異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー

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世界大会編

ただいま①

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リルの狩った獲物を収納し、拠点へ向けて進む。
はじめは目新しかった人工物も、見飽きつつあったため、自然に触れながらの空路は全く苦にならない。

「みえてきた!」

目覚めた向日葵が拠点が目視できたことで、声を上げた。
ユグドラシルが作った大樹の家は認識阻害、魔法障壁、物理障壁の3種の強力な結界が張られている。
向日葵の自由奔放の効果なのか問題なく見えているようだ。

拠点中央の広場を見ると、フィーネたちがすでに出迎えてくれていた。

「おかえりなさいませ」

美人エルフ姉妹は清楚に手を前で重ね、メイドの様に丁寧な所作で頭を下げた。

「おかえりー!」

妖精族のウィステリアは歓迎を示す様に蓮と桜を囲う様に舞った。

「ただいま戻りました」

なぜ帰ってきたことに気が付いたかを聞くと、カエデが気付き、知らせてくれたそうだ。
流石はユグドラシルの眷属。
気が利くことだ。

「きゅるる!」

ドラコの持つバスケットから向日葵が下りてくるの見たカエデは、体を小さく収縮させながら向日葵の元へと飛んだ。

「カエデェ!ただいまぁ!いいこしていた?」

守護者の中で唯一別行動で寂しかったのか、カエデは向日葵にすり寄って離れようとしない。

「あ、あの!レン様!本当にありがとうございます」

向日葵とカエデを見ていると、後ろから声をかけられた。
そう言うフィーネは肩からかけた小さなカバンを見せるように手にしていた。

よく見るとフローネも同じものをかけている。
ウィステリアは腰に帯を巻き、そこに小さな袋をつけている。
白狼の爪牙のローが所有しているマジックバックと同じ程度の大きさだ。

グランにはおおよその容量しか伝えていなかったが、気を利かせて、それぞれの体に合う大きさのマジックバックを用意してくれたようだ。

「すっごい便利で感動しちゃった!」

「なんとお礼を言えば良いか……」

聞けば、街での買い物をしたときや拠点内で物を運ぶ時など、かなり重宝しているようだ。

「お気になさらないでください。仕事環境を整えるのは当然のことですから。あ、これお土産です」

蓮は、重く感謝をさせないために、あえて軽い口調で言い、レグマムで買ってきた菓子を渡した。

「あとこれも……。こういうの嫌いじゃなければ良いんですけど……」

桜が取り出したのは、ベイビーブレスという名のレグナム近郊に多く咲く花を金具で束ねて作った髪飾りだ。
小さく愛らしい花で、白、赤、黄、青、ピンク、紫など様々な色に育ちつ不思議な花。

「これはフィーネさん。こっちがフローネさんで、こっちがウィステリアさん」

複数の色が混じっているものや二色で統一されているものなど組み合わせは様々あったが、桜はそれぞれの髪色に合うものを選び買っていた。

「いいの!毎日つけるよ!うれしいなぁ!」

「髪色に合わせてくださったんですね」

「素敵な花。ありがとうございます」

ウィステリアは羽をパタパタさせながら喜び、フィーネとフローネは髪飾りを抱きしめるようにして喜びと感謝を言葉にした。

「とても良くお似合いですよ」

実際に付けてみると髪色にも合う。
そして、エルフ族と妖精族特有の整った顔立ちには花がよく似合うようだ。

喜ぶ様子を見て桜は安心した表情を浮かべた。

「立ち話もなんですので、食堂に行きましょうか」

蓮の言葉で食堂へ移動。
蓮が問題がなかったかを尋ねるとフィーネたちは恐る恐る答えた。

「は、はい!問題ありません!せ、成果も少しですが出すことができました!」

ユグドラシルに依頼してカエデに念話で確認してもらっていたため、問題はないと思っていたが、まさか成果が出ているとは思わなかった。

どうやら蓮たちがレグナムへ向かう前にユグドラシルが『レン様たちが戻るまでに何かしらの成果を出しなさい』と伝えたことがかなりの重圧となっていたようだ。

蓮が成果について確認すると、味を損なうことなく、解毒効果のある果物ポーションの開発には成功したそうだ。

「こ、こちらが解毒効果を追加したリンゴポーションです」

現在街で売られている解毒ポーションを飲んだことはない。
回復系のポーションを飲んだことはあるが、飲めたものではなかった。
そのことから、解毒ポーションも不味いことは容易に想像できる。
つまり、リンゴポーションの味や香りを損なうことなく解毒効果を追加できたのであれば、この世界では画期的な解毒ポーションとなりうるだろう。

フィーネたちに緊張が走る。

ゴクッゴクッゴクッ……。

蓮は鑑定と試飲をしてみるが、効果も味も香りもまったく問題なし。

「完璧ですね。素晴らしいです」

鑑定には問題のない効果が表示され、風味も損なわれてはいない。

蓮の言葉にフィーネたちは手を取り合い喜びと安堵を口にした。
よほど緊張していたようだ。

集中力を増すことは重要だが、プレッシャーを感じながら働いてほしくはない。
蓮は、もっと気楽に働くように伝えた。

「これはもう冒険者ギルドに?」

「いえ。実はまだなんです」」

通常の果物ポーションと分けて提供した方が良いのか。
解毒効果のある果物ポーションに更に麻痺効果を追加した方が良いのか。
または解毒効果のある果物ポーションとは別に、麻痺効果のみある果物ポーションにした方が良いのか。

蓮たちの意見を聞いてから決めようと思い、開発にとどめていたそうだ。

「開発にかかる工程や時間、労力や費用はどの程度ですか?」

蓮が具体的に聞く色々と分かった。
解毒草は臭く苦いため、無味無臭にすることが困難だった。
諦めかけていた時、たまたま、厨房の取っ手に魔素を流し浄化を発動した時に、傍に置いてあった解毒草も綺麗になった。
くすんだ緑が新緑のように明るい緑に変わったそうだ。
それを従来通りの製法で作るだけで、無色透明で無味無臭の解毒ポーションが完成。

「それを各味のポーションに混ぜるだけですので……」

どうやら特に苦となる要素はないようだ。
肝心の素材もカエデが生み出してくれるため費用もいらない。

「であれば値上げすることなく、解毒効果付きの果物ポーションとして提供しましょう」

商人ギルドや領主の件が気になるため『生まれる弊害はこちらで処理します』と捕捉した。

「そこへさらに味を損なうことなく麻痺の治癒効果を追加してください。それ以上の治癒効果は追加しないでください」

蓮の言葉を聞いて3人は首を傾げた。

効果は多ければ多いほどに良いはず。
なぜそんなことを言うのだろうかと不思議に思ったのだ。

「実は話さないといけないことが多くありまして……」


蓮は世界大会の訓練で不在がちになることや、領主や商人ギルドの問題の可能性と、それが片付けばレグナムでもポーションの販売をすることになることを説明。
納品場所はグリーデンの冒険者ギルドで変更なし。
レグナムもグリーデン同様に職を失う調合師を出さないために、果物ポーションの出荷数には制限をかける。
レグナムの冒険者の数はグリーデンの5倍程度いるため、果物ポーションも2倍から3倍程度の増産となる。

回復ポーションの売れ行きが悪くなれば、レグナムの調合師に睡眠や石化などの状態異常を回復するポーション製造をさせれば、職を失わなくて済む。

「ですので、果物ポーションへの追加は毒と麻痺の治癒効果までにしてください」

更に蓮は説明を続けた。

「2人から3人程度の増員は視野に入れてますのでご安心を」

業務過多でフィーネたちの休みや研究時間が減ってしまってはいけない。
しかし、人を増やしすぎると必ず揉め事が起きる。
現状、かなり余裕を見た業務内容のため、足りるであろう人数を提示した。

そして蓮は『皆さんが面接して問題ないと思った人を同条件で雇用してください』と言葉を続けた。
種族間トラブルは他の世界から来た蓮たちでは、予測しきれないことがある。
フィーネたちに選んでもらうのが得策あろう。

「今聞いて、何か問題はありそうですか?」

蓮が質問をすると、フィーネたちは驚きの表情を浮かべ、開いた口が塞がっていなかった。

「あ、えっと……何だかすごく大きな話になってますね」

「う、うん。まさか国を相手に取引をすることになるなんてね」

フローネもフィーネも問題や異論があるというよりは、話の規模に圧倒されている様子だ。

そんな中、ウィステリアだけは、また桜の作る料理が食べられるのではないかと、よだれを垂らした。
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