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040:開かずの扉④
しおりを挟む「そこがわかんねぇんだよな。こっちの世界に興味がないわけじゃない。散策だってしたがる。殺すなというほどにこちらの世界の生き物を大事にする。この世界の理を変えることだってしてる。だのにだぜ?帰りたいならこの世界なんてほっときゃいいのによ。一体何がしたいんだよサクヤは」
「サクヤの作ったこの世界。自然豊かな美しい世界ですが光が強い分闇も強かったですわ。ここはサクヤの心の写し世。その矛盾も全て、つまりはそういうことかもしれませんわね」
ヴァルナの静かな声に四人に沈黙が落ちる。
光と闇の二面性。歴代王が創った殺伐とした単一の世界とは違う。先日の散策で遭遇した太刀打ちできないほどの闇の深さをヴァルキリーを除く三人の大精霊は身に染みてわかっていた。
「わかっているのはあいつは見た目通りのヤツじゃないってことだ。裏のあいつは根深い。あいつすげぇビビりじゃね?すぐ逃げるし?褒められてもなんでも否定する。何かに対してかわからんが酷い劣等感もある。その劣等感のせいで自己否定が強い。逃避と否定は自己防衛。自己防衛は本能だ、悪いことじゃないが過ぎるは心を滅ぼすこともある」
「そうですわね。秘めたものが笑い飛ばせる内容なら良いのですけれども」
「多分アイツの矛盾の核があの開かずの扉だったんだよ。それをお前が開けた。あたしらは開けられなかったのに、だ」
「開けられなかったの?ニクスちんでも?」
ヴァルナの目がすっと細めて頷いた。口調は不満げだ。
「あんないかにもな扉開けたくなるってものですわ。ニクスとこっそり開けようとしたんですけど大精霊二人がかりで攻撃してもびくともしませんでしたわ。こんなこと、今までだってありませんでしたのに」
「あの時の闇の鬼以外はな。ただの扉のくせにとんでもねぇ強さだ」
「ありゃりゃ。ニクスちんとヴァルナちんで開けられなかったらもうお手上げじゃん?」
「つまり‥あの扉はあの巨人と同じだということでしょうか?」
「どうだろうな。材料が一緒?そういう意味でなら扉が溶けた時鬼と同じ感じがした。どちらもサクヤが創ったと言うなら根っこは同じかもな。このあたしでも壊せなかった扉をサクヤは片手で易々と壊した。そもそもあの鬼はあいつにしか倒せなかったのかもしれねぇな」
ニクスが頬杖をついてはーッと深いため息をついた。
「見えるのに開かない扉。存在だけ主張している部屋だよ。まるでここに痛いものが入ってるから触るなって。あからさまだろ?触って欲しくなかったら扉なんで見せなきゃいいのによ。ホントわけわかんねぇ」
「———ひょっとしたらそこの意味があるのかもしれませんね?」
ヴァルナが目を細めてヴァルキリーを見据えた。
「精神の大精霊には開けられましたわ。サクヤがそれを許したのだとしたら?」
「許したのかなぁ?油断しただけじゃね?だがもう開かねぇ。アイツが壊しちまった。あー、もうダメかもな」
「‥‥もうダメとは?」
ファウナの声が震えた。ただ一人の王、失えば次王までまた数百年時を待たねばならない。不意にぴくりとヴァルキリーが反応した。空に視線を彷徨わせる。
「わっかんねぇ。あの部屋にサクヤの痛いものが入ってたとして?扉を壊したということはやっぱりあの部屋に入って欲しくねぇんだろ?あいつ出てったけどそもそもここに帰って来る気あんのか?」
「気配も絶ってしまいましたね。結界内でヨナも一緒ですし危険なことはないでしょうけど」
「それでは困ります!もう二回連続で王の召喚を失敗して‥‥王君が戻られなければ精霊界は今度こそ」
血相を変えるファウナにニクスは投げやり気味に目を閉じる。
「知るかよもう。戻ってきてもあいつにその意思がなきゃ繁殖も無理だろうが。今はこの世界を‥精霊王を拒絶してる」
「そうとも限らないよ。まだ決めつけるのは早い」
そこでヴァルキリーがついと立ち上がった。ファウナが目を瞠る。
「呼んでる。行かなくちゃ」
「ヴァルキリー‥あなた‥」
「勇気が欲しいって泣いてるの。行ってあげなくちゃ」
んーと両手を上げて背伸びをする。ヴァルキリーは笑顔だ。
「精神の大精霊ができることなんてホントはないんだけどね。勇気を欲しがることも勇気なんだよって教えてあげて。話を聞いてちょっと側にいてあげるだけ。その役目もホントは私じゃないし」
ヴァルキリーが歩み寄った先は開かずの扉。ドアノブのない扉の前にはルキナがしゃがみ込んでいた。その頭をヴァルキリーはそっと撫でる。
「ルキナ、心配してるのね。大丈夫だよ。サクヤは強いから。その時が来たら呼んであげるからサクヤの準備できるまでちょっと持っててあげてね」
そしてヴァルキリーがドアノブのない扉に手を置いて話しかけた。
「扉を開けてくれる?こちら側からだと壊れてて入れないの」
しばらく後、扉が内側から軋んで開いた。壊れた扉が内側から開いた。目を瞠るニクスたちの目から扉の中は見えない。ゆっくり押し開いた扉の内側にはもぎ取られたはずのドアノブが見える。そのノブにかかる黒服の手だけが見えた。扉中央の高さから伸びる手は年若い印象だ。その手がヴァルキリーに差し出された。導き入れるように。
「ありがとう」
見下ろす視線のヴァルキリーは手の主に微笑んで手を繋ぐ。そして開いた扉から中に入り扉を閉じた。
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