16 / 17
アニス編
優しくて馬鹿な人
しおりを挟む「想いも通じあった。結婚の約束もできた。解禁もされた。だからもういいよな?」
なにが?と聞く前にグライドにのし掛かられ口付けられた。同時に太ももをなぞられて理解する。
いやいや、流石にすぐなんてダメだから!しかも外で!どんだけ盛ってるんだこの男は!
「ダメだって!何考えてるのよっ いきなりでっ しかもここ外よ?誰かに見られるとか絶対イヤ!!」
「え?そう?じゃあしょうがないなぁ」
あっさり諦めたと思ったら、身を起こしたグライドは右手に魔法陣を展開して四角い結界を作り出した。
これは見覚えがある。バースが以前アレックスとメリッサを部屋に閉じ込めるために使った最上級結界『鉄壁』。
「これでいいだろ。こいつすごいんだよ。元は王族専用対暗殺シェルターだったんだが砲弾が飛んできても守られる。視界遮断・完全防音の鉄壁だ。外から見えないしまるで家の中だろ。こうやると遮光もできる。な?これで大丈夫だろ?」
ニカっと笑うグライドが手をあげるとシェルター内が薄暗くなった。笑顔につられそうになるもアニスは踏みとどまった。いやいやいや、そういう問題じゃない!
というか師弟とも最上級魔術をこんなことに使っていいのか?!
「あんた馬鹿なの?!そうじゃないの!!初めてが外なんて絶対イヤなんだから!!」
「え?アニス初めてなのか?」
「—— あんた私のことなんだと思ってるのよ?!」
アニスは猫のようにフーッとうなり、耳まで真っ赤にして怒る。真顔のグライドが嬉しそうに破顔する。
「やった!じゃあ初めて同士だな!」
「—— はぁ??」
アニスは唖然とした。
この男、初めてで外で盛り出したの?!ありえないっ怖すぎる!!
「今まで忙しすぎて女とかそれどこじゃなかったし。枯れてたなぁ俺。あ、でも知識だけはある!安心しろ!」
知識って何?安心って?もう言っている意味がわからない。アニスは脱力した。そんなアニスを気にも留めずグライドはむくれた顔で続けた。
「執事に必要だってバース様から仕込まれた。閨教育?っていうらしいが。こっちはお前を我慢中で死にそうだったのに無理矢理すげぇこと教えやがって!ひどい鬼だよ!」
がばっと顔を上げたアニスがグライドの胸ぐらを掴む。
執事で必要?そんなわけあるか!ほんと馬鹿!!
「閨って!あんた誰かにそれやってないでしょうね?!」
「だからそんな暇もなかったって。座学だったし。でもおかげで大変だった。」
困り顔のグライドはため息をついて、するりとアニスのうなじを撫でる。
「アニス見るたびに欲情してさ、頭ん中で何度も抱いたよ。」
胸ぐらを掴んでいたアニスは頭が真っ白になって固まった。グライドの指がつつとうなじをなぞる。
「このうなじがたまんなかった。舐めたらいい声出しそうで。そういうとこを無防備に俺に晒してさ。悟られないよう我慢するの大変だった。夢では何度もしゃぶりついたなぁ。」
——すっごくいい顔で何とんでもない事を言っているんだこの男は!!羞恥心ないの?!それとも隠してただけで実はこういうやつだったの?!もう馬鹿馬鹿馬鹿!!
グライドに抱き寄せられうなじをぺろりと舐められアニスは悲鳴を上げた。
「ひゃんっ」
「ほら、思った通りいい声だ。柔らかくてすげぇいい匂いするし。本物最高!いただきまっす!!」
そのまま再びストンと押し倒しグライドがうなじに吸い付いてくる。アニスはゾクゾクする感覚に声を上げて身悶える。うわぁすごい気持ちいい!でもダメだって!!
「だ、だからダメだって!ここはイヤっ せめてベッドでして!」
むくりとグライドが起き上がった。目が据わってる。
「よし。言質とった。外でないベッドの上ならいいんだな。」
「は?!いやそういうわけじゃ‥‥」
「—— 聞こえない。ここかベッドか選べ。」
上から見下ろされる半端ない圧と低い声にアニスはドキリとする。普段ない命令形で言われたからだろうか。アニスはコクリと喉を鳴らす。
「アニス。」
圧に答えを促されて視線を逸らし小さく答える。
「‥‥ベッド。」
これではしたいと言わされてるようなものではないか。この男酷すぎる!アニスは涙目で睨み返した。それを見て今度はグライドが赤面し鼻を押さえる。
「もう理性の限界なんだよ。そんな風に煽るなっ」
グライドはアニスを抱き上げ早足で森に入る。
「どこに行くの?!」
「この奥に使われてない番屋小屋がある。掃除はこの間したから。」
「!!!」
今度こそアニスは絶句した。
奥に小屋?!聞いてない!でもそういえば隠れ家と言ってはいたか。
チラリとアニスを見たグライドが前を向いたまま言い放つ。
「家の中にちょっと狭いがベッドもある。何も言うなよ。この一年ずっと耐え続けたんだ。今理性を総動員してる。何か言えばその場で抱くからな。」
軽々と抱き寄せられアニスは何も言えなかった。
竜騎士で魔術士で旦那様の鉄壁で。全力で私を守ると言った優しくて馬鹿な人。もうこんなの拒めるわけがないじゃない。
そっと首に縋りつくとグライドは舌打ちして駆け出した。
扉を開け二人は中に入る。扉が閉まりそしてカチリと錠のかかる音がした。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる