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アニス編
最終話: 祝杯
しおりを挟む「バース、よくあそこまで育て上げたな。予想外だったよ。」
「飲み込みが良くてついつい色々仕込んでしまいました。もう一年あればもっと面白くなったでしょうな。ですがいかんせんあの性根までは叩き直せませんでした。」
「ははっ いや、あいつはあれでいいんだ。」
執務室でのアレックスとバースの会話。
唯一無二の腹心に領地を分割し預けた。有能な副官もつけた。これから大変かもしれないがあの二人なら大丈夫だろう。
元々陛下からガイアの管理については甘いと指摘があった。そもそも一人で管理できる領地ではない。腹を括って内部管理を分割せよ、と言われていた。
「しかし暗殺術までは要らなかったんじゃないか?」
「命が狙われる身であれば、暗殺術の心得は身を守りやすくなります。裏をかき敵を捉えるのにも有効ですぞ。存外あの男の戦闘スタイルにあっていたようで面白いように覚えましたな。」
バースの底が知れない。
暗殺術については今日初めて知った。アレックスにそれを施さなかったのは獣にはその必要がなかったということか。他にも色々物騒なものをグライドに仕込んでいたようだが聞かなかったことにしよう。
バースからは日々の進捗は聞いていた。一年で完成させるために禁欲を強いたと聞いた時には、そこまで追い込む必要があるかとアレックスは思ったのだが。
「色を禁じることで実戦では喰らいついてくるようになりました。しごき甲斐がありましたぞ。」
アニスに会って話すことはいいが、告白・過度の接触・肉体関係全て禁止、アニスに悟られてもダメ。反した場合は破門。想いを自覚した後でそれはキツかろう。その上で煽るために閨教育も施したと聞いてグライドに同情したものだ。
魔術もろもろの訓練が終わらなければバースの下から外れない。外れなければこの地獄が続く。焦れたグライドが自身を相当追い込んだらしい。
だからたった一年で完成したのか。バースも鬼だ。
「ところでバースはいつ二人の関係に気がついたんだ?」
「アニスが邸に上がってきた日でございます。」
顔合わせの日に部屋に行けば二人は妙な雰囲気だった。影に調べさせれば、以前二人は出会っていたようだ。
様子を見ていたが一年、二年経っても進展しない。こっそりと手を回しアニスに援助するもグライドが無自覚ではどうしようもなかった。
だから一計を案じた。
グライドの後任のアニスを一年で副官として育て上げ、二人をどこぞへ出してしまえばいい。禁欲明けであれば事は簡単に進むだろう、と。
アニスのプランはあくまで後付けでグライドの付随であったのだが。
「誤算はアニスも化けたことか。優秀で手放すのに苦労したよ。」
「あの若をも飼い慣らしておりましたな。稀有な人材でした。」
「見事な綱捌きでこれも悪くないとつい思ってしまった。アニスに後任を教育させてこっちに送ってもらわないとな。業務が滞る。」
アレックスはバーカウンターで酒を注いだ。
カウンター設置時、執務室にこんなもの要るのか?とアニスに尋ねたが、いつかきっと飲みたくなる日が来ますよ、と言われた。
実家での経験談だったのだろうが、アレックスは今日初めて使った。グラスをバースに差し出す。
「バース、付き合え。祝いの酒だ。」
「そうですな。いただきましょう。あの二人に幸あらんことを。」
二人の門出を祝いアレックスとバースは乾杯をした。
アニス編 完
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