婚約者の恋

うりぼう

文字の大きさ
80 / 88
10

6

しおりを挟む






『僕が好きなのは、エルなんだけど』

「……え?」

言われたセリフに時間が止まる。

え?好き?好きって言った?
アーシャが俺を?
ん?あれ?アーシャの好きな人の話してたよな?
それがどうして俺が好きだという話に???

「だから、僕はエルが好きなの!」
「いや、え!?ちょっ、待っ」

ぎゅっと手を握り締められ、真っ赤な顔で再度そう告げられた。
アーシャの目はまっすぐにこちらを見つめていてとても冗談を言っているようには見えない。
『友達として?』と聞けるような雰囲気でもないし、違うというのはやはり雰囲気でわかる。

「王子の元婚約者だし、今も仲良いみたいだから諦めようかとも思ったんだけど……エル、王子にそっけないし」
「う……っ」

ぎくりとする。
確かに最近仲良くなりはしたが、自分の気付きたくない感情を無視しているからか多少そっけない態度にはなっている。
それでもアーシャが余計な誤解しないようにアーシャの前では仲良い風を装っていたのにまさか気付かれていたとは。
というよりもアーシャが俺を好きならそれすら無意味だったのでは?

「ねえ、僕じゃダメかな?」
「あ、あの……!」

見つめられた瞳がうるうる潤む。
まるで昔懐かし『アイ◯ル』のCMのぷるぷる震える仔犬のようで不覚にもキュンとする。
正直可愛い。
元々の顔立ちも相まって物凄く可愛い。
やめてくれ俺はこういう顔に弱いんだ。
何でも許してしまいそうになる。

だがしかし俺はこの告白を受け入れられない。
だって俺は……

「……何してるの?」
「「!!!」」

戸惑っていると背後から声を掛けられた。
リュイさんだ。
竜舎にいるのだから彼がいるのは当然。

「あ……!」

まずい。
リュイさんはアーシャが好きなのに。
こんな所見られたら誤解されてしまう。
いや誤解も何も実際にアーシャに告白されてしまったのだけど、それでも好きな子が他の男の手を握っている所なんて見たくないに決まっている。

アーシャの手を離そうとするががっちりと掴まれているし力任せに振り解くのも申し訳なくて出来ない。
心なしかアーシャがリュイさんを睨んでいるような気もするけど……え?何で睨んでんの?
さっきまでのきゅるきゅるうるうるの目どこいった?
怒気が溢れまくってるんですけど。

「あの、これは……!」

慌てて言い訳しようとするが、その前に。

「離して」
「!」

リュイさんがつかつかと近付いてきて、俺の肩を掴みアーシャから引き剥がした。
このまま放り出されてアーシャの方へと向かうと思いきや、リュイさんはそのまま持っていたタオルで俺の手を拭いた。

「???リュイさん?」
「ちょっと、人をバイキンみたいに扱わないで下さいよ」

それを見て更に顔が険しくなっていくアーシャ。
え?え?何事?
リュイさん何してんの?

「エル」
「は、はい」
「アーシャに何されたの?」
「え、いや、何っていうか……」

告白されました、なんて言えるはずがない。
でも雰囲気で何となく察したのだろう、口籠る俺にリュイさんは眉を寄せる。

「……アーシャ」
「……何ですか?文句なんて聞きませんよ?」
「文句なんてないけど……」

口籠るリュイさん。
そうだよな、好きな人が他の男に告白したなんて聞きたくなかっただろうし反応に困るよな。

リュイさんは俺を見て、アーシャを見て、また俺に視線を戻して大きく溜め息を吐いた。
そしてまっすぐに目を合わせ、静かに口を開く。

「エル、こんなタイミングで言うつもりなかったんだけど」

わかってる、わかってますよ。
アーシャが好きなんですよね?
だからアーシャを取らないでくれって、そう言うつもり……

「俺を選んでくれない?」
「………………はい?」
「ちょっとリュイさん!」

予想外のセリフにぽかんとする。
同時にアーシャの責めるような声も聞こえてきて更に混乱。
しかしリュイさんは固まる俺に構わず畳み掛けてくる。

「ずっと、エルが好きだったんだ」

は?

「王子との婚約が破棄されて本当は嬉しかった」

は??

「慰めるような事言っておいて最低だよね。でも相談に乗ってたのも優しくしていたのもエルに振り向いて欲しかったからだよ」

は???

「リュイさん!酷いじゃないですか僕の告白に割り込んでくるなんて!」
「それはごめん、でも俺だってエルが好きなんだ」
「僕の方が好きです」
「俺はずっと前から好きだった」
「長さなんて関係ないでしょう?」

目の前で言い争う二人。
訳がわからず何も言えない俺。

どういう事?
アーシャはリュイさんじゃなくて俺が好き?
リュイさんもアーシャじゃなくて俺が好き?
何で?
どうして?
意味がわからない。
リュイさんが今まで親身になって優しくしてくれていたのは俺が好きだから?
アーシャがここに通っていたのも俺が好きだから?
は?
は??
本当に訳がわからない。

「エル、あんな王子なんかより絶対幸せにする」
「エルだけを愛してエルだけに全てを捧げるよ」

だから自分を選んで。

「いや、あの、その……!」

両サイドからそんな風に熱のこもった視線を向けられながら告げられるセリフ達に俺の頭は完全にキャパオーバーしてしまった。

直後、倒れそうになる俺を助けてくれたのは俺の最愛で最高の息子(仮)であるユーンだった。

キュー!

すぐにでも返事をと言わんばかりの二人の視線から隠すように俺の背後から翼を伸ばし、大きくなっても可愛い前足で庇うように肩を抱き、まるでお説教をするようにキュイキュイと声を出していた。

「ユーン……」

頼もしすぎるユーンの行動に感動。
もうすっかり腕が回らなくなった胴体にしがみつくように抱き付いてしまった。

「ごめん、いきなりすぎたよね」
「返事はいつでも良いんだ。ただ、気持ちだけは知っておいて欲しい」

俺の様子に性急すぎたと二人が謝り、そう言い残してこの場から立ち去っていく気配を感じる。

キュー

慰めるように優しい声で鳴き、大きな翼で包み込んでくれるユーンに暫くしがみついたまま離れられなかった。






しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?

麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。

優秀な婚約者が去った後の世界

月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。 パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。 このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。

【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~

TOY
BL
【本編完結・後日譚更新中】 公開処刑のその日、王太子メルドは元婚約者で“稀代の悪女”とされたレイチェルの最期を見届けようとしていた。 しかし「最後のお別れの挨拶」で現婚約者候補の“聖女”アリアの裏の顔を、偶然にも暴いてしまい……!? 王位継承権、婚約、信頼、すべてを失った王子のもとに残ったのは、幼馴染であり護衛騎士のケイ。 これは、聖女に騙され全てを失った王子と、その護衛騎士のちょっとズレた恋の物語。 ※別で投稿している作品、 『物語によくいる「ざまぁされる王子」に転生したら』の全年齢版です。 設定と後半の展開が少し変わっています。 ※後日譚を追加しました。 後日譚① レイチェル視点→メルド視点 後日譚② 王弟→王→ケイ視点 後日譚③ メルド視点

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

大嫌いなこの世界で

十時(如月皐)
BL
嫌いなもの。豪華な調度品、山のような美食、惜しげなく晒される媚態……そして、縋り甘えるしかできない弱さ。 豊かな国、ディーディアの王宮で働く凪は笑顔を見せることのない冷たい男だと言われていた。 昔は豊かな暮らしをしていて、傅かれる立場から傅く立場になったのが不満なのだろう、とか、 母親が王の寵妃となり、生まれた娘は王女として暮らしているのに、自分は使用人であるのが我慢ならないのだろうと人々は噂する。 そんな中、凪はひとつの事件に巻き込まれて……。

グラジオラスを捧ぐ

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
憧れの騎士、アレックスと恋人のような関係になれたリヒターは浮かれていた。まさか彼に本命の相手がいるとも知らずに……。

王子のこと大好きでした。僕が居なくてもこの国の平和、守ってくださいますよね?

人生2929回血迷った人
BL
Ωにしか見えない一途な‪α‬が婚約破棄され失恋する話。聖女となり、国を豊かにする為に一人苦しみと戦ってきた彼は性格の悪さを理由に婚約破棄を言い渡される。しかしそれは歴代最年少で聖女になった弊害で仕方のないことだった。 ・五話完結予定です。 ※オメガバースで‪α‬が受けっぽいです。

処理中です...