嘘をついた平凡、片想いの幼馴染の恋愛相談に乗る

あと

文字の大きさ
1 / 7

1

しおりを挟む
「なあ谷田、お前彼女いるのか?」

帰り道、ゼミ仲間に突然聞かれた。
どうしよう。俺こと谷田直には、これまで一度も恋人ができたことがない。しかも俺はゲイだ。誰にも言ったことはないし、これからも言うつもりはない。……とはいえ、22年間恋人いない歴=年齢なのは、ちょっと恥ずかしい。

だから俺は、ついカッコつけてしまった。

「お、おう!いるぜ!」

「そうなのか。ふーん。」

あっさり。特に興味もなさそうだ。

「でさ、卒業研究のことで聞きたいことあるんだけど――」

すぐに話題はゼミのことへ移る。まあ、俺の恋愛事情なんて、卒業に比べたらどうでもいいのだろう。
そう思って気を抜いた俺は、このやりとりを“あいつ”が耳にしていたことに気づかなかった。

——話は変わるが、俺には幼馴染がいる。

鮎川蒼弥。名前からしてイケメンだが、実物も名前負けしないレベルの美形だ。背も高い。頭もいい。友達も多い。俺は嫉妬で泣きたい。
友達を続けている理由?……単純だ。楽しいから。あと――俺が片想いしてるから。

ただし、蒼弥は昔から女関係が派手だった。彼女を取っ替え引っ替えするし、セフレだって何人もいるんじゃないかと疑っている。スマホには常に女の影。
小学生の頃はもっと純粋だったのになぁ……。

「そんな奴のどこがいいんだよ」って?
女癖以外、全部だ。

俺が新型ウイルスで学校を休んでたとき、ノートを貸してくれたのは蒼弥だし、高校ではいつも勉強を見てくれた。正直、俺がこの大学に入れたのは半分くらい奴のおかげだと思ってる。普段は気さくで話しやすいし、根はめちゃくちゃ優しい。……腹立たしいくらい完璧なんだ。

まあでも、告白するつもりはない。相手はノンケ中のノンケ。成功する確率は0%。むしろ友達ですらいられなくなるだろう。それだけは嫌だ。だから中学生の、本気で好きになったとき、心に決めたんだ。告白はしない、と。

今では蒼弥は有名国公立の医学部へ。俺は私立文系。気づけば会う機会も減り、もう半年以上顔を見ていない。高校時代は毎日会っていたのに。
最近どうしてるんだろう。連絡を取るか悩んでいたとき――

『久しぶり!元気か?久々に会わないか?』

画面に映った短い文面は、いつも通りだった。
変わらない調子に、俺はなぜかほっとする。

『おうよ!遊ぼうぜ!』

軽いノリで返したつもりだったが、次の通知を見て固まった。

『じゃあ今から会おう!18時にいつもの居酒屋でな!』

……今から!?急すぎるだろ。
そんな強引なやつだったか?
首をかしげつつも、断る理由もない。俺は18時、いつもの居酒屋へ足を向けた。

「お!直!久しぶり!」

手を振って笑う蒼弥は、半年前よりさらに格好よくなっていた。艶のある黒髪は指を通したくなるほどで――いや、触れていいわけがない。

「久しぶりだな!元気か?」
俺も軽く手を上げて応える。

「おう、元気元気。まあ勉強は忙しいがな。お前は?就活どうなった?」

「見事、内定ゲットだぜ!」
椅子に腰掛けながら、勝ち誇るようにピースサイン。

「よかった……!安心したわ」
軽く俺の肩を叩いて、ほっと胸を撫で下ろす姿に、俺も安心する。半年のブランクなんてなかったかのように、自然に会話が転がっていく。

「とりあえずビールと焼き鳥な?お前もいいか?」

「もちろん!」

蒼弥は手際よくタブレットで注文を済ませる。だが戻ってきた視線は、妙に真剣だった。

「……なあ、相談がある」

声色まで硬い。普段のおどけた蒼弥じゃない。

「どうした?」

俺はグラスを持ち上げかけた手を止める。
蒼弥の声が、いつになく低い。

「俺……本気で好きな人がいるんだ」

「……は?」

一瞬、言葉の意味が頭に入ってこなかった。
本気で好きな人――?いつも軽く付き合っては別れてを繰り返してたくせに?あの蒼弥が?

「何としても落としたい。だから協力してほしい」

真剣な目を向けられ、息が詰まる。冗談じゃないのは分かる。けど――。

「ちょ、ちょっと待て!何で俺が?」

声が裏返った。情けない。だって俺は、恋愛経験ゼロなんだ。
蒼弥みたいな遊び慣れた奴に教えられることなんて、何一つない。

「そりゃ親友だからだよ。それに……恋人いるんだろ?いろいろ経験あるんじゃないのか?」

「……え?」

背筋に冷たい汗が流れる。やばい。嘘がバレる。

「悪い、さっき直が友達と話してるの、聞こえちゃってさ」

「……だったら話しかけてくれりゃよかったのに」

言い返しながら、心臓はバクバクだ。
まさか蒼弥に聞かれてたなんて。最悪だ。よりによってこいつに――。

「いや、友達といたからさ」

昔は余計な遠慮なんか一切なかったのに。月日の流れは残酷だ。

「で?恋人ってどんな人なんだ?」

冷や汗がつっと流れる。――困った。
そんな人間、存在しない。全部嘘だ。
ここで「実は恋人いないんだ」なんて言ったら、馬鹿にされるかもしれない。こいつは経験豊富だし。かといってゼロから設定を捏造するのも怖い。俺には経験がない。ボロが出るに決まってる。

頭を必死に回転させて、俺は一つの答えに行き着いた。

「うーん……そうだな。一言で言うなら“完璧”だな。明るいし、優しいし、人に執着しない。頭もいいし……めっちゃモテる」

——そうだ、こいつをモデルにすればいい。

幼馴染であり、片想い相手であり、いま目の前にいるこの男――蒼弥を、“彼氏の設定”にした。リアリティは抜群だ。……すまん蒼弥。

「……へぇ、そうなんだ」

意味深な顔。どういう意味だ?

「ほんと、俺には勿体ないくらいだよ」

俺が照れ隠しに言うと、蒼弥は低く呟いた。

「……本気で好きなんだな」

「……ああ、好きだよ」

もちろん片想いだけどな。

その後は深追いせず、次の約束だけして解散した。来週の土曜、また会うことに。
ただ、蒼弥の様子は終始どこか引っかかった。何を考えてるのか――いや、友達でも立ち入ってはいけない領域はある。スルーするのが正解だろう。

問題は、俺の方だ。
片想いに慣れてしまった俺は、今更本気で好きな人がいるという事態に傷つく心は…ちょっとはある。
しかし、恋人がいるフリをしてしまった以上、蒼弥に恋愛アドバイスをしなきゃいけない。しかも相手は遊び人。相談だって「口説き方」や「その後」がメインだろう。

……仕方ない。経験ゼロの俺は、慌てて検索を始めた。
――“恋人と体を重ねる方法”。

画面に並ぶ記事を読み漁りながら、俺は苦笑した。

……勉強になる。いや俺、男が好きなんだけどな。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

消えることのない残像

万里
BL
最愛の兄・大貴の結婚式。高校生の志貴は、兄への想いが「家族愛」ではなく「恋」であったと、失恋と同時に自覚する。血の繋がりという境界線、そして「弟」という役割に縛られ、志貴は想いを封印して祝福の仮面を被る。 しかし数年後、大貴の息子が成長し、かつての兄と瓜二つの姿となったとき、止まっていた志貴の時間は歪な形で動き出す。 志貴(しき):兄・大貴に長年片思いしているが、告げることなく距離を置いていた。 大貴(だいき):志貴の兄。10歳年上。既婚者で律樹の父。無自覚に人を惹きつける性格。志貴の想いには気づいていない。 律樹(りつき):大貴の息子。明るく素直だが、志貴に対して複雑な感情を抱く。

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

楽な片恋

藍川 東
BL
 蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。  ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。  それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……  早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。  ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。  平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。  高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。  優一朗のひとことさえなければ…………

人並みに嫉妬くらいします

米奏よぞら
BL
流されやすい攻め×激重受け 高校時代に学校一のモテ男から告白されて付き合ったはいいものの、交際四年目に彼の束縛の強さに我慢の限界がきてしまった主人公のお話です。

既読無視の年下幼馴染みの部屋に行ったら、アイドルグッズだらけだった。しかも推しは俺

スノウマン(ユッキー)
BL
国民的アイドルの朝比奈 春人(あさひな はると)はいつもラインを既読無視する年下の幼馴染、三上 直(みかみ なお)の部屋をとある理由で訪れる。すると部屋の中はアイドルのグッズだらけだった、しかも全部春人の。 『幼馴染の弟ポジジョン×国民的アイドルのお兄さん』になる前のドタバタコメディです。

嘘をついたのは……

hamapito
BL
――これから俺は、人生最大の嘘をつく。 幼馴染の浩輔に彼女ができたと知り、ショックを受ける悠太。 それでも想いを隠したまま、幼馴染として接する。 そんな悠太に浩輔はある「お願い」を言ってきて……。 誰がどんな嘘をついているのか。 嘘の先にあるものとはーー?

何でもできる幼馴染への告白を邪魔してみたら

たけむら
BL
何でもできる幼馴染への告白を邪魔してみたら 何でも出来る美形男子高校生(17)×ちょっと詰めが甘い平凡な男子高校生(17)が、とある生徒からの告白をきっかけに大きく関係が変わる話。 特に秀でたところがない花岡李久は、何でもできる幼馴染、月野秋斗に嫉妬して、日々何とか距離を取ろうと奮闘していた。それにも関わらず、その幼馴染に恋人はいるのか、と李久に聞いてくる人が後を絶たない。魔が差した李久は、ある日嘘をついてしまう。それがどんな結果になるのか、あまり考えもしないで… *別タイトルでpixivに掲載していた作品をこちらでも公開いたしました。

処理中です...