嘘をついた平凡、片想いの幼馴染の恋愛相談に乗る

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「なら次は俺のも頼むわ」

そう言って、蒼弥が当然のようにドライヤー俺へ差し出してくる。
ったく仕方ねぇな。まあ、約束だし。

ドライヤーを取り出し、スイッチを入れる。
温風が蒼弥の髪を揺らす。その香りがふわっと鼻先をかすめ、思わずどきりとした。シャンプーの匂いなのに、妙に“蒼弥らしい匂い”に感じてしまう。

「あー……気持ちいいな。お前、嫁に来いよ」

「なっ!? 誰が行くか!」

反射的に怒鳴ったが、声が裏返ってしまった。
蒼弥は俺の顔を見て、にやにや笑っている。

「顔真っ赤。可愛い」

「~~っ!! 黙れって言ってんだろ!」

風の音にかき消されそうな声で叫びながら、俺は必死に蒼弥の髪を乾かした。
けど――心臓は乾かしきれないくらい熱くなっていた。
こいつどうしたんだ。普段と全然違う…。甘くて、積極的だ。やはり想い人の練習だからだろうか?

……今なら聞ける。

ドライヤーをかけながら、温風が二人の間をほんのり温める中、俺はふと口を開いた。

「なあ、想い人さんってどんな人なんだ?関係は順調?」

蒼弥は一瞬沈黙した。耳元で風の音が軽く響く。肩越しに覗き込む瞳は細められ、柔らかく笑っていた。

「……真っ直ぐな子。眩しくて、汚れてない。俺とは真反対だ」

「へぇ、」

「ちなみに関係は順調。家に泊まってくれるみたいだし」

その言葉に、俺の手が無意識に止まった。思わず声が裏返る。

「な、何!?それはもう付き合ってるのでは!?」

「普通そうだよなぁ…。なあ直」

蒼弥は肩越しに振り返り、軽く俺の髪を撫でた。その手つきは無造作なのに、どこか優しくて、胸の奥がざわつく。
俺は息を整えようと必死だった。ドライヤーの音でごまかせるけど、心臓は確実に暴れている。

「俺の好きな人の話、もっと聞きたい?」

「う、うん」

「じゃあ言うな」

蒼弥は言葉を紡ぎ始める。幼稚園の頃、孤立気味だった自分に熱心に話しかけてくれた相手のこと。ゲームを極めてくる姿がいじらしく、可愛く見えたこと。将来結婚する!って言ったことを完全に忘れて、小学の頃には、ただの友達としてしか見てくれなくなったこと。

その子に相応しい男になろうと、社交能力も上げたし、見た目にも気を遣うようになった。中学になって、大人っぽくなって、さらに笑顔が可愛くなったあの子の隣にいるのに必死だったこと。

高校になっても、どれだけアピールしても振り向いてくれず、ふとその子がタイプだと言ってた、"経験豊富な男"になるために経験を積む道を選んだこと。結果として少し引かれてしまったこと。挙句"経験豊富な男"が好み?そんなこと言ったっけ?なんてほざいたこと。

「そして……俺が大学で忙しくしている間に、恋人なんか作った。簡単にいえば人の心を弄ぶひどーい男なんだ」

その言葉と同時に、蒼弥は勢いよく俺を押し倒した。息が詰まりそうになるが、乱暴ではなく、むしろ衝動の表出だった。体の重さ、腕の力、そして近すぎる距離。心臓が喉まで飛び出しそうで、頭が真っ白になる。

「なぁ、疎遠気味でお前に興味ない女より、お前のことしか見てない男の方が、良くないか?」

蒼弥は顔を近づけ、俺の視線を逃さない。スマホをちらつかせるその仕草に、状況が一気にリアルになる。

「今から電話かけて、別れて」

……おい、10年以上一緒にいたのに、こいつの気持ちに気づかなかった俺は一体。あとお前、少し病んでるんじゃないか?と思わずにはいられない。

でも、考える暇もなく、俺は口を開く。

「なあ、蒼弥」

「…なんだよ。」

「恋人なんか嘘。俺も、お前のこと好きって言ったら……どうする?」

蒼弥の目が一瞬大きく見開かれる。近くて熱い視線に、心臓が跳ね上がる。
風の音の中、二人の間に静かな緊張が流れる。言葉にできない想いが、確実に空気を支配していた。
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