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アニス編
隠れ家へ
しおりを挟むグライドは飛竜小屋の前でやっとアニスを下ろした。当番に声をかけて頬擦りしてくる飛竜に鞍をつける。
「あの、ま、まさかこれに乗るの?」
「馬が空を飛んでると思えばいい。案外乗りごごちはいいぞ。ちょっと寒いのがあれだがな。」
馬だって怖いのに!とも言えずアニスは震え上がった。そんなアニスの肩にグライドは自分の上着を脱いでかける。
グライドが上着を脱いで初めてわかったが、グライドは色々なものを身につけていた。
肩のホルスターベルトにはアーミーナイフが左右一本ずつ、腰ベルトには何やら物騒なもの、暗器か何かだろう。両手首に巻かれた黒ベルトにもよく見れば針やら小さなナイフやらが複数仕込まれている。
執事服で丸腰のように見えて実はフル装備だった。護身術のレベルではない。
「なにこの武装レベルは?!誰か殺す気?!」
「守るために先手必勝。バース様の教えだ。」
ということはあの家令もこの装備。無害なイメージは全て鋭い爪を隠すためだったのだろう。
「んじゃ行くか。一応聞くが、乗れるか?」
「乗れるわけないでしょ!!」
「おっしゃ!任せとけ!」
微笑んだグライドが両手を広げると両腕に魔法陣が展開され、他にも正面やら背後にも大小の魔法陣が現れる。
グライドの魔術を初めて見てアニスは目を見張った。アニスにニカっと笑いグライドはアニスを抱きあげて助走無しで鞍に飛び乗る。すごいジャンプ力だ。
「筋力強化。跳躍。熱放出。魔術って便利だろ?」
「あんなに適性ないって言ってたのに。」
「お陰で魔力上げるために毎日すげぇ追い込まれたけどな。あれはもうほんと懲り懲りだ。じゃあそろそろ俺の隠れ家に行くか。」
ひらりと竜は飛び立ちアニスは恐怖で縋り付いた。風は冷たかったが抱きしめるグライドの体がすごく暖かく思わず擦り寄ってしまう。これも魔術なの?
飛竜の乗り心地もとてもいい、が景色はあまり見ないようにする。
飛竜は程なく森の一角に降り立った。隠れ家という割には何もない。
地面に降ろされあたりを見回していたアニスは、急にグライドに抱き寄せられ口付けられた。
逃げようにも頭をガッチリと抑えられられていて動けない。暖かい体にきつく抱きしめられ息苦しくてアニスは目をぎゅっとつぶった。唇をぺろりと舐められてやっと抱擁が解けた。
「‥‥アニス‥」
熱い吐息と共に名前を呼ばれ、朦朧としていたアニスは一瞬で覚醒した。
「あ、あんた!いきなりなにすんのよ?!」
「すまない。あんなに擦り寄ってくるからつい。仕方ないだろ。」
グライドはすまないと言いつつもしれっと言う。つい?仕方ない?なんだそれは?!アニスは真っ赤になって怒る。
「ついってあんた、そんな奴だったの?相手の合意もなしで、キ、キスとか!!」
「合意ならしただろ?廊下で。」
「廊下の‥‥あれ?あれからどう飛躍したらそうなるのよ?!」
グライドはニカっと笑う。この笑顔にアニスは弱かった。
「嫌ならここまでついてこないだろ。それにお前はすぐ顔に出る。顔を見れば嫌がっているかわかる。だから今のはよかったんだよな?」
鼻の頭を指先でくすぐられ顔を茹らせたアニスは言葉に詰まる。
長い付き合いだ。言われなくても見ればわかる感じは理解はできた。でも!それでも!いろいろ大事なことを言わなすぎでしょ!!
今日のグライドの行動でアニスへの好意は感じていた。でも昨日の態度と比べると急変すぎた。いきなりすぎてアニスはグライドが信じられなかった。
遊びなんて嫌だ。一言でいい、ちゃんと好きだと言って欲しい。
「全然わからない。ちゃんと言われないとわからないから。だから言ってよ。」
アニスはグライドを見上げた。
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