貴族が通う学院に通う平民は、平穏な学院生活を送りたい

秋月 史明

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第2章 剣術競技祭に迫る陰謀

第11話 タフな教師

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 翌朝、二組の生徒達は中庭に集まっていた。
 剣術競技祭を1週間後に控えた今、授業は休みになっている。

 そして、この機会に二組を優勝に導こうと必死になっている者がいた。

「あのジルト先生が熱心に指導してるぞ……」
「いつものやる気の無さはどこに言ったんだよ?」
「明日、槍が降らない事を祈りますわ」

 二組の練習を見ている生徒達がそんな事を口にする。

 剣術競技祭の出場種目決めの時にジルトは寝ようとしていたのだ。
 その事は学年で噂になっていたし、二組の優勝は有り得ないと他のクラスの生徒達は思っていた。

 そのはずが……

「こういうときは、手首をこう捻りながらな……」
「先生ーー! これを防ぐのが中々出来ないので……」
「少し待て! 俺の腕は2本しかないし体は1つしかないんだよ!」
「余計なこと言ってないで早く教えてください」

 ……そんな会話が聞こえない周りの生徒達にはジルトは熱心に教えているようにしか見えていなかった。

「俺が必死に教えてやってるのに優勝しなかったら許さないからな! 覚悟しておけ! ……負けたら単位落とす」

 とんでもない事を口にしている事も。

「あの先生って凄い人だったんだな……」
「何がですの?」
「ほら、あそこ。宮廷騎士団の人が教えてるだろ? 練習ごときで宮廷騎士団の騎士さんを呼べるって、凄いとしか言えないだろ?」
「た、確かにそうですわね」

 何も知らない生徒達がそんな事を話す。ジルトが凄いのでは無いのだが。

 こんな状況が生まれた原因は昨日届いた脅迫状にある。
 いつ、王女のレイシアに危害が加えられるか分からない今の状況に、厳重な警備を敷く以外の選択肢は無い。

 だが、物々しさは見せない。生徒の練習に付き合っているのは、物々しさをある程度抑える為だ。
 もちろん、脅迫状にあった『二組が優勝しなければレイシアを殺す』という意味の文を信じて二組を優勝に導こうとしているのもある。

「あ、お久し振りです」
「ハルクか。久しいな。お前も大変だな……なんかあったら言えよ?」
「はい。もちろんです」

 1年近く宮廷騎士団に身を置いていたハルクは騎士と容易に会話を交わしていた。
 その様子を見ていた不真面目さに定評のある二組担任講師のジルト・イリスナはある言葉を放った。

「お前達って本当に馬鹿だよな……プロの騎士殿がわざわざ来てくれてるっていうのに、素人の俺に敢えて教えてもおうだなんてな。本当に馬鹿としか言いようが無いよな……人見知りも大概にしろよ」

 声を大にして放たれたその言葉は二組のほとんどの生徒の耳に入った。

「そこまで言うならもう先生を頼りませんよ!」
「ああ、そうしてくれ」

 そして……生徒達がジルトに教えてもらうのを止めてから数分後――

「先生! 寝るってどういうことですか!? 寝るって!」

 ――中庭の芝生の上で大の字になって寝ているジルトを生徒達が叩き起こしていた。

「んーー? 俺は寝不足なんだよ! 昨日も徹夜で賭け戦戯盤チェスしてたからな!」
「それ、威張る事……?」

 生徒は呆れの余り、敬語を忘れている。

 そして……

「「いい加減に起きろオオォォォォ――ッ!」」

 ……ボカッ!
 ……ベキッ!
 ……ドカッ!

 ――目を覆いたくなるような凄惨な校内暴力事件が勃発するのだった。

「二組の優勝は有り得ないな……」

 そして、敵チームの情報収集に来ていた一年の生徒がそう呟いた。

 ……。
 …………。

「やっと飯が食えるうゥゥ――ッ!」

 先の暴力事件で全身にあざと切り傷を刻まれたはずのジルトがピンピンした状態で食堂に向かっていた。
 それはもう……

「何あれ……キモッ」

 ……二組の生徒の口からそんな言葉が飛び出すレベルだった。

 ちなみに、ジルトが生き生きとしている理由は、レイシアが治癒魔術をかけたからだ。それも、完全に治癒させた訳じゃない。
 だから、ジルトの体には痣が残っている

「先生って凄いね……簡単な治癒魔術をかけただけなのに……」
「「絶対に治癒魔術は関係ないから!」」

 レイシアの言葉をハルクとシルフィが全力で否定する。

 ジルトが元気になったのは、レイシアが「午後もよろししくお願いしますね?」と微笑みながら言ってからなのだ。

「私たちもお昼、済ませちゃおう?」
「そうだな」
「私、席を確保しておくわね。ハルクくん、パスタよろしく」

 そんな会話を交わして、ハルク達は二手に分かれた。
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