異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー

文字の大きさ
111 / 118
世界大会編

再会とパワハラ精霊

しおりを挟む
翌朝。
夜明け前。
涼しく気持ちの良い空気が漂う中、向日葵の声が湖畔を駆け抜けた。

「しゅっぱーつ!」

向日葵の言葉と同時にドラコは桜たちを乗せたバスケットを手に、大きな翼を羽ばたいた。
蓮とリルは跳躍し、空を駆けた。

「ヒマワリ様は朝早いのにすごく元気ですね」

「うん!きょうはねぇ!メイちゃんにあうの!」

今日はフィーネたちにとってはポーションの納品日。
蓮たちにとってはグリーデンでの買い出しと、白狼の一団と会えるかもしれない日。

バスケットに乗り揺られながらフィーネが聞くと、向日葵は満面の笑みで答えた。

「会えるかはわからないよ?でも居たら良いね」

明確な日程の約束はしていない。
レグナムから帰ると聞いていたおおよその日程でグリーデンに向かうだけだ。

期待が外れたときのショックを緩和する為に桜が向日葵に説明するが、そう言葉にする桜自身もメイに会いたい気持ちが強いのが表情から見て取れる。

「居なかったら伝言を残したり、グリーデンに数日滞在すれば良いよ」

空をかけながら蓮が言う。
フィーネたちも滞在しても良いし、カエデに運ばせて先に帰しても良い。

元いた世界と異なり時間に余裕があることを説明し、蓮は桜の焦る気持ちを落ち着かせた。

「フェンさんたちもレグナムで報酬を受け取ってるから、しばらくら任務に出ないかもしないしね」

「ねぇね。メイちゃんとインスタこうかんしなかったの?」

インスタント・フォトグラム。
通常インスタ。
蓮のいた世界では流行っていたソーシャルネットワークサービス。
日々の日記を投稿するだけでなく、通話やメッセージ機能があり、互いに繋がりを持っておけば連絡を取り合うことができる。

リアルタイムな連絡手段が極めて限られているこの世界に導入すれば、文明を発展を急激に加速させるだろう。

「ご、ごめんね。この世界じゃ使えないんだぁ。スマホも持ってないし」

響きに懐かしさを感じながら桜は説明した。

スマホは机の上に置いたまま転移した為、持っていない。
持っていたとしても写真を撮ったり、計算をするだけのになるため、電波を必要とするものは一切使えない。

それだけの機能があれば充分オーパーツになりのは事実だが、向日葵の言う用途としては使用できない。

フィーネたちが聞きなれない言葉にハテナを浮かべてしまっている。

道中に狩りをして、食糧と素材を集める。
移動距離に慣れ始めているからか、あっという間にグリーデンについてしまった。

例に倣ってグリーデンの手前で降り、ドラコは人化を発動。
素早く服を着て、徒歩でグリーデンへと向かう。

「おはようごじゃいますです」

服を小さくつまみ、軽く膝を曲げて向日葵が門番に挨拶をした。

「ああ、おはよう。今日も良い笑顔だな」

向日葵が満面の笑みというか、満面のドヤ顔で見せた王家特別待遇証を確認しながら、番が挨拶を返した。

忘れていた。
帰る前には少しだけ注意しよう。
蓮は向日葵のことを軽く謝罪しながら門を潜り、桜やフィーネたちも後に続いた。

空を移動しているときに微かにも鐘の音は聞こえていない。
二度目の鐘は魔では時間があるが、一度目の鐘が鳴ってから少し経った程度の時刻だろうか。
様々な店が開き、人通りも多い。

活気が溢れ、住民の表情も明るい。
いつ来ても素敵な街だ。

リルが先頭を歩き、人の波を十戒のように割りながら進み、最初にやってきたのは冒険者ギルド。
リルを外で待機させ、中に入る。

「お!レンじゃ……」

「サクラちゃん!すっごく綺麗だったよ!びっくりしちゃった!」

「メイちゃん!来てくれてありがとう!嬉しかったぁ!」

女の子というのはなぜ感情表現が豊かなのだろうか。
手を取り合い飛び跳ねながら伝え合う。

「メイちゃーん!」

向日葵も良く懐いており、メイに駆け寄った。

「ヒマちゃんも綺麗だったよぉ!お姫様みたいだったねぇ!」

「そうなの!ひぃちゃん、プリンセスなの!」

向日葵が加わり更に賑やかだ。

蓮とフェンとローは顔を見合わせ、なぜ女性はこんなにも賑やかなのかと同じことを考えた。

「よ、よう。ありがとな」

メイたちにかき消された言葉をフェンが再び口にした。
レグナムの祝典時に、蓮が獣人差別を緩和する話をしたこと。
白狼の爪牙の協力の元、特別指定討伐対象エイリアスモンスターを倒したことを説明したこと。
そして、それにより国から特別報酬が出たこと。
フェンは細かく離さずに感謝を伝えた。

蓮も多くを語らずに『お気になさらず。本当のことですから』と言葉を返し、そして祝典に駆けつけてくれたことに感謝を伝えた。
女性陣とは対照的に言葉は少なく、落ち着いた会話。

「私たちは納品に行ってきますね」

フィーネたちは受付に向かい、アニィと話し、奥の部屋へと消えていった。
フィーネたちを目で追う際に、手を振っているミミィが視界に入ったため会釈をする。
蓮の後ろではドラコが闘志をむき出しにしている。

「お、お前も大変だな」

「す、すみません。なぜかドラコはミミィさんのことを良く思ってないみたいで」

殺伐とした空気に耐えかねて、フェンが蓮に伝える。
その言葉に蓮が謝罪を伝えるとローは『な、なぜかって言えるのは色々な意味で凄いことだよ』と蓮の恋愛低スペックに驚愕した。
その言葉にフェンもただただ同意した。

ローの言葉を聞き、理解できず蓮は首を傾げ、それを見てフェンとローは手で顔を覆った。

「あ、それよりも、この後って時間ありますか?」

「ん?ああ。今から任務なんだ。たぶん夜ならいけるぞ」

聞けば今からグリーデンの北東の森で目撃情報が増加しているゴリラージという魔物を討伐しに行くそうだ。
ゴブリンの時のように危険性や緊急性は高くない。
しかし、一体一体が強いため、ちょうどレグナムから帰ってきたフェンたちに白羽の矢が立ったそうだ。

「ミミィさん。それって僕らが同行しても問題ないものですか?」

蓮が受付を見てミミィに尋ねると、ミミィは『も、問題ありません!』と返した。
微かな声で『ふふふ。名前呼ばれちゃった』と言葉を漏らし、長い耳をピョコピョコと動かしながらニヤニヤと頬を緩めた。

「フェンさんたちに話したいことがあるので、差し支えなければ一緒に行ってもいいですか?」

「あ、ああ。俺たちは構わねぇぜ」

フェンがローを見ると、ローも頷いた。

「メイ!レンたちも一緒に行くってよ!」

傍で話をしていたメイに声をかけると、メイは喜び、桜とさらに大きな声で嬉しそうに話し始めた。
一緒に冒険に出かけると聞き、向日葵は何やら喜びのダンスを始めた。

「フィーネさんたちに事情を説明してくるから先に向かっててください」

蓮はそう言い、向日葵の頭の上で伏していたカエデを抱き上げた。

「きゅるるるぅ!」

「あ、やっぱり。勘付いてたんだね」

カエデはフィーネたちの護衛を任され、グリーデンに残されることを勘付き、向日葵の頭に伏して離れようとしなかったようだ。
蓮に抱き上げれたが、暴れて手から抜け出し、向日葵の頭へと舞い戻った。

フィーネたちは護衛無しでも、そこそこ魔法の腕が立つ。
しかし、領主の件も買い決意していない今、護衛をつけないのは不安だ。

「うーん。リルとドラコは置いていけないしなぁ。となると……」

好戦的すぎるため、リルとドラコにフィーネたちの護衛を任せられない。
蓮はカエデを見てからユグドラシルを見た。

「わ、私はヒマちゃん様から離れられません!」

ユグドラシル珍しく、以前に向日葵の抱っこを禁止した時と同じくらいの慌てようを見せた。
よほど嫌なのだろう。

「カエデ!往生際が悪いですよ!」

「きゅる!?きゅるる……」

自分自身は決して離れたくないため、ユグドラシルは主従関係というなのパワハラを全開に発揮し、カエデを納得させた。

「かえで。いいこいいこ」

向日葵が撫でると少し嬉しそうな表情を浮かべた後、再び涙目になりながら、カエデは渋々蓮の頭へと舞い移った。
可哀想だが仕方がない。
蓮はカエデを宥めながら奥の部屋へと向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

ちくわ
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

何故か転生?したらしいので【この子】を幸せにしたい。

くらげ
ファンタジー
俺、 鷹中 結糸(たかなか ゆいと) は…36歳 独身のどこにでも居る普通のサラリーマンの筈だった。 しかし…ある日、会社終わりに事故に合ったらしく…目が覚めたら細く小さい少年に転生?憑依?していた! しかも…【この子】は、どうやら家族からも、国からも、嫌われているようで……!? よし!じゃあ!冒険者になって自由にスローライフ目指して生きようと思った矢先…何故か色々な事に巻き込まれてしまい……?! 「これ…スローライフ目指せるのか?」 この物語は、【この子】と俺が…この異世界で幸せスローライフを目指して奮闘する物語!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。