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初対面、しかし・・・

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 夜は途中の村の宿を取りながらの移動で公爵領ガイアへとたどり着いた。関所付近で待機していた公爵家の騎士隊とも合流できた。騎士の数が増え一気に物々しくなる。
 公爵家には領内にいくつか邸があり、今回は指定された魔封の森近くの別邸へと向かうことになった。港街バベル近くの本邸へはここからさらにニ日移動しなければならないとのことで、公爵領の大きさが窺えた。
 
「いよいよね‥‥」

 メリッサは必要以上に動かず、おとなしく、答えに困ったら適当に微笑む。ロザリーの指示だ。

 こんなことで本当にいいのか?そもそも論で、深窓の令嬢って何?普通の伯爵令嬢って?何もわからない以上、この指示に従うしかない。咄嗟に色々反応しないよう気をつけよう。

 出会いは第一印象が重要。大丈夫。挨拶のイメージトレーニングは何度もした。公爵様がどんな顔でも動揺を表に出さない!

 門を潜ってだいぶ経つがまだ邸に到着しない。どんだけ広いんだとあきれていた頃、ようやく見えてきた母屋の前で馬車が止った。先に出たロザリーに続き、気合を入れたメリッサは外に出た。

 別邸というにはかなり大きいやしき前に使用人達がずらりと並び頭を下げている。そして初老の男性と背の高い鎧姿の騎士が馬車に近づいて来るのが見えた。初老の男性は家令だろうか。
 とすると鎧の騎士は‥‥?

 メリッサは自分の前に立つ頭一つほど背に高い騎士を見上げて唖然としたが、どうにか自然な所作で淑女の礼をとれた。頭上よりくぐもった声がする。

「当主のアレックス・ラウエンだ。ラウエン家にようこそいらした。」
「メリッサ・シャムロックでございます。公爵様直々にお迎えいただきありがとうございます。」

 答えつつもメリッサは淑女の礼をとったまま動けない。思ってたのとちがう。この方が公爵様?!

 公爵は頭から爪先まで鎧姿だった。ハンター家業でフルプレート姿の剣士を見慣れているが、全身鎧装備など正式な式典や御前試合‥‥、鎧の置物くらいだろう。嫁いできた花嫁の出迎えにその姿は余りにもそぐわない。当然顔もわからない。
 聞こえる低い声は若い男性のもの、出迎えたということは公爵本人なのだろう。
 なよっとした貴族然を予想していたのでこれはちょっと驚いた。

「到着そうそうで申し訳ないが、魔獣が出たとの連絡があり討伐に出かけてくる。二日ほど空けるが、メリッサ嬢は心安らかに屋敷に滞在されよ。あとのことは家令のバースに任せてある。では。」

 メリッサの返事を待たず公爵は足早に去っていく。遠くに整列した騎士団が見えた。メリッサの護衛の騎士達も合流したようだ。メリッサの護衛にしては多い騎士の迎えだったが、魔獣に備えてのことだったのだろう。

 討伐出立と出迎えが重なってたまたま鎧姿だったのだろう、とメリッサは無理矢理結論づけた。でなければ流石に異様すぎる。

 公爵を見送ったのち、側で控えていたバースと呼ばれた家令が恭しくメリッサに礼をとった。
 白髪混じりの髪から初老と思われたが背筋も伸びておりそれほど年老いていない印象だ。ローブを纏ったら品の良い魔術師にも見えそうだ。

「改めましてラウエン公爵家の家令を務めますバースでございます。長旅でお疲れでございましょう。まずはお体を休められるよう手配しております。さあ、どうぞ中へ。」
「ありがとう。そうさせてもらいます。」

 顔が引き攣らないよう気をつけながらメリッサがにっこり微笑む。思ってたよりキツい。もっと笑顔の練習をしておけばよかった。

 シャムロック家からついてきた騎士達とはここで別れ、メリッサとロザリーだけとなった。
 バースに案内された二階の部屋は全て居心地よく整えられていた。グリーン基調の部屋は華美なものがなくシンプルで品よく。怖いくらいに自分の好みになっており、メリッサは驚いた。

 メイド達が荷物を運び込み、ロザリーの指示で荷解きを始める。とりあえずと旅装から公爵家が準備した楽なドレスに着替えさせられた。これもジャストサイズ。
 落ち着いたところでメイドが運んできたお茶をいただく。これもメリッサ好みの紅茶だ。公爵家恐るべし。

「美味しいわ。ありがとう。」

 ついでに微笑みを飛ばす。何が正解か分からないので、もう手当たり次第だ。メリッサが微笑むとメイドは魅入られたように頬を染めた。

 バースはメリッサを気遣ってか、詳細は後ほどと早々にメイド達と共に一旦退出した。よって部屋にはロザリーと二人きりになった。
 メリッサは大きく息をついた。ひとまず乗り切れた?

「お疲れ様でした。このような感じで今後もお願い致します。」
「お願い致しますって‥‥ずっとなんて無理よ。」

 メリッサはソファに寝転がる。思いの外消耗しているのは旅の疲れだと思いたい。

「結婚許可証が届いて婚姻に署名できるまででしょうか。公爵家側で急いで手配しているとは聞いております。後ほどその話も出るはずです。」

 一般的に貴族は婚姻が成立すればよほどのことがない限り離縁できない。それこそ死が二人を分つまで。つまり婚姻成立までメリッサの地がバレなければメリッサの勝利だ。
 結婚許可証は一般的にニ日もあれば発行される。

 公爵様も不在だしそれくらいなら猫かぶれそう?などと勝手な皮算用で安堵していたのだが——
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