6 / 7
6
しおりを挟む
「なら次は俺のも頼むわ」
そう言って、蒼弥が当然のようにドライヤー俺へ差し出してくる。
ったく仕方ねぇな。まあ、約束だし。
ドライヤーを取り出し、スイッチを入れる。
温風が蒼弥の髪を揺らす。その香りがふわっと鼻先をかすめ、思わずどきりとした。シャンプーの匂いなのに、妙に“蒼弥らしい匂い”に感じてしまう。
「あー……気持ちいいな。お前、嫁に来いよ」
「なっ!? 誰が行くか!」
反射的に怒鳴ったが、声が裏返ってしまった。
蒼弥は俺の顔を見て、にやにや笑っている。
「顔真っ赤。可愛い」
「~~っ!! 黙れって言ってんだろ!」
風の音にかき消されそうな声で叫びながら、俺は必死に蒼弥の髪を乾かした。
けど――心臓は乾かしきれないくらい熱くなっていた。
こいつどうしたんだ。普段と全然違う…。甘くて、積極的だ。やはり想い人の練習だからだろうか?
……今なら聞ける。
ドライヤーをかけながら、温風が二人の間をほんのり温める中、俺はふと口を開いた。
「なあ、想い人さんってどんな人なんだ?関係は順調?」
蒼弥は一瞬沈黙した。耳元で風の音が軽く響く。肩越しに覗き込む瞳は細められ、柔らかく笑っていた。
「……真っ直ぐな子。眩しくて、汚れてない。俺とは真反対だ」
「へぇ、」
「ちなみに関係は順調。家に泊まってくれるみたいだし」
その言葉に、俺の手が無意識に止まった。思わず声が裏返る。
「な、何!?それはもう付き合ってるのでは!?」
「普通そうだよなぁ…。なあ直」
蒼弥は肩越しに振り返り、軽く俺の髪を撫でた。その手つきは無造作なのに、どこか優しくて、胸の奥がざわつく。
俺は息を整えようと必死だった。ドライヤーの音でごまかせるけど、心臓は確実に暴れている。
「俺の好きな人の話、もっと聞きたい?」
「う、うん」
「じゃあ言うな」
蒼弥は言葉を紡ぎ始める。幼稚園の頃、孤立気味だった自分に熱心に話しかけてくれた相手のこと。ゲームを極めてくる姿がいじらしく、可愛く見えたこと。将来結婚する!って言ったことを完全に忘れて、小学の頃には、ただの友達としてしか見てくれなくなったこと。
その子に相応しい男になろうと、社交能力も上げたし、見た目にも気を遣うようになった。中学になって、大人っぽくなって、さらに笑顔が可愛くなったあの子の隣にいるのに必死だったこと。
高校になっても、どれだけアピールしても振り向いてくれず、ふとその子がタイプだと言ってた、"経験豊富な男"になるために経験を積む道を選んだこと。結果として少し引かれてしまったこと。挙句"経験豊富な男"が好み?そんなこと言ったっけ?なんてほざいたこと。
「そして……俺が大学で忙しくしている間に、恋人なんか作った。簡単にいえば人の心を弄ぶひどーい男なんだ」
その言葉と同時に、蒼弥は勢いよく俺を押し倒した。息が詰まりそうになるが、乱暴ではなく、むしろ衝動の表出だった。体の重さ、腕の力、そして近すぎる距離。心臓が喉まで飛び出しそうで、頭が真っ白になる。
「なぁ、疎遠気味でお前に興味ない女より、お前のことしか見てない男の方が、良くないか?」
蒼弥は顔を近づけ、俺の視線を逃さない。スマホをちらつかせるその仕草に、状況が一気にリアルになる。
「今から電話かけて、別れて」
……おい、10年以上一緒にいたのに、こいつの気持ちに気づかなかった俺は一体。あとお前、少し病んでるんじゃないか?と思わずにはいられない。
でも、考える暇もなく、俺は口を開く。
「なあ、蒼弥」
「…なんだよ。」
「恋人なんか嘘。俺も、お前のこと好きって言ったら……どうする?」
蒼弥の目が一瞬大きく見開かれる。近くて熱い視線に、心臓が跳ね上がる。
風の音の中、二人の間に静かな緊張が流れる。言葉にできない想いが、確実に空気を支配していた。
そう言って、蒼弥が当然のようにドライヤー俺へ差し出してくる。
ったく仕方ねぇな。まあ、約束だし。
ドライヤーを取り出し、スイッチを入れる。
温風が蒼弥の髪を揺らす。その香りがふわっと鼻先をかすめ、思わずどきりとした。シャンプーの匂いなのに、妙に“蒼弥らしい匂い”に感じてしまう。
「あー……気持ちいいな。お前、嫁に来いよ」
「なっ!? 誰が行くか!」
反射的に怒鳴ったが、声が裏返ってしまった。
蒼弥は俺の顔を見て、にやにや笑っている。
「顔真っ赤。可愛い」
「~~っ!! 黙れって言ってんだろ!」
風の音にかき消されそうな声で叫びながら、俺は必死に蒼弥の髪を乾かした。
けど――心臓は乾かしきれないくらい熱くなっていた。
こいつどうしたんだ。普段と全然違う…。甘くて、積極的だ。やはり想い人の練習だからだろうか?
……今なら聞ける。
ドライヤーをかけながら、温風が二人の間をほんのり温める中、俺はふと口を開いた。
「なあ、想い人さんってどんな人なんだ?関係は順調?」
蒼弥は一瞬沈黙した。耳元で風の音が軽く響く。肩越しに覗き込む瞳は細められ、柔らかく笑っていた。
「……真っ直ぐな子。眩しくて、汚れてない。俺とは真反対だ」
「へぇ、」
「ちなみに関係は順調。家に泊まってくれるみたいだし」
その言葉に、俺の手が無意識に止まった。思わず声が裏返る。
「な、何!?それはもう付き合ってるのでは!?」
「普通そうだよなぁ…。なあ直」
蒼弥は肩越しに振り返り、軽く俺の髪を撫でた。その手つきは無造作なのに、どこか優しくて、胸の奥がざわつく。
俺は息を整えようと必死だった。ドライヤーの音でごまかせるけど、心臓は確実に暴れている。
「俺の好きな人の話、もっと聞きたい?」
「う、うん」
「じゃあ言うな」
蒼弥は言葉を紡ぎ始める。幼稚園の頃、孤立気味だった自分に熱心に話しかけてくれた相手のこと。ゲームを極めてくる姿がいじらしく、可愛く見えたこと。将来結婚する!って言ったことを完全に忘れて、小学の頃には、ただの友達としてしか見てくれなくなったこと。
その子に相応しい男になろうと、社交能力も上げたし、見た目にも気を遣うようになった。中学になって、大人っぽくなって、さらに笑顔が可愛くなったあの子の隣にいるのに必死だったこと。
高校になっても、どれだけアピールしても振り向いてくれず、ふとその子がタイプだと言ってた、"経験豊富な男"になるために経験を積む道を選んだこと。結果として少し引かれてしまったこと。挙句"経験豊富な男"が好み?そんなこと言ったっけ?なんてほざいたこと。
「そして……俺が大学で忙しくしている間に、恋人なんか作った。簡単にいえば人の心を弄ぶひどーい男なんだ」
その言葉と同時に、蒼弥は勢いよく俺を押し倒した。息が詰まりそうになるが、乱暴ではなく、むしろ衝動の表出だった。体の重さ、腕の力、そして近すぎる距離。心臓が喉まで飛び出しそうで、頭が真っ白になる。
「なぁ、疎遠気味でお前に興味ない女より、お前のことしか見てない男の方が、良くないか?」
蒼弥は顔を近づけ、俺の視線を逃さない。スマホをちらつかせるその仕草に、状況が一気にリアルになる。
「今から電話かけて、別れて」
……おい、10年以上一緒にいたのに、こいつの気持ちに気づかなかった俺は一体。あとお前、少し病んでるんじゃないか?と思わずにはいられない。
でも、考える暇もなく、俺は口を開く。
「なあ、蒼弥」
「…なんだよ。」
「恋人なんか嘘。俺も、お前のこと好きって言ったら……どうする?」
蒼弥の目が一瞬大きく見開かれる。近くて熱い視線に、心臓が跳ね上がる。
風の音の中、二人の間に静かな緊張が流れる。言葉にできない想いが、確実に空気を支配していた。
230
あなたにおすすめの小説
幼馴染がいじめるのは俺だ!
むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに...
「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」
「はっ...ぁ??」
好きな奴って俺じゃないの___!?
ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子
ーーーーーー
主人公 いじめられっ子
小鳥遊洸人
タカナシ ヒロト
小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。
姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。
高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、
脳破壊。
千透星への恋心を自覚する。
幼馴染 いじめっ子
神宮寺 千透星
ジングウジ チトセ
小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。
美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている)
転校生の須藤千尋が初恋である
消えることのない残像
万里
BL
最愛の兄・大貴の結婚式。高校生の志貴は、兄への想いが「家族愛」ではなく「恋」であったと、失恋と同時に自覚する。血の繋がりという境界線、そして「弟」という役割に縛られ、志貴は想いを封印して祝福の仮面を被る。
しかし数年後、大貴の息子が成長し、かつての兄と瓜二つの姿となったとき、止まっていた志貴の時間は歪な形で動き出す。
志貴(しき):兄・大貴に長年片思いしているが、告げることなく距離を置いていた。
大貴(だいき):志貴の兄。10歳年上。既婚者で律樹の父。無自覚に人を惹きつける性格。志貴の想いには気づいていない。
律樹(りつき):大貴の息子。明るく素直だが、志貴に対して複雑な感情を抱く。
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
楽な片恋
藍川 東
BL
蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。
ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。
それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……
早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。
ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。
平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。
高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。
優一朗のひとことさえなければ…………
人並みに嫉妬くらいします
米奏よぞら
BL
流されやすい攻め×激重受け
高校時代に学校一のモテ男から告白されて付き合ったはいいものの、交際四年目に彼の束縛の強さに我慢の限界がきてしまった主人公のお話です。
既読無視の年下幼馴染みの部屋に行ったら、アイドルグッズだらけだった。しかも推しは俺
スノウマン(ユッキー)
BL
国民的アイドルの朝比奈 春人(あさひな はると)はいつもラインを既読無視する年下の幼馴染、三上 直(みかみ なお)の部屋をとある理由で訪れる。すると部屋の中はアイドルのグッズだらけだった、しかも全部春人の。
『幼馴染の弟ポジジョン×国民的アイドルのお兄さん』になる前のドタバタコメディです。
嘘をついたのは……
hamapito
BL
――これから俺は、人生最大の嘘をつく。
幼馴染の浩輔に彼女ができたと知り、ショックを受ける悠太。
それでも想いを隠したまま、幼馴染として接する。
そんな悠太に浩輔はある「お願い」を言ってきて……。
誰がどんな嘘をついているのか。
嘘の先にあるものとはーー?
何でもできる幼馴染への告白を邪魔してみたら
たけむら
BL
何でもできる幼馴染への告白を邪魔してみたら
何でも出来る美形男子高校生(17)×ちょっと詰めが甘い平凡な男子高校生(17)が、とある生徒からの告白をきっかけに大きく関係が変わる話。
特に秀でたところがない花岡李久は、何でもできる幼馴染、月野秋斗に嫉妬して、日々何とか距離を取ろうと奮闘していた。それにも関わらず、その幼馴染に恋人はいるのか、と李久に聞いてくる人が後を絶たない。魔が差した李久は、ある日嘘をついてしまう。それがどんな結果になるのか、あまり考えもしないで…
*別タイトルでpixivに掲載していた作品をこちらでも公開いたしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる