28 / 200
アスフォルデの環④再び
否定の刃、揺れる心
しおりを挟む
南の村まで、あとわずかという地点。
陽光が柔らかく差し込む小道に、緊張の気配が走った。
「――待ちなさい」
その声は、冷たい刃のようだった。
健司たちの前に現れたのは、黒と紫を基調とした装束に身を包んだ少女――ローザ。
その瞳はまっすぐに、健司たちを射抜いていた。
「ローザ……」
クロエが警戒を込めて名を呼ぶ。
リセルも目を細め、そっと健司の前に立った。
ローザは動かず、ただ静かに言った。
「夢物語を……語るのはやめて。そんなもの、現実にはならない」
「……どうして?」
健司が一歩前に出た。
「魔女が笑って暮らせる世界を作る。それが夢物語だとしても、僕たちは――」
「それが、間違ってるって言ってるのよ!」
ローザが叫んだ。
その瞬間、大地を震わせるような魔力が解き放たれた。
地面から漆黒の荊が走り出し、健司たちに向かってうねるように伸びてくる。
同時に、ローザの手には黒き剣――「闇の剣」が握られていた。
「これが私の“否定”。ダークソードスラッシュ!」
鋭く振り抜かれた剣から放たれたのは、闇そのものの斬撃。
健司を目がけて一直線に迫ってくる。
「危ないっ!」
クロエが叫ぶその瞬間、健司は地面を転がるようにして回避した。
ぎりぎりで斬撃が頭上を掠め、木々を裂き、爆発的な音を残す。
「っ……!」
クロエとリセルがすぐさま動いた。
リセルは闇の槍を、クロエは闇の刃を放ち、ローザに向けて反撃する。
しかし――
ローザはそれを読むように軽やかに跳び、空中で姿勢をひねり、避ける。
「クロエも……リセルも……! なぜ人間の言葉に心を許すの!」
再び地に降り立ったローザは、闇の荊を束ねるようにして鞭のように操り、健司の背後から襲いかかる。
「健司っ!」
クロエとリセルが同時に叫ぶ――だが、間に合わない。
(……こっちだ)
健司は自ら振り向き、迫る荊の気配に向かって両手を伸ばした。
「――やめて!」
その声とともに、健司の手が闇の荊を“つかんだ”。
「なっ……!」
ローザの目が見開かれる。
健司は、全身に力を込めて言葉を吐いた。
「……もう、いいよ。攻撃しなくていい。君が傷つくところなんて、見たくない」
「……どうして……! 私はあなたを倒そうとしてるのに!」
ローザの声は震えていた。
健司は彼女の目をまっすぐ見て、優しく、しかし揺るがぬ声で言った。
「――羨ましいんだね。クロエやリセルが、笑ってるのを見て」
その一言に、ローザの身体がぴたりと止まった。
「……ちがっ……!」
「違わないよ」
健司は荊をゆっくりと解くように手を離した。
「君だって、本当は笑いたい。信じたい。誰かを。でも、それが裏切られたら怖いから……否定することで、自分を守ってきた」
「……っ!」
ローザの顔が歪んだ。怒りとも悲しみともつかない表情が浮かぶ。
「私は……間違ってると思ってない! 人間なんて……!」
「僕が“人間”だから?」
「――!」
「だったら、話を聞いてよ。僕は君を傷つけるためにここにいるんじゃない。君を……救いたい。戦わなくても、わかり合えるって信じてる」
ローザは唇をかみしめた。
闇の剣が、少しずつ手から滑り落ちる。
「私には……そんなの、似合わない。強くなきゃ……“魔女”じゃいられない。優しさなんて……」
「優しさは、弱さじゃないよ」
健司がそっと近づいて、手を差し出す。
「一緒に行こう、ローザ。僕たちと。笑える場所に」
ローザの瞳に、涙がにじんだ。
そのとき――
闇の荊が、ふわりとしおれ、消えていく。
剣もまた、虚空に溶けていった。
「……バカみたい。私、ずっと……こうして戦うことでしか、自分の気持ちを伝えられなかった」
「でも、伝わったよ」
健司の手は、ローザの頬にふれることなく、ただそっと前に伸ばされたままだ。
ローザは、その手をじっと見ていた。
そして……まだ手を取ることはなかったが、拒絶もしなかった。
「……クロエ、リセル。あなたたち、変わったわね」
「そうね。でも、それは――」
リセルが静かに言う。
「誰かを信じたからよ」
クロエも頷く。
「そして、信じられたから」
ローザは、しばらく黙っていたが、やがて小さく口を開いた。
「……私も、もう少し……見てみたい。あなたたちが、どこまで行けるのか」
健司はほっとしたように微笑んだ。
「ありがとう、ローザ」
「……ただし」
ローザはピッと指を立てた。
「私はまだ、完全には納得していない。だから、ついていくわけじゃないけど、見届けるだけ。いい?」
「うん、それでいいよ」
そのやりとりを見ていたミイナがくすりと笑った。
「ローザも一緒に住むの?」
「誰が住むって言ったのよ!」
「でもでも、健司の家はあったかいよ!」
ルナも加勢して、場の空気が一気に和やかになっていく。
ローザは頭を抱えたが、その頬には、わずかに微笑のようなものが浮かんでいた。
太陽は高く昇り、彼らの行く先――南の村を照らし出していた。
そこは、誰もがまだ見たことのない未来。
でも、確かに希望は芽吹いていた。
陽光が柔らかく差し込む小道に、緊張の気配が走った。
「――待ちなさい」
その声は、冷たい刃のようだった。
健司たちの前に現れたのは、黒と紫を基調とした装束に身を包んだ少女――ローザ。
その瞳はまっすぐに、健司たちを射抜いていた。
「ローザ……」
クロエが警戒を込めて名を呼ぶ。
リセルも目を細め、そっと健司の前に立った。
ローザは動かず、ただ静かに言った。
「夢物語を……語るのはやめて。そんなもの、現実にはならない」
「……どうして?」
健司が一歩前に出た。
「魔女が笑って暮らせる世界を作る。それが夢物語だとしても、僕たちは――」
「それが、間違ってるって言ってるのよ!」
ローザが叫んだ。
その瞬間、大地を震わせるような魔力が解き放たれた。
地面から漆黒の荊が走り出し、健司たちに向かってうねるように伸びてくる。
同時に、ローザの手には黒き剣――「闇の剣」が握られていた。
「これが私の“否定”。ダークソードスラッシュ!」
鋭く振り抜かれた剣から放たれたのは、闇そのものの斬撃。
健司を目がけて一直線に迫ってくる。
「危ないっ!」
クロエが叫ぶその瞬間、健司は地面を転がるようにして回避した。
ぎりぎりで斬撃が頭上を掠め、木々を裂き、爆発的な音を残す。
「っ……!」
クロエとリセルがすぐさま動いた。
リセルは闇の槍を、クロエは闇の刃を放ち、ローザに向けて反撃する。
しかし――
ローザはそれを読むように軽やかに跳び、空中で姿勢をひねり、避ける。
「クロエも……リセルも……! なぜ人間の言葉に心を許すの!」
再び地に降り立ったローザは、闇の荊を束ねるようにして鞭のように操り、健司の背後から襲いかかる。
「健司っ!」
クロエとリセルが同時に叫ぶ――だが、間に合わない。
(……こっちだ)
健司は自ら振り向き、迫る荊の気配に向かって両手を伸ばした。
「――やめて!」
その声とともに、健司の手が闇の荊を“つかんだ”。
「なっ……!」
ローザの目が見開かれる。
健司は、全身に力を込めて言葉を吐いた。
「……もう、いいよ。攻撃しなくていい。君が傷つくところなんて、見たくない」
「……どうして……! 私はあなたを倒そうとしてるのに!」
ローザの声は震えていた。
健司は彼女の目をまっすぐ見て、優しく、しかし揺るがぬ声で言った。
「――羨ましいんだね。クロエやリセルが、笑ってるのを見て」
その一言に、ローザの身体がぴたりと止まった。
「……ちがっ……!」
「違わないよ」
健司は荊をゆっくりと解くように手を離した。
「君だって、本当は笑いたい。信じたい。誰かを。でも、それが裏切られたら怖いから……否定することで、自分を守ってきた」
「……っ!」
ローザの顔が歪んだ。怒りとも悲しみともつかない表情が浮かぶ。
「私は……間違ってると思ってない! 人間なんて……!」
「僕が“人間”だから?」
「――!」
「だったら、話を聞いてよ。僕は君を傷つけるためにここにいるんじゃない。君を……救いたい。戦わなくても、わかり合えるって信じてる」
ローザは唇をかみしめた。
闇の剣が、少しずつ手から滑り落ちる。
「私には……そんなの、似合わない。強くなきゃ……“魔女”じゃいられない。優しさなんて……」
「優しさは、弱さじゃないよ」
健司がそっと近づいて、手を差し出す。
「一緒に行こう、ローザ。僕たちと。笑える場所に」
ローザの瞳に、涙がにじんだ。
そのとき――
闇の荊が、ふわりとしおれ、消えていく。
剣もまた、虚空に溶けていった。
「……バカみたい。私、ずっと……こうして戦うことでしか、自分の気持ちを伝えられなかった」
「でも、伝わったよ」
健司の手は、ローザの頬にふれることなく、ただそっと前に伸ばされたままだ。
ローザは、その手をじっと見ていた。
そして……まだ手を取ることはなかったが、拒絶もしなかった。
「……クロエ、リセル。あなたたち、変わったわね」
「そうね。でも、それは――」
リセルが静かに言う。
「誰かを信じたからよ」
クロエも頷く。
「そして、信じられたから」
ローザは、しばらく黙っていたが、やがて小さく口を開いた。
「……私も、もう少し……見てみたい。あなたたちが、どこまで行けるのか」
健司はほっとしたように微笑んだ。
「ありがとう、ローザ」
「……ただし」
ローザはピッと指を立てた。
「私はまだ、完全には納得していない。だから、ついていくわけじゃないけど、見届けるだけ。いい?」
「うん、それでいいよ」
そのやりとりを見ていたミイナがくすりと笑った。
「ローザも一緒に住むの?」
「誰が住むって言ったのよ!」
「でもでも、健司の家はあったかいよ!」
ルナも加勢して、場の空気が一気に和やかになっていく。
ローザは頭を抱えたが、その頬には、わずかに微笑のようなものが浮かんでいた。
太陽は高く昇り、彼らの行く先――南の村を照らし出していた。
そこは、誰もがまだ見たことのない未来。
でも、確かに希望は芽吹いていた。
0
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
貴方がLv1から2に上がるまでに必要な経験値は【6億4873万5213】だと宣言されたけどレベル1の状態でも実は最強な村娘!!
ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
この世界の勇者達に道案内をして欲しいと言われ素直に従う村娘のケロナ。
その道中で【戦闘レベル】なる物の存在を知った彼女は教会でレベルアップに必要な経験値量を言われて唖然とする。
ケロナがたった1レベル上昇する為に必要な経験値は...なんと億越えだったのだ!!。
それを勇者パーティの面々に鼻で笑われてしまうケロナだったが彼女はめげない!!。
そもそも今の彼女は村娘で戦う必要がないから安心だよね?。
※1話1話が物凄く短く500文字から1000文字程度で書かせていただくつもりです。
勘当された少年と不思議な少女
レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。
理由は外れスキルを持ってるから…
眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。
そんな2人が出会って…
【完結】数十分後に婚約破棄&冤罪を食らうっぽいので、野次馬と手を組んでみた
月白ヤトヒコ
ファンタジー
「レシウス伯爵令嬢ディアンヌ! 今ここで、貴様との婚約を破棄するっ!?」
高らかに宣言する声が、辺りに響き渡った。
この婚約破棄は数十分前に知ったこと。
きっと、『衆人環視の前で婚約破棄する俺、かっこいい!』とでも思っているんでしょうね。キモっ!
「婚約破棄、了承致しました。つきましては、理由をお伺いしても?」
だからわたくしは、すぐそこで知り合った野次馬と手を組むことにした。
「ふっ、知れたこと! 貴様は、わたしの愛するこの可憐な」
「よっ、まさかの自分からの不貞の告白!」
「憎いねこの色男!」
ドヤ顔して、なんぞ花畑なことを言い掛けた言葉が、飛んで来た核心的な野次に遮られる。
「婚約者を蔑ろにして育てた不誠実な真実の愛!」
「女泣かせたぁこのことだね!」
「そして、婚約者がいる男に擦り寄るか弱い女!」
「か弱いだぁ? 図太ぇ神経した厚顔女の間違いじゃぁねぇのかい!」
さあ、存分に野次ってもらうから覚悟して頂きますわ。
設定はふわっと。
『腐ったお姉様。伏してお願い奉りやがるから、是非とも助けろくださいっ!?』と、ちょっと繋りあり。『腐ったお姉様~』を読んでなくても大丈夫です。
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる