2 / 20
悩みます
しおりを挟む着替えを済ませたメリッサは休憩のために馬車を降りた。
ロザリーに準備されたお茶と朝食がわりの軽食をつまむ。公爵領まで続く街道は治安も良く管理され魔獣もここまで出てこないので、随行の騎士も最小限であった。
「今回こちらに好条件だらけなんだけど、あちらのメリットは何かしら。」
「公爵家側からの要望は特にありません。」
メリッサはサンドイッチを咀嚼しながら首をかしげる。どう考えてもおかしい。格上の公爵家が相手なのに好条件すぎる。
話を聞いた直後は好物件を逃してなるものかと鼻息荒く意気込んでいたメリッサは次第に怖くなっていた。何か相手に問題があるのではないか。
「えーと、例えば公爵様は女癖が悪いとか?浪費がひどいとかない?」
「お館様とロザリーを信頼ください。既に身辺調査済みです。問題ありません。性格は温厚、女性関係も綺麗です。一年半前に公爵位をお受け継がれましたが、公爵領の運営も順調で領内の治安も大変良く領民に人気です。ただ‥‥」
「ただ?」
「公爵様の絵姿がありません。外出も少なく社交界にも出席されていないようです。」
縁談で絵姿は普通添えられるもの、多少盛って描かれるのは当たり前である。それさえないということは‥‥。つまり公爵様のお顔は残念ということ?
顔の良し悪しなど、相手の性格や自分の好みで感じ方は変わるものだ。性格が良いのなら公爵の顔が残念かどうかはデメリットにはならない。これでは出された好条件に対し弱すぎる。そもそもなぜ自分なのか。
「さあどうでしょう。このお話は公爵家から持ちかけられたとしか。」
メリッサの生前の母はその美貌で社交界の至宝と呼ばれていた。父も落ち着いた雰囲気の銀髪碧眼の貴公子だったそうで、2人の結婚は社交界で話題になったそうだ。
母に瓜二つの美貌と父の青みがかった銀髪と碧眼を引き継いだメリッサは相当な美人であった。
しかしハンター家業で目立ちすぎる容姿は邪魔でしかない。メリッサにとって美しいということは面倒この上なかった。
格上の公爵家から伯爵家への縁談。財産目的でない、政治的な利益もない、社交界デビューすらしていないメリッサに求婚する理由。
また顔なのか。メリッサの気が塞いだ。
貴族同士で恋愛結婚などそれこそ奇跡だろう。結婚では相手の家柄や容姿で好ましい相手かどうか判断される。今回もその類で選ばれたのだろう。
ラウエン公爵家といえば、魔封の森にゆかりがある。結婚後はハンターを辞めるとして、ちょっとだけでも森に入らせてもらえるよう公爵様にお願いしよう。ロザリーの調べだと公爵様は穏やかで人望もあるそうだから、仲良くなれればきっとうまくいく。まずは仲良くなれるよう頑張ろう。
「ああ、申し忘れておりましたが、公爵家ではお嬢様は邸に引きこもる深窓な令嬢ということになっております。」
前向きな思考になりかけたメリッサが固まる。
ハ?ナンデスカソレハ?
「昨年お嬢様は社交界デビューされませんでしたので、巷でそう噂されております。公爵家もすっかり信じているようでして。」
「おじいさまそこ訂正しないと!」
「しかし深窓の伯爵令嬢と信じての縁談でしたので、ここで実はハンターやっておりますとも流石のお館様も訂正できなかったようですよ。」
伯爵令嬢が魔獣駆除ハンター。確かに普通ありえない。わかるけどせめて深窓だけでも訂正してくれて良かったのではないかとメリッサは思ったが。しかしそうなると———
「公爵様と婚姻されるまでバレないよう、くれぐれも大人しくしていてください。出来ないとは言わせませんよ。このロザリーがお嬢様を伯爵令嬢にお育てしたのですから。」
メリッサはゾッとした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
928
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる