快傑!紅烏(ベニカラス) 蘇る大江戸ヒーロー伝

冨井春義

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序章 紅烏登場

本番前

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愛宕山の『紅烏の巣』の裏手にある紅烏凧の訓練場が、今夜の紅烏飛行作戦の出発点となる。
その出発点には人間が乗れる大きさの濃緑の飛び灯篭が置かれていた。すなわち熱気球である。
平賀源内はその気球のゴンドラ部分の内部にあるバーナーを調整しながら、松岡幸助に言った。

「ぶっつけ本番でこれを使用するのは少々不安ではありますがね、飛び灯篭のほうはあまり目立つと不味いので、やたらとは揚げられないのです。もう少し日が暗くなってから揚げることにしましょう」

飛び灯篭は夜の闇に紛れる色に塗られているし、バーナーの火の灯りが漏れないようにも工夫されている。

「はあ。しかしこれから飛び降りるなんて、本当に大丈夫なのでしょうか?」

さすがに幸助の方は少々どころか大いに不安であった。

「ここは江戸では一番の高台なんですがね、それでも深川まで飛んで行くには高さが少し足りないので飛び灯篭であと千尺ばかり高さを稼ぎます。その高さから飛び出すと同時に右手の綱を引いて羽を広げてください。必ず飛べます」

源内は軽く言うが、実際に飛ぶのは幸助なのだ。
この作戦は初手から命がけである。

「幸ちゃん、あなただけに命を賭けさせたりはしませんよ。あなたでも源ちゃんでも、どちらかひとりでも命を落とすようなことがあれば、私も命を捨てる覚悟です」

「・・先生。。」

源内はにやりと口の端を吊り上げて笑った。

「それだけ私はこの道具に自信を持っているし、あなたたちの腕を信用している。心配ないです。飛ぶのはそれほど難しくないです。むしろ着地の方が難しいですから、そちらを段取り通り上手くやってください。それからこれを」

源内は幸助に角笛のようなものを手渡した。

「烏笛です。吹くとカラスの鳴き声になります。できれば深川まで飛んだらこれを吹きながら派手に飛び回ってください。空飛ぶ紅烏の姿をできるだけ多くの人に目撃させるのです」

そういうと源内は愛宕山から見下ろせる江戸の風景を見回した。

「少し暗くなってきましたね。風も少ないし良い具合です。そろそろ飛び灯篭に火を入れましょう」

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「紅烏の野郎は本当にここを襲うつもりなのか、それともここに人手を集めさせてここまでの道中を襲うつもりなのか・・・」

蝮の松吉とともに『河豚善』にやってきた黒河豚の駒三は、店の玄関先に黒頭巾組と自らの手下を集めて言った。

「しかしいずれにしても奴が現れたときは袋のネズミにしなきゃならねえ。万全の備えで臨め。黒頭巾の先生方もよろしく頼みますぜ」

それを聞いた黒頭巾組の組頭・佐藤平右衛門が言う。

「紅烏がもしここに直接現れるとしたら、あの派手な格好でのこのこと歩いてくるわけがない。おそらくは客に紛れて店に入り込む気じゃないか?」

「先生、本日は客止めしています。店の中の居るのはすべてあっしの身内ですからその心配はありません」

平右衛門は大きく頷く。

「するとあの芝居がかった紅烏は、店の外から派手に乗り込むしかないわけか」

「岡場所内はウチの者が見回っておりますし、店の一階、二階には喧嘩慣れした連中がざっと二百人は控えています。それに加えて先生方だ。岡田様とあっしは三階の『花鳥の間』におりますが、とてもそこまではたどり着けますまい」

ここでふたりの会話を黙って聞いていた源三郎が口を開いた。

「親分、たしかにこれならさすがの紅烏の野郎も突破するのは無理だろう。今回は俺の出番は無さそうだが、念のためだ。先ほど楼内を見物させてもらったんだが、三階の『花鳥の間』に通じる階段の登り口、あそこが最後の関門になる。俺は奉行を警護してここまでたどり着いたらすぐにそこに移動して護らせてもらうぜ。猫の子一匹通さねえ」

これを聞いた駒三は相好を崩した。

「まあ今回は先生の手を煩わせることはなさそうですが、確かにその場所で先生に控えていただいていると思えば心強いですな。手当は弾ませていただきますんで、よろしくお願いいたしやす。では松吉」

「へい」

松吉は駒三の隣に進み出て皆の方を向いた。

「ではお奉行の警護に回る者は俺と一緒に屋敷へ迎えに行くぞ。先生方も御足労をお願いいたしやす」

こうして黒河豚一家と黒頭巾組の隊列が町奉行の岡田の屋敷に向って進み始めた。
もちろん源三郎もその一員として屋敷に向かう。

(さあいよいよ本番か。幸助、上手くやれよ・・)
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