【完結】公爵閣下付き侍女の恋愛

ユリーカ

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アニス編

優しくて馬鹿な人

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「想いも通じあった。結婚の約束もできた。解禁もされた。だからもういいよな?」

 なにが?と聞く前にグライドにのし掛かられ口付けられた。同時に太ももをなぞられて理解する。
 いやいや、流石にすぐなんてダメだから!しかも外で!どんだけ盛ってるんだこの男は!

「ダメだって!何考えてるのよっ いきなりでっ しかもここ外よ?誰かに見られるとか絶対イヤ!!」
「え?そう?じゃあしょうがないなぁ」

 あっさり諦めたと思ったら、身を起こしたグライドは右手に魔法陣を展開して四角い結界を作り出した。
 これは見覚えがある。バースが以前アレックスとメリッサを部屋に閉じ込めるために使った最上級結界『鉄壁』。

「これでいいだろ。こいつすごいんだよ。元は王族専用対暗殺シェルターだったんだが砲弾が飛んできても守られる。視界遮断・完全防音の鉄壁だ。外から見えないしまるで家の中だろ。こうやると遮光もできる。な?これで大丈夫だろ?」 

 ニカっと笑うグライドが手をあげるとシェルター内が薄暗くなった。笑顔につられそうになるもアニスは踏みとどまった。いやいやいや、そういう問題じゃない!
 というか師弟とも最上級魔術をこんなことに使っていいのか?!

「あんた馬鹿なの?!そうじゃないの!!初めてが外なんて絶対イヤなんだから!!」
「え?アニス初めてなのか?」
「—— あんた私のことなんだと思ってるのよ?!」

 アニスは猫のようにフーッとうなり、耳まで真っ赤にして怒る。真顔のグライドが嬉しそうに破顔する。

「やった!じゃあ初めて同士だな!」
「—— はぁ??」

 アニスは唖然とした。
 この男、初めてで外で盛り出したの?!ありえないっ怖すぎる!!

「今まで忙しすぎて女とかそれどこじゃなかったし。枯れてたなぁ俺。あ、でも知識だけはある!安心しろ!」

 知識って何?安心って?もう言っている意味がわからない。アニスは脱力した。そんなアニスを気にも留めずグライドはむくれた顔で続けた。

「執事に必要だってバース様から仕込まれた。閨教育?っていうらしいが。こっちはお前を我慢中で死にそうだったのに無理矢理すげぇこと教えやがって!ひどい鬼だよ!」

 がばっと顔を上げたアニスがグライドの胸ぐらを掴む。
 執事で必要?そんなわけあるか!ほんと馬鹿!!

「閨って!あんた誰かにそれやってないでしょうね?!」
「だからそんな暇もなかったって。座学だったし。でもおかげで大変だった。」

 困り顔のグライドはため息をついて、するりとアニスのうなじを撫でる。

「アニス見るたびに欲情してさ、頭ん中で何度も抱いたよ。」

 胸ぐらを掴んでいたアニスは頭が真っ白になって固まった。グライドの指がつつとうなじをなぞる。

「このうなじがたまんなかった。舐めたらいい声出しそうで。そういうとこを無防備に俺に晒してさ。悟られないよう我慢するの大変だった。夢では何度もしゃぶりついたなぁ。」

 ——すっごくいい顔で何とんでもない事を言っているんだこの男は!!羞恥心ないの?!それとも隠してただけで実はこういうやつだったの?!もう馬鹿馬鹿馬鹿!!

 グライドに抱き寄せられうなじをぺろりと舐められアニスは悲鳴を上げた。

「ひゃんっ」
「ほら、思った通りいい声だ。柔らかくてすげぇいい匂いするし。本物最高!いただきまっす!!」

 そのまま再びストンと押し倒しグライドがうなじに吸い付いてくる。アニスはゾクゾクする感覚に声を上げて身悶える。うわぁすごい気持ちいい!でもダメだって!!

「だ、だからダメだって!ここはイヤっ せめてベッドでして!」

 むくりとグライドが起き上がった。目が据わってる。

「よし。言質とった。外でないベッドの上ならいいんだな。」
「は?!いやそういうわけじゃ‥‥」
「—— 聞こえない。ここかベッドか選べ。」

 上から見下ろされる半端ない圧と低い声にアニスはドキリとする。普段ない命令形で言われたからだろうか。アニスはコクリと喉を鳴らす。

「アニス。」

 圧に答えを促されて視線を逸らし小さく答える。

「‥‥ベッド。」

 これではしたいと言わされてるようなものではないか。この男酷すぎる!アニスは涙目で睨み返した。それを見て今度はグライドが赤面し鼻を押さえる。

「もう理性の限界なんだよ。そんな風に煽るなっ」

 グライドはアニスを抱き上げ早足で森に入る。

「どこに行くの?!」
「この奥に使われてない番屋小屋がある。掃除はこの間したから。」
「!!!」

 今度こそアニスは絶句した。
 奥に小屋?!聞いてない!でもそういえば隠れ家と言ってはいたか。
 チラリとアニスを見たグライドが前を向いたまま言い放つ。

「家の中にちょっと狭いがベッドもある。何も言うなよ。この一年ずっと耐え続けたんだ。今理性を総動員してる。何か言えばその場で抱くからな。」

 軽々と抱き寄せられアニスは何も言えなかった。

 竜騎士で魔術士で旦那様の鉄壁で。全力で私を守ると言った優しくて馬鹿な人。もうこんなの拒めるわけがないじゃない。
 そっと首に縋りつくとグライドは舌打ちして駆け出した。


 扉を開け二人は中に入る。扉が閉まりそしてカチリと錠のかかる音がした。
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