婚約者の恋

うりぼう

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いつもより早起きをしてのんびりとご飯を食べ、まだ誰もいない廊下を歩く。

昨日に引き続きあまり緊張はしていない。
本戦とはいえまだ一回戦だからだろうか。
勝ち抜いて、明日明後日と試合を進めていくと少しずつ緊張していくのかもしれない。

(俺の一回戦目の相手は、ジエンって人か)

昨日ダリアに聞いた要注意人物の中には入っていなかった名だが、予選を突破したのだから強いはず。
どんな人だろう。
多分男だよな。
同じ学年の奴か、はたまた上の学年か。
知った所で全力で相手をする事に変わりはないからまあ良いか。

キュイキューイ

「うん、今から竜舎に行くぞ」

今日は先に俺が食事を済ませてしまった為、ユーンに付き添って竜舎に行くことにしたのだ。
昨日双子がお世話になったし、そのお礼もしておかないと。
一緒に竜舎に行くのは久しぶりなのでユーンが嬉しそうに鳴いている。
最近練習で忙しかったから一緒に行けてなかったもんなあ。
ユーンは勝手に行けるから関係ないのかもしれないけど、こうして喜んでいる所を見るとこちらも嬉しい。

寄宿舎から外に出て竜舎への道を歩く。
お祭り騒ぎだった学園内も今はまだ静かなまま。
誰もいないと何となく空気も美味しい気がする。

「リュイさん、おはようございます」
「エル、おはよう」

竜舎に着くとリュイさんはもう仕事を始めていた。
いつものように餌用の収納袋からどかどかと餌をあげている。

「ユーンもおはよう」

キュー!

「お腹空いたでしょ?はい、どうぞ」

キューイ!

ユーンに餌をやりつつ、リュイさんがこちらに向き直る。

「今日は随分早いんだね」
「本戦があるから早起きしたんです。ちょっと練習しようかと思って」
「偉いねえ。それに本戦に進めたんだ?」
「はい、何とか。そうだ、昨日はうちの双子来ましたよね?」
「来たよ、竜に乗ってすっごくはしゃいでた」
「迷惑かけませんでしたか?」
「大丈夫。良い子達だったよ」
「良かったです」

何か迷惑をかけていたらどうしようかと思った。
あの双子に限って物凄く迷惑をかけるという事はしないだろうけれども少しだけ心配だったのだ。
かなりテンションも上がっていたし、子供は何しでかすかわからないからな。

「双子ちゃんってエルにそっくりだよね」
「そうですか?」
「うん、そっくりで可愛かった」
「そうでしょう?可愛いんですよエヴァもエストも」

俺に似ているかどうかはさておき、双子が可愛いというのは全力で肯定させていただく。
可愛いんだようちの双子は。

「エルも乗りにくる?」
「来たいですけど、授業でも乗るから我慢しときます。他にも乗りたい人いっぱいいるだろうし」
「そう?遠慮しなくて良いのに」
「しちゃいますよ、この時期しか来れない人もいるんだから」
「それもそうだね」

のんびりとリュイさんと話をしていたい気もするが、今日は練習する為に早起きしたのだ。

「すいませんリュイさん、俺行きますね」
「うん、またね」
「ユーン、また後でな!」

キュー!

ご飯を夢中で食べているユーンに声をかけ、俺は練習場へと向かった。









(ん?誰かいる?)

練習場に誰かがいる気配がする。
こんな早くから練習する人がいるのか。
……ってそりゃそうか、もう本戦が始まるんだもんな。
みんな練習するに決まってる。

(一緒に練習して良いかな?それとも場所移した方が……)

と考えながら練習場をそっと覗くと、そこにいたのは見覚えのありすぎる人物だった。

「王子」
「!エル」

練習場で一人練習していたのはダリアだった。

「早いですね」
「エルこそ早いな。練習か?」
「はい。でも場所移動します」
「何故だ?ここですれば良いだろう」
「邪魔じゃないですか?」
「むしろ大歓迎だ」
「じゃあ、遠慮なく」

ダリアの許可にあっさりと頷き中に入る。
いつからいたのだろうか、ダリアはうっすらと汗をかいていた。

「ユーンはどうした?」
「朝ご飯中です」
「竜舎にいるのか」
「はい、さっき送ってきたんで」
「……お前も行ったのか?」
「そうですけど?」
「……そうか」

何やら不満そうな顔だ。
どうにもダリアは俺がリュイさんのところに行くのが不満のようだ。
まさかこいつも俺とリュイさんが付き合ってるとかなんとかリースみたいな事考えてるんじゃないだろうな。
何か言われるだろうかと思っていたがダリアはそれ以上何も言わなかった。

「どうせだから対戦するか?」
「良いんですか?」
「一人でやるのにも飽きていたところだ。エルさえ良ければ付き合ってくれ」
「わかりました」

本戦前にダリアと戦えるのは都合が良い。
力の強い人の動きを覚えておけば後から応用が利くからな。

「では、始めるぞ」
「はい」

お互い正面に立ち魔法具を構える。
今までの練習ではなかったピリッとした空気。
ダリアの魔力の圧をこれでもかと感じる。

(……っ、やっぱり強いんだな王子って)

去年の優勝者だしそれこそずっと前からわかってはいたけれど、こうして向き合うと改めて強さを感じる。
練習中、いかに俺のレベルに合わせてくれていたのかが良くわかる。
これが本番だったら、この時点でギブアップする人がいても不思議じゃないくらいの圧だ。

「来ないのか?」
「しゃあしゃあと……意地悪ですね」
「何の事だ?」

攻撃をさせる隙を与えていないくせにそう言うダリア。
ニヤリと笑うその顔がまたムカつく。

「エルがやらないなら、こちらから行くぞ?」
「……っ」

構えていた魔法具がほんの少しだけ動く。
それにぴくりと反応しすぐに動けるよう身構える。

その後ダリアにけちょんけちょんにやられてしまったのは言うまでもない。

「本番もその調子で頑張るんだな」
「次は、絶対、勝ちます……!」
「ああ、期待してる」

本番前に何でこんなに疲れてるんだろうかと思いつつ、身体を解すにはちょうど良い朝の一幕だった。


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