婚約者の恋

うりぼう

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「かわいすぎる……!!!!!」

園内に入り一番最初にいたのは緑竜スペース。
名の通り緑色をしていて、こちらは空に飛ぶ事はなく地を這う恐竜だ。
母親らしき緑竜の傍らに小さな小さな子供が数頭いる。
ちょこちょこと母親について歩く様がものすごく可愛い。
動く度に揺れる、竜にしては短い尾がふりふりと左右に揺れるのも堪らない。

思わず口元に手を当て呟く。

キュー

「あ、いや、もちろんユーンが一番可愛いよ!」

キュイキュイ、キュー!

「ああごめん、ごめんってば!」

他の竜を可愛いと言って目を輝かせる俺をじろりと睨むユーン。
ムッとしている表情がまた可愛い。
懐にいるユーンをなだめるように頭を撫でる。
途端に緑竜の子供へと自慢気に胸を張る様子が可愛い、ああ可愛い。
緑竜の子供全然こっち見てないけど。

「ふっ、ユーンの機嫌を取るのも大変だな」
「余所見した俺が悪いんです」
「これから余所見し放題だと思うが?」
「う……っ」

その通りだ。
けれどまあユーンが一番だと言い聞かせていれば問題ないだろう。

「王子、今度は水竜が見たいです」
「水竜は……あそこからだな」
「水竜を直接見るの初めてです」
「俺もだ」

水竜は水の豊かな国に多く生息しているが、ほとんど水の中にいる為中々お目にかかれない。
ここでは水中に通路を作り結界を張り、水の中から見られるようになっている。
完全に水族館だ。

「そういえば氷竜もいるんですよね?」
「ああ、魔法で年中雪を降らせて世話をしているらしい」
「おお、凄いですね」

氷竜だもんなあ。
名前の通り氷の中、ひいては雪の中でしか生きられない竜だからそれも納得だけど。

水竜も氷竜も楽しみだなあ。
水竜は薄い水色をしていて鱗のひとつひとつが虹色に輝くと聞いている。

氷竜は全身氷の塊のような皮膚に覆われていて、特に顔から尾にかけて鋭い棘のようにいくつもの突起が生えている。
炎竜の火吹きも楽しみだし、土竜の背に乗る体験も楽しみだ。

世界最小の竜は隠れるのが得意で見つけるのが大変だと聞く。
世界最大の竜は大きすぎて山にしか見えないという話も聞く。

ああ、どれもこれも楽しみすぎて身体が足りない。
一日じゃ足りない。
いっそここに住みたいくらいだ。

「楽しそうで何よりだ」
「すっごく楽しいです!」

ここはどこだパラダイスか。
天国かはたまた夢の国か。
あちこちに目移りしてしまうし次々に見たい場所が増えるし一度行ってもまた戻ったりまた同じ場所に戻ったりと見どころがありすぎる。

「ユーンの親戚にも会いに行こうな!」

キュー!

ユーンやレティーと同じ紅竜ももちろんいる。
学園外の竜と会うのは初めてだから、最初こそ俺の態度にむくれていたユーンもすぐに楽しみ始めたようだ。

「……って、すみません、俺ばっかり見たいの選んでました。どこか見たいところありませんか?」
「エルの行きたい場所で良いぞ?」
「そうはいきませんよ。せっかく来たんだから王子も楽しまないと!」
「エルを見てるだけで楽しいから気にするな」
「……俺じゃなくて竜を見て下さいよ」

せっかくここまで来たのに俺を見てどうするんだ。
そんな子供を見るような目で見ないでくれ。
年甲斐もなくはしゃいでいる自覚があるから恥ずかしい。
落ち着け俺。
落ち着きを取り戻すんだ。

……なんて思っても落ち着きなんて取り戻せるはずがない。

「あっちで水竜が眠ってるところが見れるんですって!」
「本当!?珍しい!」

なん、だと……!?

そんな声が聞こえてきたら行くしかない。
水竜は滅多に人前で眠らない。
一日のほとんどをずっと泳ぎ続けている竜なのだ。
眠るのは誰の目も届かない水中にある洞窟の中でだけ。
それもほんの短い時間のみ。
生まれた時からここで育てられている個体だと人前で寝る事もあるらしいが、どちらにしろ珍しい事に変わりはない。

「ほう、水竜が寝ているのか」
「行きましょう!」
「そんなに急がなくても水竜は逃げないぞ」
「ダリア!早く早く!」
「!」

うっかりダリアの名前を呼んでしまっていたのに気付かないまま、俺は眠る水竜を見るべくぐいぐいとその手を引っ張り駆け出していた。
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