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しおりを挟む数少ない友人との帰り道。
最寄り駅の周辺をぶらぶらと歩いていると。
「……げ」
真正面から非常に歓迎出来ない奴の姿を見つけてしまった。
春日である。
反射的にすぐそこにあった建物に身を寄せ屈んで身を隠した。
「?あれ?秋吉?」
「しっ!」
「?」
突然何してんだと名を呼ぶ友人に、口の前に人差し指を立てて短く告げる。
疑問符を浮かべながらも同じようにオレの背後で身を屈める友人。
付き合い良いな。
隠れながら奴を見るとまだこちらには気付いていない。
よしよし、そのまま気付かず通り過ぎてくれ、というか通り過ぎろ。
通り過ぎるべきだ。
こちとら自慢じゃないが存在感のなさには定評がある。
少しずつその距離がなくなる。
一歩、また一歩。
そして……
「……」
「……」
あいつはオレに気付かないままこの場を通り過ぎた。
途端、張り詰めていた息を思い切り吐き出す。
「っ、はあああ」
「って何してんだよ秋吉!超怪し」
「ちょっ、バカしーッ!!!」
ふう、と額を拭った瞬間に訳がわからないと言わんばかりに声を出す友人の口を慌てて塞ぐ。
声がデカイ。
気付かれたらどうすると慌てるが、当然訳のわからない友人は訝しげである。
事情を説明するべきか否か悩ましいところである。
だがひとまず奴の後ろ姿が全く反応していない事に再びホッとしていると。
「あっれー?秋吉クンじゃーん。な、秋吉クンだよな?」
「!」
自分の名前を聞き覚えのない声で呼ばれた。
声のした方を向くと、やはりというか、両側に可愛い女の子を侍らした見覚えのない顔がそこにはあった。
誰だこいつ。
見知らぬ人に馴れ馴れしく呼ばれる覚えはない。
ない、はずなのだが。
「うわー、すご!生秋吉!ははっ、マジで超地味!」
初対面なのに失礼だな。
そりゃ地味なのはその通りだけど何故笑われなければならないのか。
地味の何が悪い。
思わずムッとして男を見上げる。
「なにー?誰?」
「知り合い?」
「ううん、初めまして。こいつ春日のコレ」
「は!?」
侍らせていた女の子達の問いに小指を立て答える男。
古いし親父臭いし、というかオレは決して小指を立て『春日のコレ』と呼ばれる関係ではない。
胸を張り声を大にしてそう主張させていただきたい。
「えーマジ?」
「そうなの?」
「ち、違う!」
「……秋吉」
「いやだから違うって!」
にやにやしながら確認する女の子達、そしてお前まさかといった視線を寄越す友人に思い切り首を振る。
きっと友人は春日の事は知らないだろうけど小指を立てた時点で相手が男だというのはわかっているのだろう。
信じるなよ頼むから信じるな。
というかコイツは本当に一体誰なんだ。
春日の事はもとよりオレの事も知ってるなんて何者。
疑問には男自らが答えてくれた。
「あ、オレね、春日の友達の三木っつーのよろしくね」
うわ、もう春日の知り合いというだけで遠慮したい。
よろしくしたくない。
差し出された手を取るかどうか悩んでしまうが無視する訳にもいかないのでしぶしぶ握り返す。
「あれ?つか春日と会わなかった?先に行ってたはずなんだけど」
「あー……」
会わないも何も今さっきまさに見事スルーに成功したところだ。
はははと苦笑いを漏らしたのだが、次の瞬間。
「おおーい、春日!」
「!!!」
なっ
「おいシカトすんなよー!春日くーん!ここに秋吉クンいんだけどー!」
「ちょっ」
なななな何してくれてんだこのバカ野郎は!!!
せっかく、せっかくやり過ごせたと思ったのに何を大声で呼びつけているのか本当にバカじゃないのか、つか余計な事しやがって。
慌てて三木の口を塞ぐが、当然ながら時既に遅し。
「……よお、秋吉」
「……っ」
早すぎるにも程があるスピードでもって背後に戻って来た春日に、がっちりと肩を掴まれ今までの比ではないくらいに体が跳ねた。
ああもうこれ絶対怒ってるよ絶対不機嫌だよ絶対超怖い顔してるよ、まあ顔が怖いのはいつもの事だけど。
気配と声音だけでわかる。
わかりたくもないのにわかる。
最近慣れてきてびびる事は少なくなってきたけれど、明らかな不機嫌オーラを感じ、びくびくと振り向く。
案の定普段の二割り増しで怖い顔をした春日がそこにはいた。
「お前何隠れてんだよ」
「か、隠れてない」
「嘘つくんじゃねえよ、じゃあ何でオレが気付かねんだよ」
「……知るか」
というかその口振りだとどこにいたってオレを見付けれるみたいじゃないか。
「つーか、それ誰」
「は?」
「っ!!!」
くい、と顎で指した先にいたのは成り行きについていけず傍観するしかなかった友人。
ああ、やめてくれこいつはオレよりもチキンなのにお前のそんな怖い顔で睨みつけられたら一発で……
「あ、ああああ秋吉くん!?オレ用事、すっげえ大事な用事思い出したから先帰るな!」
逃げた。
やはり逃げた。
春日が男だというのは想像に易くともこんな強面が出てくるとは思ってなかったのだろう。
思い切り冷や汗をかき目に涙を滲ませ引きつった笑みを浮かべて猛ダッシュ。
あいつ体育苦手なのに今回は速い。
わかる。
その気持ちは凄く良くわかる。
わかる、けど。
(オレも一緒に逃げたかった……!)
不意をつけば走って逃げることも可能だが肩に食い込んだ手のせいで出来ない。
三木の連れの女の子達が、マジで春日くんの彼女?だのなんだのと騒いでいる。
違うと全力で否定したいけれど何も言えない。
「秋吉」
低い声が耳元に響く。
「今日は逃がさねえぞ」
「……っ」
不敵に笑むその凶悪な顔よりも、ギリギリと掴まれた肩が痛かった。
end.
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