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(ノエル視点)
シャノンが特使の役目を無事に立派に務め、帰国してしまった直後。
「……すまなかった」
「え?」
突然の謝罪に驚きつつ、一体何の事だと首を傾げる。
「色々だ。この国に来てから、これまでの事全て……本当に申し訳なかった」
「……いえ」
なんて、ひとまず返事はしたもののアスターに謝罪されるような事は何もないので結局何の謝罪なのかは未だにわかっていない。
突然の謝罪もだが、それよりも何よりも……
(どういう風の吹き回しだ?)
あれからアスターはことある毎に俺に声をかけてくるようになったのである。
朝昼晩の食事はもちろん、政務の合間の休憩の時にも足繁く通い他愛のない話題を振ってくる。
その目には以前のような蔑みも嫌悪もなく、むしろ優しく穏やか。
逸らされ続けていた視線は自然と絡み、その瞳に見つめられる度に心は騒めく。
けれども何を話したらいいのかわからず、せっかく声を掛けてくれているのにろくな答を返せない。
とはいえ話題のほとんどはシャノンの事。
共通の話題といえばそれしかないから仕方がないといえば仕方がない。
シャノンはもう帰ってしまったのだからわざわざ仲の良さをアピールする必要なんてない。
ああ、それとも俺とシャノンが思いの外仲が良かったから情報を得ようとしているのだろうか。
シャノンを手に入れるには俺から懐柔するのが得策だとでも思ったのだろうか。
(……それしかないよな)
声を掛けてくれるのは嬉しい。
嬉しいが、アスターの口からシャノンの名前が出る度に胸が締め付けられる。
「シャノン王女は……」
「小さい頃のシャノン王女は……」
シャノン、シャノン、シャノン。
俺の名前は今まで一度も呼んでくれたことはないのに。
(やっぱりシャノンが良いのか)
あの時成長したシャノンと出会い、俺の想像通りにその想いが膨らんだのだろう。
こうして触れ合う時間が増えると、どんどんアスターに溺れていく自分を自覚する。
シャノンの後には必ず俺の話題にも触れられるが、どれもこれもシャノンのついでに聞かれているようにしか思えない。
こんなにもアスターを望んでいるのに。
なのにその手を伸ばせない。
掴むことが出来ない。
アスターの心がこちらを向くことは、きっと一生ない。
(まさか本当に好かれるとは思ってもみなかっただろうな)
形だけの妻。
しかも自国ですらやっかいもの扱いされていた冴えない男に惚れられるだなんて、アスターも迷惑に違いない。
気持ちを告げて、気持ち悪いと、自分にその気はないとすげなく切り捨ててもらおうか。
でもこの穏やかな瞳に見つめられてしまった後で、再びあの冷たい視線にさらされると思うと怖くてたまらない。
(……いっそ、アスター様から切り捨ててくれればいいのに)
お前みたいな妻はいらない。
最初からいらなかった。
シャノンが来たら用済みだ。
どこへでも好きなところに行ってしまえ。
そう言われれば、すぐにでも城から出ていく覚悟は出来ている。
元よりここに嫁ぐのでなければ王室から抜けどこか別の場所でひっそりと過ごす予定だったのだ。
父母もそれを望んでいたし、シャノンだけは惜しんでくれるだろうがいくら彼女に甘い家族でも俺のこの願いを覆す事はしなかっただろう。
だから城の外で暮らすのには抵抗がない。
シャノンが望めば嫁の挿げ替えなどアスターにとっては朝飯前だろう。
あの家族とて認めざるを得ないと思う。
自分から出ていく事も考えたが、アスターの名誉の為にそれは出来なかった。
伴侶に捨てられた王子などという不名誉な肩書を背負わせる訳にはいかない。
これ以上気持ちが膨らんでしまう前に消えてしまいたい。
でも出来ない。
どうしたら良いのかわからない。
けれどアスターと過ごす時間が、向けられる視線が、声が嬉しくて、終わって欲しくなくて、これがずっと続いて欲しくて。
(……アスター様)
心の内で、ひっそりと愛しい人の名前を呟いた。
シャノンが特使の役目を無事に立派に務め、帰国してしまった直後。
「……すまなかった」
「え?」
突然の謝罪に驚きつつ、一体何の事だと首を傾げる。
「色々だ。この国に来てから、これまでの事全て……本当に申し訳なかった」
「……いえ」
なんて、ひとまず返事はしたもののアスターに謝罪されるような事は何もないので結局何の謝罪なのかは未だにわかっていない。
突然の謝罪もだが、それよりも何よりも……
(どういう風の吹き回しだ?)
あれからアスターはことある毎に俺に声をかけてくるようになったのである。
朝昼晩の食事はもちろん、政務の合間の休憩の時にも足繁く通い他愛のない話題を振ってくる。
その目には以前のような蔑みも嫌悪もなく、むしろ優しく穏やか。
逸らされ続けていた視線は自然と絡み、その瞳に見つめられる度に心は騒めく。
けれども何を話したらいいのかわからず、せっかく声を掛けてくれているのにろくな答を返せない。
とはいえ話題のほとんどはシャノンの事。
共通の話題といえばそれしかないから仕方がないといえば仕方がない。
シャノンはもう帰ってしまったのだからわざわざ仲の良さをアピールする必要なんてない。
ああ、それとも俺とシャノンが思いの外仲が良かったから情報を得ようとしているのだろうか。
シャノンを手に入れるには俺から懐柔するのが得策だとでも思ったのだろうか。
(……それしかないよな)
声を掛けてくれるのは嬉しい。
嬉しいが、アスターの口からシャノンの名前が出る度に胸が締め付けられる。
「シャノン王女は……」
「小さい頃のシャノン王女は……」
シャノン、シャノン、シャノン。
俺の名前は今まで一度も呼んでくれたことはないのに。
(やっぱりシャノンが良いのか)
あの時成長したシャノンと出会い、俺の想像通りにその想いが膨らんだのだろう。
こうして触れ合う時間が増えると、どんどんアスターに溺れていく自分を自覚する。
シャノンの後には必ず俺の話題にも触れられるが、どれもこれもシャノンのついでに聞かれているようにしか思えない。
こんなにもアスターを望んでいるのに。
なのにその手を伸ばせない。
掴むことが出来ない。
アスターの心がこちらを向くことは、きっと一生ない。
(まさか本当に好かれるとは思ってもみなかっただろうな)
形だけの妻。
しかも自国ですらやっかいもの扱いされていた冴えない男に惚れられるだなんて、アスターも迷惑に違いない。
気持ちを告げて、気持ち悪いと、自分にその気はないとすげなく切り捨ててもらおうか。
でもこの穏やかな瞳に見つめられてしまった後で、再びあの冷たい視線にさらされると思うと怖くてたまらない。
(……いっそ、アスター様から切り捨ててくれればいいのに)
お前みたいな妻はいらない。
最初からいらなかった。
シャノンが来たら用済みだ。
どこへでも好きなところに行ってしまえ。
そう言われれば、すぐにでも城から出ていく覚悟は出来ている。
元よりここに嫁ぐのでなければ王室から抜けどこか別の場所でひっそりと過ごす予定だったのだ。
父母もそれを望んでいたし、シャノンだけは惜しんでくれるだろうがいくら彼女に甘い家族でも俺のこの願いを覆す事はしなかっただろう。
だから城の外で暮らすのには抵抗がない。
シャノンが望めば嫁の挿げ替えなどアスターにとっては朝飯前だろう。
あの家族とて認めざるを得ないと思う。
自分から出ていく事も考えたが、アスターの名誉の為にそれは出来なかった。
伴侶に捨てられた王子などという不名誉な肩書を背負わせる訳にはいかない。
これ以上気持ちが膨らんでしまう前に消えてしまいたい。
でも出来ない。
どうしたら良いのかわからない。
けれどアスターと過ごす時間が、向けられる視線が、声が嬉しくて、終わって欲しくなくて、これがずっと続いて欲しくて。
(……アスター様)
心の内で、ひっそりと愛しい人の名前を呟いた。
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