?」
またか。僕は家族を守る! 家族のために戦う。
「お前は弱い。弱いやつが守れるのか?」
ネズミが移動していた! 慌てて横から来た針を避けた。
「なぜ狩りに出る? 弱いくせに。家族を守る? お前がばか犬に守られているんだろう」
クスクスと笑う声は、僕の心を抉っていく。容赦ない針の攻撃は、僕の体力と集中力を奪う。
よけきれない! 一本の針が僕の右肩をかすった。
痛い。ルナ、助けて。
いつものように叫んでも、ルナはいない。
クスクスクスクス。
「やっぱりお前は守る側じゃない。守られる側の人間じゃないか」
クスクスクスクス。
笑うな! やめてくれ!
全ての針を飛ばしたネズミは、勝利を確信したのか、ゆっくりと僕に向かって歩いてくる。
怖い。逃げたい。
盾もナイフも捨てて、走って逃げよう。
そう思った時、頭の中で僕を止める声がした。
「ボウズ、苦しい時こそ逃げ出すんじゃねえ。獣はな、背中を見せたら一気に襲う。怖くても腹と目に力を込めて睨みつけるんだ」
レイクさんが繰り返し、僕に伝えた言葉。
そうだ。逃げたらやられる。
腹に力を入れ、ネズミを睨みつけた。
息を止め、手に力を込める。
ネズミの動きが止まった。
呼吸を整え、ネズミの動きを待つ。
「盾役は攻撃を受け切ってからの勝負だ。相手の隙を見つけて、すかさず攻撃に移れ。決して深追いはするな。守りが主だ」
そうだね、レイクさん。突進してきたネズミを、腹に力を入れて受け止めた。
解体所のシロ所長の声が聞こえた。
「解体の基本は、筋肉の配置と流れを覚えることだ。太い筋肉、細い筋肉、硬い、柔らかい。シロ、お前が冒険者になって獲物を狩るなら絶対に役に立つさ。小さな刃物でも、細くて流れの重要な所を切れば、動きを止められる。解体はばらすだけの技術じゃないんだ。覚えておけ」
細くて流れの中にある筋肉? ここだ!
剣として持っていた解体用のナイフを、本来の意味で使った。
ネズミの足首と太ももを繋ぐ細い筋状の腱を解体した。
バチン、と引き延ばされていた腱が離れる音が響いた。右前脚が使えずバランスを崩し倒れ込むネズミ。今だ!
僕は思いっきりネズミの首と頭を繋ぐ細い筋肉を捌いた。そして一気に大動脈を切り裂いた。
ネズミはキラキラと光の粒になって、僕の前から消え去った。
「おめでとう。ルーデンス。分かったことはあるか」
あれほど嫌だった声が、今は優しく僕に語りかける。
「僕は、家族を守りたい。それは本当の願いです。ただ」
僕の目に、銀杯の祝宴のみんなや、解体所の仲間が見えた。
母さんと、リューと、ルナも一緒に。
「僕は家族と一緒に頑張っていると思っていました。家族を守るために。幸せになるために。笑顔でいられるために。家族がいればそれでいいと思っていた。でも、僕は一人で成長したんじゃない、こんなにもたくさんの人に育ててもらっていたんです。みんながいたから、今の僕がいるんです」
僕の世界が広がったような気がした。
パチパチパチと拍手が聞こえる。
「合格だ。よい戦いを見せてもらった。褒美をやろう」
ネズミが消えた時出たキラキラとした光が、広い空間のあちらこちらから現れた。
ふわふわと僕の目の前に集まり、人の形になった。
「ひさしぶりだな、ルーデンス」
それは、僕が小さい頃に死んでしまった父さんだった。
「父さん……父さん!」
父さんのもとに駆け付け、胸に飛び込んだ。がっしりとした腕が僕を抱きかかえる。
「父さん、会いたかった」
僕の頭をなでながら「すまないな、ルーデンス。頑張ったな」と優しい声でかたりかけた。
僕は夢中で今まであったことを報告した。嫌だったことは短く、この家にきてから、頑張ったこと、母さんの料理のこと、リューが元気になったこと、ルナと友達になったこと。
うんうん、とにこやかに父さんは聞いてくれた。
「よかったな、ルーデンス。お前は大事な家族と仲間に囲まれて過ごしてきたんだ。これからも母さんとリューを助けて仲良く暮らしてくれ。約束だ」
「もちろんだよ。でも、父さんは?」
「父さんはお前のおかげで安心することができた。もう心配するようなことはない。そろそろ神様のところで生まれ変わる準備をすることにするよ」
「そう……なんだ」
さみしいけど、それが父さんのためなんだろう。
「母さんには会わないの?」
「残念だけど、縁《えにし》の糸はお前だけにつながった。母さんは大丈夫。前の満月の晩にたくさん話せたからな」
そうか。じゃあ、父さんに出会ったことをちゃんと伝えないと。
「そうだ、お前に教えておくことがある。お前のギフト・ルゥについてだ」
「知っているの?」
「ああ。モンド家の当主になるものには、稀にルゥのギフトが現れると聞いている。もっとも、前に現れたのは6代前、もう120年前に亡くなったご先祖で、食べ物で幸せにするギフトということしかわからないのだが」
そうなの? モンド家の大切なギフトだったの? だから他の人は分からなかったのか。僕はうなづいた。
「そうだね。確かに食べ物でみんなを幸せになるギフトだね」
「そのギフトは段階を踏むと成長するらしい。何段階まであるかは分からないが、一段階目はカレーだ」
「うん。僕のギフトと同じだ」
「二段階目がクリームシチュー」
「え、なにそれ?」
「わからない。三段階目もあることは分っているんだが、記録が失われているんだ」
それなら、もっといろいろな味があるの? もしかして辛くない食べ物かな。それならリューも喜ぶかもしれない。
「そこから先はお前に託す。家族で協力してギフトを成長させてくれ。それが、家族だけでなく、全ての人を幸せにする道なのだから」
父さんは笑顔のまま消えた。
◇
「ありがとう。素敵なご褒美だったよ」
感謝を声の主に伝えた。
「今のは、お前の父とお前の縁の糸がつながっただけの話だ。私からの褒美は別だ。父親の縁の糸をもう一度お前に結んでやろう。お前が結婚し子ができた時、その子はお前の父の魂が生まれ変わった子供になる。それまで父に恥じぬよう立派に成長しろ」
父さんが、僕の子供に? 父さんの父さんに僕がなるの?
ありがとう! 父さんに恥ずかしくないように立派な大人になるよ。
「ほら、お前が倒したネズミのドロップアイテムだ。それと共に戻るがいい」
僕の試練は終わったんだ。よし、
帰ろう、大好きな家族のもとへ。
※作者より
すみませんでした!13話が予約投稿にならずに、14話が先に投稿されてしまいました。
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本当に申し訳ございませんでした。
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