異世界来たんだから気ままに過ごしたっていいんじゃない?

華町はる

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10話 出会い

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ーーガサッゴソッ

 俺の背後から、草をかき分け、何かが近づいてくる様だ。
 あの巨大なクマの一件があってから、如何なる時も周囲に気を配って、気配を探っていたのにも関わらず、全く気づけなかった事に少し警戒を強めた。

 頬張っていた魚をすぐに手から離し、その手を剣に掛ける。
 剣など、正直使えないが気休め程度だ。

ーーガサッ

 突然、草をかき分けて出て来たのは、あの巨大な10tトラックほどのクマ……ではなく、それを片手で持ち上げた小さなクマ……いや、人だった。

 漆黒の毛皮を羽織り、開かれた胸元からは、見事な胸筋が見え隠れしている。巨大クマを持ち上げている手は俺の太ももと変わらないほどに太く逞しい。
 髪の毛はボサボサで、長髪。
 そして、自分の体の倍以上の太さの剣を背中に背負った大柄の原始人みたいな、おっさんだった。

 その人は、俺を見ると、ニヤリと笑い、片手で持ち上げていた巨大なクマを、軽々しく川へと放り投げた。

ーーッドッパァァアーン

 大きな音と水しぶきを上げて、巨大なクマは川辺に落ちたまま、動かずに横たわっている。そしてゆっくりと、川が真っ赤に染まり始めた。

 (え……血!?あのクマを倒したのか…!?)

 俺はすぐに剣を引き抜き、警戒を強める。

 「ほぉ…信用できないってか!?……まぁ当たり前か。ガキにしては、いい心がけだな。だが…この森で生き残るには、足りないものが多すぎるッ!」


 その瞬間、目の前にいた大男が突然、視界から消える。そしてそれとほぼ同時に、俺の視界が歪み、いつのまにか顔面を地面に打ち付けていた。

 何も気付かぬ間に、意識は刈り取られていた。


ーーパチッパチッ


 目が覚めると、俺は横になって寝ていた様だった。

 隣を見ると、火事ではないかと思うほどに大きな火が上がっていた。

 「はっ……!?火事!?逃げないと……ッッ!?ッイッテェ……」

 激しい身体の痛みを感じ、また仰向けとなってしまう。
 
 (こんな時こそ、冷静に。)

 そう自分に言い聞かせ、周囲を見渡す。そして気が付いた。

 「これって、火事じゃなくて……キャンプファイァァァア!?」

 そう、火事だと思っていたのは、横に長い大きなキャンプファイアだった。
 そして、その上には、大きな丸太に吊り下げられた、あの巨大クマが火に炙られている。

 まるで、巨人のキャンプに迷い込んでしまった、小人の如く、自分が小さいのではないかと錯覚するほどだ。
 そんな光景に目を奪われながら、次は、ゆっくりと身体を起こす。

 かなり全身に痛みがあるが、なんとか身体を起こす事ができた。


 「おぅ、起きたか坊主。さっきは悪かったな、突然殴っちまって。ただ、めんどくさいの嫌いだからよ、落ち着かせたほうがいいと思って殴っちまった。お詫びによ、コイツでも一緒に食わねーか?」

 そう言って、巨大グマを片手で持ってきたオッさんは、丸太にぶら下げられた、巨大グマの丸焼きを指差した。

 俺は夢でも見ているのだろうか。あんなに恐ろしかった巨大なクマが今人間に喰われようとしているのだ。

 「あの……オッさんは誰…ですか?」

 「お…わりぃわりぃ、自己紹介がまだだったな、俺の名前は『ライオット・ガ・ネスタ』だ。SSSランクのハンターで、今回はアーサー公爵の依頼でお前さん……ケータっつったか?を助けに来た」

 「俺を助けに?ってかアーサー公爵?誰ですか?……ってかSSSランクッ!?」

 「まぁ、落ち着けって。まだこれが焼けるまでは時間があるからちょっと話すか。」


 そこから俺は今回の件の全貌を聞いた。


 ・勇者召喚には、もともと賛成派と反対派がいたということ。
 ・マラトン公爵が賛成派でアーサー公爵が反対派であること。
 ・マラトン公爵が王を懐柔し勝手に勇者召喚を進めた事。
 ・マラトン公爵が使えない俺を殺すためにゴロツキを雇って兵士にしたこと。
 ・ただ、マラトン公爵は王を懐柔してる為、無闇に動けないこと。
 ・アーサー公爵が俺を助けようとライオットさんに依頼を出したこと。

 全てを聞いて、俺は自分がまた要らないモノとして扱われた事にショックと怒りを覚えた。そして、同時に、アーサー伯爵とライオットさんに感謝をした。

 「分かりました。ライオットさん、助けて頂いてありがとうございます。それで、他の勇者……ツヨシさん、ユーミさん、アンリさんは?」

 「いや、いい。気にするな。俺がアーサー公爵の家に訪ねた時、他の勇者達には全貌を伝えるなと釘を刺されたよ。」

 「なんでですか?」

 「マラトン公爵を裁くには、まだ証拠が足りないからだ。慎重に進めたいみたいだぞ。それに、ほら……昔勇者が暴走したという話があっただろ?アーサー公爵はそれを一番に危惧してるんだ。マラトン公爵が勝手にやった行為だとしても、それは国の責任になる。だから、勇者達には秘密にしながら、ケータを助けたいと。だが、自分が動くと公爵家同士の争いになり、大事になるから、秘密裏に動ける俺に依頼したらしい。」

 「そうですか……」

 「今後、マラトン公爵が、何かしらの形で私利私欲の為に動いた時に、今回の件に併せてバッサリと行くと言っていた。その辺の難しい話は俺もよくわかんねーけど。」

 「えっと、じゃあマラトン公爵が俺を殺す事は、城の人も知ってたって事ですか…?それに、もしかしたら、一緒に召喚された人達の中にマラトン公爵側の人がいる可能性も……?」


 俺の頭には、高校の映像がフラッシュバックしていた。
 虐めっ子3人に虐められていたわけだが、結局他のクラスメイト達も見て見ぬ振りをしていた。俺からしてみれば、虐めっ子3人とクラスメイトは皆同じ"敵"だった。


 やっと新しい世界に来たのに、これではまた前と同じ。
 そう思っただけで胸が苦しくなってきた。

 ライオットの返答を固唾を飲んで見守った。


 「いや、他の勇者達は、知らないだろうな……憶測だが。ケータの遭難を聞いて、かなり心配していたみたいだし、中には捜そうと飛び出した勇者もいたそうだぞ。すぐに戻されたみたいだけど。あ、あと、なんっつっーたかな、給仕見習いの1人もすごい心配してたらしい。立場を忘れてアーサー公爵を色々と問い詰めたらしい。今は頭を冷やせと、自分の部屋に閉じ込められてるらしい。城の人間で誰が把握してたかは正直わからん。アーサー公爵に聞いてくれ。」


 その返答を聞き、心底安堵して、気が抜けた。
 やっぱりあの人達はいい人だ。ってか給仕見習いってフェルかな?

 「はぁ。……まぁでも、それならまだよかったです。……ホッとしました。それで……これから俺はどうすれば良いんですか……?」

 「んあっ!?……っんなのは、知らねーよ。自分で考えろ。どうすれば良いのかじゃなくて、どうしたいのかだろ。戻りたいってんなら、責任持ってお前を連れてくけど、戻りたくないってんなら、どうしたいのか言ってみろ。最低限の補助はしてやるよ。」

 「……どうしたいのか……か……。」

 それ以降、俺は言葉が出てこなかった。

 「……っんだよ…調子狂うな。要は、別に誰かに従う必要なんてないだろって事だ。まぁ、飯食うか。腹減ってんだろ?今日は、肉でも食って寝ろっ!」

 ライオットさんは、立ち上がると背中から大きな大剣を抜き、巨大なクマ目掛けて、上から下へ、右から左へと流れるように軽く剣を振った。

ーーボテッボテッ

 すると、巨大な焼きクマの肉が、大きな肉の塊となり地面に落ちてきた。それを1つ手に取ると、俺の方に投げてくる。
 ただ、一塊で俺と同じくらいの大きさだ。

 ついでにもう一つ、ブルーの方にも投げてくれた。

 「とりあえず、食って英気を養え。肉はたんまりあるからな、遠慮せずに食って良いぞ」

 こんなに食えるかっ!ってツッコミを入れそうになるが、耐えて肉を齧る。

 「ッッッッッッ!?んーーーーッマ!」

 A5ランクの肉なんて食った事なかったが、俺の食べたお肉史上最高の美味しさであることは間違いがない味だった。

 締まった赤身が程よい歯ごたえと肉本来の肉肉しさをインパクトとして与えるが、程よい脂身が口の中に入ると体温でトロけ、まろやかさ、そして上品な甘みに変わる。その二つの味わいが口の中で混ざり合い、絶妙なパワーバランスを保っているのだ。

 「これならいくらでも食べれそうです!」

 「そうか、美味しいなら良かった。」


 それから俺は怒涛の勢いで食べ続けた。
 肉塊は、どんどんと消え、遂には、巨大なクマの骨と頭部だけが残った。

 「プハァー……美味しかったです、ご馳走様でした!」

 「お、おぅ。そんな腹減ってたのか……ってかよく食うな。あのクマが無くなるなんてな。やるじゃねーか。」

 「すいません、あまりに美味しくてつい……」

 「まぁ気にすんなって……ってか……気のせいならごめんだけど、お前なんか強くなってねーか?」

 「え……!?そんなはずは…」

 「いいからステータス確認してみろ。」

 「まぁ…はい…。"ステータス"。………って、ええええええええええっ!!??」

 あまりの驚きに、ケータの発した叫び声は、森中に響き渡るほどだった。

 
 
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