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異世界生活

家を作っちゃう④

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寝室で着替えを終え、蓮はダイニングに移動した。

するとそこには着替えを終えた3人が居た。

蓮兄れんにぃ遅かったね。まぁた1人で考え事してんたんでしょぉ」

「でしょぉ」

蓮の1人で抱え込む癖を心配して、冗談交じりににらむ桜。
その語尾だけを真似る向日葵。

ユグドラシルはその光景を楽しそうに見ている。

どうやら蓮は思ってる以上に考え事をしていたようだ。

「ごめんね。それにしても、良く似合ってるね」

蓮がそう言うと、向日葵は『ふふーん』と言いながら嬉しそうにクルりと回って見せた。

桜は蓮と同じくTシャツと長ズボン。
向日葵はワンピース。
中には半ズボンを履いている。

蓮兄れんにぃのは花がないんだね」

「ああ。似合わないから、無くて助かったよ」

「ひぃちゃんかわいい」

柄の違いに気が付く桜。
桜のTシャツと向日葵のワンピースには、ユグドラシル同様に、白地にピンクの花と緑の蔓や葉のクラフト柄。
蓮のTシャツには花はなく、緑の蔓や葉のクラフト柄だけだ。

ユグドラシルに改めてお礼を言うと『喜んで頂けて良かったです』と嬉しそうな表情と言葉が返ってきた。


「あ、そうだ。キッチン見せてもらったんだよ!すごいの!」

料理好きの桜が最もテンションの上がるところだ。

キッチンの作りはシンプルで、一般的な流し台、調理台、焼き台の3つだ。
全て繋がっており、どれも大きめに作られており使い勝手は良さそうだ。
高さも向日葵には高く、蓮には少し低いが、桜には丁度いい。

流し台には長めの取っ手が付いてあり、魔力を込めると取っ手の先からシャワー状の水が出る。
排水は同じく下流へ。
親切なことにタオルもかけられている。

調理台。
足元には2段式の引き戸があり、上段を引き出すと木製の皿やスプーン、フォークなどが並んでいる。
下段には木製の包丁とまな板だけが入っている。
木製だが切れ味はかなり良さそうだ。
スペースが余っているため、手に入れれば、調味料や他の調理器具を並べるそうだ。

「調味料も調理器具もアイテムボックスに入れれば良いんじゃないの?」

「わかってないなぁ。並んでたら可愛いじゃん!あ、これ使おってなるじゃん!」

「なるじゃん!」

蓮の素朴な疑問に、女子特有の『可愛いから』という回答をする桜。
向日葵は楽しそうに語尾を真似る。
料理の事は桜に任せて口出しはしないでおこう。

一切料理をしないというわけではないが、料理神の加護を有する桜に任せる方が絶対に良い。


最後に焼き台。
調理台よりも少し低い高さの台に、木と石で作られた箱のようなものが置かれている。

横幅50cmセンチメートル、奥行き40cmセンチメートル、高さ30cmセンチメートルと言ったところだ。

側面は木製。
小さな取っ手が付いてある。

上と下に厚さ2cmセンチメートル程度の石のプレートがある。
側面の木の小さな取っ手に魔力を込めると、上下の石のプレートの間に火が発生し、上の石のプレートが加熱される。
焼きそばやチャーハン、八宝菜のように混ぜ込む料理はできないが、狩った獲物を焼くことはできる。

木を拾ってきて入れて置けば、魔力で着火して、その後は木が燃えるため、魔力の節約になるらしい。

キッチン横の取っ手に魔力を流せば、浄化クリーン発動。
キッチンとダイニングを空間ごと綺麗にしてくれる。

「石の焼き台もユグドラシルさんが作ってくれたの?」

「はい。植物魔法だけでなく、一般的な魔法も使えますので」

植物を操る魔法以外にも、水や風、地、光など一般的な属性の魔法も使えるらしい。
火は全く使えず、氷、雷は使えなくはないが、かなり弱いそうだ。

見るのが怖いが、いずれユグドラシルのステータスボードも見せてもらおう。


話しをしていると向日葵にクイクイと服を引っ張られてた。

「にぃに。ひぃちゃん、おなかすいたぁ」

想定はしていたが、桜の熱の入ったキッチントークを聞いていて忘れていた。

「ユグドラシルさん。頼ってばかりで申し訳ないのですが、果物か何かご用意できますか?」

蓮が依頼するとユグドラシルは、ダイニングテーブルに大きい木の皿を置いた。

「どうそおかけください。お口に合えばよいのですが……」

促され各椅子に座る蓮達。

何をするのかと見ていると、前に出したユグドラシルの左手が木となり、葉が広がり、先にいくつかの実をした。

ほのりと金色やオレンジ色に光る実が拳程度の大きさになってはって木の皿に置き、あっという間に山盛りになった。

向日葵が『いっただきまーす!』と元気よく食べようとするが慌てて止めた。

なぜだろうか。
直感スキルが発動しているのか、何故か気になる実だ。


「こ、これって何という果物ですか?」

蓮が聞くと、思っていた通りの答えが返ってきた。

「名前は決まっていないのですが、人族の間では世界樹の実と呼ばれています」

ととんでもないこと口にした。

「と、とても貴重な物なんじゃ……」

「え?いいえ?甘くておいしいんですよ」

様々なゲームや漫画など物語の中で『世界樹』とつくものがは大抵激レアアイテムだ。
この世界では違うのだろうか。

蓮が自分の認識が間違っていたのかを気にしている間に、ユグドラシルは1つ手に取り、皮ごと食べて見せた。

ユグドラシルは精霊のため空腹になることはない。
食べないでも生きていけるが、味を楽しむことはできるらしく、おやつ感覚で食べているそうだ。

「じゃ、じゃあ遠慮なくいただきます……。う、うまい!」

「ひぃちゃんも!」

「え、私も!」

触感や味はマンゴーに似ている。
しかし、しつこくない甘さで何個でも食べられそうだ。

世界樹の実を頬張った向日葵は『あまぁい』と言いながら、ハムスターの様に膨れた頬を手で押さえている。

「ほんと!すごく美味しい!」

桜も絶賛。
早くも2個目を手にしている。


いったい何個食べたのだろう。

「ひぃちゃん、おなかいっぱい」

「私もぉ」

美味しい果物でお腹を膨らませてご満悦の様子だ。
その様子を見てユグドラシルも嬉しそうな表情をしている。

「病気はないにしても、怪我をされたときは好みを食べれば治るので言ってくださいね」

「ん?ということは?」

ユグドラシルの言葉に蓮が疑問をいだき、確認する。
そして分かったことは蓮の認識は間違っていなかったということ。
世界樹の実を食べれば、どんな状態異常も怪我も治るそうだ。
欠損部位ですら感知する、神懸かみがかっている果物だそうだ。

状態異常になったり、怪我をするような一般人からすると、ちょうが1つでは足らないほどの貴重な物。
状態異常にならない、怪我を負う事もほぼない、いくらでも生み出せるユグドラシルにとっては美味しい果物程度だそうだ。

「ははは……」

お腹一杯食べてしまったことと、ユグドラシルの意外なた一面を知り乾いた笑いの蓮。


そして、ふと気が付いた。
手と口がベタつく。
普段なら食事中に汚れれば、ウェットティッシュで拭くのだが、ここにはない。

ユグドラシルが実演を兼ねて、キッチンの取っ手に魔力を込めて空間ごと浄化クリーンで綺麗にする。
優しく温かい光に包まれ、光が消えると、口元や手のベタつきが無くなった。

ダイニングテーブルの向日葵の前あたりは果汁で少し汚れていたが、それも消えている。

魔法様様さまさま
ユグドラシル様様さまさまだ。

「にぃに。だっこぉ」

お腹が膨れ、緊張が解けたこともあり向日葵は眠くなったようだ。
そっと抱き上げ、背中をトントンするとすぐに寝てしまった。

元居た世界ならベッドやソファで寝かせるが、この世界で、まだ見えないところに1人にするわけにはいかない。
向日葵が生まれた時、蓮は大学生。
ろくに遊びにも行かずに向日葵と遊んでいた。

溺愛していたため、両親に変わって夜泣きの対応やオムツの交換もしていた。
料理は下手だったため、離乳食などは母と桜が作っていた。

3歳を過ぎてから少しずず昼寝をすることは減っていったが、今日は色々と刺激が多く疲れたのだろう。

「にぃにも、ねぇねも居るから大丈夫だよ。ゆっくりおやすみ」

そういって向日葵の寝顔にキスをする。
向日葵の寝息を聞きながら、優しい匂いを嗅ぎながら、絶対に守ると強く思った。

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