異世界来たんだから気ままに過ごしたっていいんじゃない?

華町はる

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8話 喰らう者、喰われる者

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◆◇ガラの悪い兵士達side

 「はぁ…はぁ…やったぞ、やったぞぉー!」

 「ヘッヘッヘ、これで俺らも、もう闇に隠れながら過ごさなくていいんだっ!はぁ…はぁ」

 「後は、戻って、兵士長に謝って、ケータの捜索をしてもらうだけで。やっとだ。はぁ…はぁ。」

 只今、森を爆走中なのは、ガラの悪い三名だ。
 彼らの本当の目的は、訓練ではなく『転生者ケータを森で遭難させること』。

 元々、盗賊ギルドに所属していた3名であったが、盗賊としてのセンスはなく、ただただ兵士達に追われる日々を過ごしていた。
 所謂、ただのゴロツキだったのだ。

 そんな時、ある一人の男が、そんな彼らに声を掛けた。

 そして男は言ったのだ。

 俺からの依頼を達成すれば、国の兵士として雇い、今の暮らし以上の生活を約束すると。

 半信半疑だった男達だったが、元々盗賊をやりたくてやっていたわけではなかったし、今の暮らしが最底辺だった事もあり、少しの疑いはあったが了承することにした。

 その後すぐに、本当に見習い兵士として雇われ、今日の訓練へと至ったのだ。

 そして、依頼者からの依頼こそが『転生者ケータを森で遭難させること』であった。
 

 「しかし、まぁ上手くいったもんだな。1回目で成功するなんて。はぁ…はぁ。」

 「はぁ…はぁ。まぁ確かに上手くいった。けど、あそこでが出てくるとは思わなかった。森林の暴食者 "ビックファングベアー"。俺ぁ、初めて見たよ。はぁ…はぁ…」

 「あぁ。アイツはやべーな。はぁ…はぁ…。俺も、声だけで、ちびるかと思った。A級冒険者でも4人1組で戦う相手だ。勇者でも戦い方が分からなかったら苦戦するだろうな。ましてや、ケータじゃ無理だろうな。あいつは、よえーらしいからな。ははは。」

 「とにかく戻ろう。ここは俺らも危険だ…。」

 「「っしゃ。」」

 と、3人の兵士達が気合を入れ直した時だった。
 また恐ろしい声が鳴り響いたのは。

 「グォォォォオオオア」

 ガラの悪い兵士達の背後から、けたたましい咆哮と、木々を薙ぎ倒しながら近づいてくる大きな音が鳴り響く。

 「や、やべぇ。あいつもう来たっ!」

 「まて、ケータは?もう喰われたのか?」

 「たしかに、あいつ丸呑みされそうだもんな。もう少し、もう少しなのに……」

 「うるせぇ、前向いて走れっ!」

 その後、彼らがどうなったのか、知る人はいなかった。

 ただ、それから数分後、森には静寂が戻り、大きな咀嚼音だけが響き渡っていた。

◆◇

 「うっ……苦しい、苦しい……」

 兵士三人組が森で必死に逃げている時、ケータは気絶から目覚めた。しかし、それは穏やかな目覚めではなかった。

 空気孔がない密閉された小さな空間で、酸素が無くなった事により苦しくなり、目が覚めたのだ。

 必死に土壁を指で削ったり、時には足で蹴ったりして、やっとの思いで外に出ることに成功した。

 出てきたのも束の間、先程のあの巨大な生物が居ないか慎重に辺りを見渡す。

 どこを探しても居ないことに安堵し、地べたにへたり込んだ。


 「はぁ。あの兵士達、俺を置いて行きやがった。くそぅ。飯もなければ、水もねーじゃんか。ってかあの巨大な生物はなんなんだ全く……怖いなぁ。俺はこれからどうすれば……いや、こういう時こそ、冷静になろう。」


 それから数分、ゆっくりと考えて、ある程度の方針を決めた。


 「よし、まずは水探しだな。そしたら次は、寝床探しだ。モンスターには気をつけながら進もう。ブルー、一緒に探してくれるか?」


 俺は立ち上がり、ゆっくりと音を立てないように、周りに注意をしながら、全神経を耳に集め、水の音を探る。

 ブルーも俺の言葉が分かったのか、一緒に探してくれているようで、たまに、ツンツンと身体を伸ばしたりして方向を教えてくれた。

 ブルーが居てくれて本当に良かった。本気でそう思った。


 数時間程、歩いただろうか。


 運良く、モンスターに出会う事もなく、滝を発見する事が出来た。

 「やったぁ…これで水は確保できた。もうすぐ夕暮れだし、後は……寝床の確保だな。」


 元々薄暗い森が、さらに薄暗くなり目を凝らしながら、水場の近くをウロウロとする。

 喉は乾いたが、まずは寝床の確保だ、そう自分に言い聞かせ、必死に探した。


 すると水場の近くの一本の木の根元に大きく穴が空き、人一人分くらいが入れるスペースがあった。

 中を確認し、虫や生物が居ないかを念入りに確認したのち、俺はその穴の中に入った。

 その時だった。


ーードシンッドシンッ


 聞いたことのある大きな足音が森の中に響き渡った。

 すぐに土魔法で木の出入り口を閉じるが、今度は小さな穴を開けて外の様子を見れるようにする。


 息を止めて穴から外を覗く。
 単に、あの正体が気になったのだ。


 大きな足音は水場の方に歩いていく。
 そして、徐々にその姿を俺の目の前へと現した。


 全身は真っ黒な毛で覆われ、10tトラックくらいの大きさの……足が6本もあるクマだった。地球で一番大きなクマと言われているグリズリーですら、あんな大きさではない…と思う。
 とにかく、遠くにいるはずなのに、視界いっぱいにクマの身体が見える事に恐怖する。


 さっきまで、あいつに追われていた。
 そう思うだけで、身体が震えて止まらない。
 俺は、震える身体を抑えながら、小さな穴から必死にその姿を見続けた。


 そのクマは、ゆっくりと水辺に行くと、顔を水につけて水を飲んでいる様だった。

 そして、水を飲み終わった後、顔を上げ、満足したのか大きな欠伸をした、その時だった。

 「ギャァッ……ッッッッッッ!!!!」

 声を出してしまったのは、俺だ。

 何故声を出したのか。それは、が欠伸をした時に見えたモノが原因だ。
 多分、人間の頭部、あと足。それが、無数に生えた牙の隙間に挟まっているのが見えてしまったからだった。

 必死で、口を閉じたが、時すでに遅し。
 クマの目線は、完全に俺のいる方向に向いていた。

 逃げ場はすでになく、死を覚悟するのみだ。
 俺もあの挟まっている頭部の仲間入りを覚悟したその瞬間。

 次は、急に水中から出てきた一本の太い紐の様な物が、クマの身体に巻きつき、一瞬で水中に引き込んだのだ。

 俺は何が起こったのか、もう何も分からなかった。

 ただ、目の前の小さな穴から怪獣映画でも見ているかの様な、あまりにも現実離れした光景に目を奪われるだけだった。

 暴れているクマも、しばらくするうちに、姿が見えなくなり水面に泡ぶくだけが上がってきている。
 そして、ついには、まるで何もなかったかの様に、滝の音だけが聞こえる様になる。

 強いものだけが生き残る世界。日本では考えられない恐竜時代の様な世界に、俺はただ呆然とするだけだった。

 しかし、逆にその分かりやすい世界が俺の心を変えてくれた。


 明日からは何も縛られず、自然の中で自由気ままに生きよう。

 
 そう、心に決めると、急激に眠気に襲われ、俺は目を閉じた。


 

 
 
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