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しおりを挟むそれから次の日も。
そのまた次の日もユキは足繁く家やバイト先に来たが俺は悉く逃げ出してしまった。
その度に傷付き悲しげな表情をするユキにも、避ける事で張り裂けそうになる胸の痛みにも気付かないふりをした。
そうこうしているうちに学校がまた始まった。
二ヶ月前と同じ。
講義の始まる直前に教室に入り終わると同時に即退散。
相変わらずユキからの視線が痛い。
空き時間も同様に誰も来ないような場所に一人引きこもっており、今もその真っ最中だ。
教務のある棟の奥の奥。
資料室のようなそこは、自分の知る限り常に人っ子一人いない。
ここ数ヶ月で何度か来たが一度たりとも見たことがない。
だからこそ誰に許可を取るでもなく逃げ込めるから都合が良い。
室内にある小さな窓の下に腰掛け、膝を抱えて額を預ける。
(……情けない)
逃げ回ってばかりの自分にそう溜め息を吐く。
一度逃げてしまってから逃げ癖がついてしまったのだろうか、ユキの姿を見た瞬間に逃げるのが当たり前になってしまった。
話をしたいと望んでいてくれているのはわかる。
そろそろ俺もこの気持ちに本格的に決着をつけなければならない事もわかっている。
いつまでも引きずっていないですっぱりとユキを忘れる準備をするべきだともわかっている。
だがまだ面と向かって話をする勇気がない。
自分から切り出したくせにユキからの別れの言葉を告げられるのが怖いのだ。
(……はあ)
ユキの事を考えると共に、この数ヶ月確実に溜め息の回数が増えた。
今もまた吐いたばかりだというのに次の溜め息が漏れそうになったその時。
「!」
スマホが震えた。
ポケットの中に突っ込んでいたので振動がダイレクトに伝わり大袈裟にびくりと震えてしまった。
不意打ちされるとかなり驚く。
妙な声をあげなかっただけマシだろうか。
発信者の名前をちらりと見て、通話ボタンを押した。
『シマ?俺、ミヤ』
「うん、どうした?」
『どこいんの?』
「あーえっと、それは……」
聞き慣れた声に問われて、なんと返事をしたら良いものかと悩む。
俺は言っていないけれど、恐らくユキが相談なりしたのだろうから何があったのかはわかっているはず。
なんだかんだで最終的に俺の味方をしてくれる事はわかっているから、無理に聞き出そうとはしないだろう。
言い渋る俺にミヤは電話の向こう側で笑った。
『一応聞いてみただけだから警戒すんなって。校内にはいるんだろ?』
「うん」
『ユキが血相変えて探してたぞ』
「……っ」
名前を聞いただけでぎくりとする
『逃げ回ってんだって?』
「やっぱり知ってるんだ」
前述の通り予想はしていたから驚きはしない。
『まあ、そりゃあな』
肩をすくめているのだろうと容易に想像できた。
なんと言ったものかと再度悩んでいると、ミヤは豪快な笑いでもってそれを吹き飛ばしてくれた。
『あははは!まあそんなに考えこむなって!』
「え?」
『逃げたいなら逃げたいだけ逃げりゃ良い。アイツには良い薬だろ』
あっけらかんと言い切るミヤにぽかんとしてしまった。
自分でも情けないと、どうなんだと思っていた行動をそれで良いのだと言われて不覚にも熱いものが込み上げてくる。
頬を伝う事はなかったけれど、じんわりと目尻に溜まる涙を乱暴に拭う。
『まあだからっていつまでも逃げてばっかじゃダメだけどな』
「……ん」
他の誰かに言われたのなら憤慨して怒鳴り返していたであろうセリフに、確かにそうだと素直に頷いた。
逃げてばかりではいけない。
それはもうずっと心の奥が控えめに訴えかけてきた事。
改めて指摘され、やはりこのままではいけないのだと思った。
『まあそれはそうと、アイツ今相当余裕なさげだから気を付けろよ』
「?うん」
最後のセリフに少し疑問を抱きながらも、わかったと答え通話は終わった。
余裕があろうがなかろうがまだもう少し逃げ回るつもりなので、何をどう気をつければ良いのかは気にも止めなかった。
そんな自分を、直後後悔するはめになるとは知らず……
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