王子の恋

うりぼう

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(アスター視点)



ノエルの部屋にやってきて、手を伸ばしたと同時に言われた拒絶の言葉に一瞬目の前が真っ暗になった。

抱かれるのは辛いと。
耐えられないと。

好きな相手に義理を立てているのか。
俺に触れられる事すら嫌で仕方がないのか。

今までの俺の態度からきっと良く思われていないのはわかっていた。
始まりも突然で、嫉妬に駆られて無理矢理事に及んだのも最低だった。
好かれる要素がひとつもないのも理解している。

(だが、今更……)

手放すなんて無理だ。
せっかく身体だけでも手に入れられたのに。
気持ちは後からゆっくりとついてきてくれれば良い。
そんな楽観的な思いが悪かったのだろうか。

終わりにしてくれと頼むノエルの顔面は蒼白で、今にも倒れそうだ。
それもそのはず、王族に逆らった者の末路を自身でも嫌と言うほど理解しているのだろう。
まさか俺がノエルを処罰するとでも思っているのだろうか。
そんなに懇願されても俺はもう絶対にノエルを手放せない。
罰を与えると言うのならそれこそ生涯この城から、この部屋から出るのを禁じたい。
そんな事出来るはずもないけど。

(……解放してやるべきなのか?)

ノエルに想い人がいるのなら、ノエルの幸せを思うのならノエルの言う通りに俺から離した方が良いのだろうか。
離婚すればノエルは自由に動ける。
俺が飽きて捨てたという体にすれば生活に困らないだけの慰謝料も与えられるし、国を出たいと言うのならその手助けも出来る。

市井で暮らせばノエルはきっと穏やかにのんびりと過ごせるだろう。
ノエルの性格的にも王族として暮らすよりも合っているかもしれない。
俺との離婚など何の障害にもならず、想い人とひっそりと暮らす道もあるかもしれない。

だが……

(絶対に嫌だ)

ありえない。
ノエルに俺以外の誰かが触れるなど耐えられない。
俺以外に笑顔を見せるのか?
俺以外に歌うのか?
俺以外に触れさせるのか?
俺以外に触れるのか?
俺以外と幸せになるのか?

どれもこれも想像しただけで心が抉られる。
自分の行いの結果だとしてもそんなの許せない、許したくない。

(いっそこのままここに閉じ込めて……)

なんて暴走しかけた俺の耳に、信じられないセリフの数々が飛び込んできた。

シャノンを望んでいる。
シャノンを想っている。
他に好きな人がいる俺に抱かれるのは辛い。
だから自分を突き放してくれ。

そのセリフのどれもが、俺の都合の良いようにしか受け取れない。
どんなに否定的に考えても、根本には俺への想いが隠れているとしか思えない。

(自意識過剰すぎるか?だが……)

俺にとって都合が良すぎる。
そう思い、戸惑いつつもそれがどういう意味なのかを訊ねると……

「あなたの事が、好きなんです」

まさかの、だがある意味で予想していた通りのセリフだった。

(俺を、好き?)

待て、でもノエルには他に好きな相手がいるはずじゃないか。
あの時言っていた『好きな方』というのは?

「何を言っている?お前は、他に好きな相手がいるんじゃないのか?」
「アスター様の他に心を奪われた相手などいません」
「……!」

きっぱりとそう告げられた。

「幼い頃から、俺の心の中にはあなたしかいないんです」

幼い頃。
それはもしや、あの時言っていた初恋の話だろうか。

まさか、まさか……

「……きっとあなたは覚えていないでしょうね」

寂し気に微笑むノエル。
俺はその言葉のひとつも漏らすまいと全神経を寄せる。

「必死に涙を堪え、気丈に振る舞う姿に惹かれました。あの時の事は、ずっと俺の宝物なんです」

リーベルでは妹以外の皆から疎まれていた。
国民にまで馬鹿にされ、厄介者でしかなかったと続けられる。
そんな自分が愛されるとは思っていないとも、切なく続けられた。

「貴方が俺をどう思っているのかはわかっています。俺はどこに行っても厄介者なので……だからもう与えられない愛情を求めるのは止めにしたいんです」

ノエルの目が逸らされ、深々と頭を下げられる。

やめてくれ、そんな事をしないでくれ。

「あなたの口から、俺を好きになる事はないと、気持ち悪いと、どんな言葉でも良いんです。俺を拒絶して下さい」
「……!」

そう懇願された。

拒絶など出来るはずがない。
気持ち悪いだなんて思うはずもない。
好きにならないだなんて、もうとっくにこちらの心は奪われているのにどうしろと言うのだ。

俺は呆然としながらも頭の中を整理した。

「……あの晩に言っていた、好きな相手というのは俺か?」
「……はい」
「幼い頃、中庭で迷子になっていたのを見つけたのはお前だな?」
「え?」
「そこで歌を歌ってくれたのも、お前だな?」
「そう、ですが……」

中庭、それと歌の事を訊ねると、ノエルが不思議そうに顔をあげる。

俺があの時の事を忘れていると思っていたのか。
忘れられるはずがない。
本人の口からそうだと聞き、涙の滲んだその瞳に俺は堪らず……

「……っ、アスター様……!?」

ノエルの身体を力いっぱい腕の中に閉じ込めた。

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