【完結】R18 オオカミ王子はウサギ姫をご所望です。

ユリーカ

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第二章 ウサギの教育編

第二十話 「私は貴方のことを認めないわ!」

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 お茶会が終わり、私は報告のためアウル様の執務室に向かっていた。お忙しいのに私のためにたくさんの時間を割いてくださった。たくさんお礼が言いたい。

 そんな思いで早足で歩いていれば執務室に向かう回廊に一人の令嬢が立っていた。私をじっと見やるその顔に、足を止めてその顔の記憶を探る。確か先ほどのお茶会にもいらした公爵家のご令嬢だ。

 ストレートの艶やかな黒髪に真っ白い肌。髪と同じく黒い黒曜石のような瞳。お茶会では口数も少なく挨拶しかできなかったが、その繊細な美しさに息を呑んでしまったのだ。

 そのご令嬢が私の進路を塞ぐように立っていた。
 私に何かご用かな?口を開きかけたが、先にご令嬢の凛とした声が聞こえた。

「私は貴方のことを認めないわ!」
「‥‥‥はい?」

 ビシッと人差し指を私に突きつけ、ご令嬢は素晴らしく勝ち気な表情だ。そして可愛らしい口からの決め台詞です。

「アウレーリオ王太子殿下の正妃は私!貴方は端っこで小さくなってればいいのよ!リーネント如きの王女がわかっていて?立場を弁えなさいよ!!」
「‥‥‥はあ‥‥」
「アウレーリオ殿下とあなたの熱愛の噂もあるけどどうせあなたの蒔いたガセでしょ?あの崇高な殿下がこんな小娘相手にゾッコンなんてあり得なくてよ?図々しいにも程があるわ!」
「‥‥‥はあ‥‥」
「どうやって婚約までこぎつけたか知らないけどどうせ政略でしょ?それを正妃に収まろうなんておこがましすぎてよ!」
「‥‥‥はあ‥‥?」

 なんとも言えない声が出てしまった。自信満々で言い切られて自分の認識に自信がなくなってしまった。

 えっと?あれれ?そういうこと?正妃って誰なんだっけ。なんかよくわからないままにマウントされたけどこの方のお名前は確か?

「セレニティ?お前ここで何してるんだ?!」

 アウル様の声に私たちは振り返る。
 アウル様がここにいらっしゃるということは‥‥アウル様が気にかけて私の様子を見にきてくださったようだ。

 セレニティ・ストックデイル公爵令嬢。確か年は十七歳。
 お茶会参加者中で要注意とアウル様に問答無用でブラックリストに入れられていたご令嬢だったか。理由を聞いても「とにかく近づくな!」だけしか教えてもらえなかった。

 お茶会ではこんなに愛らしくってなぜにブラックリスト?と思っていたが、先ほどの発言で改めて全てを理解した。

 アウル様の追っかけ令嬢か。これは厄介だ。
 一つ年下なのに小娘扱いされたよ。

「まぁアウレーリオ殿下!ご機嫌麗しゅうございます!」

 先ほどの私への威圧啖呵はどこへ行ったか、花が綻ぶように愛らしい笑顔でアウル様に淑女に礼をした。

 おおぅ!変わり身の早さにドン引きだってば!素晴らしく良い猫を飼ってらっしゃいますね?羨ましい!

「ここは王族専用だ。お前、また勝手に入ってきたのか?!警備は何してんだよ‥‥」
「だってアウレーリオ様にお会いしたかったんですもの!どうぞって言われましたわよ?」
「ストックデイル公爵の名前を出したな?誰も逆らえないだろ。帰れ。後で厳重に抗議しておく」
「お茶会に殿下がいらして下さればこのようなことは致しませんわ。ずっとお会いしてなかったんですもの。仕方がございませんわ」

 ツンと拗ねて見せる表情もものすごく可愛らしい。こんな表情をされれば男性陣はころっといってしまうのではないでしょうか?私だったらゴロゴロッといっちゃいますね。ホントにアウル様に効いてないの?

 へぇ?とアウル様をヌルく見上げれば、アウル様が珍しくめっちゃくちゃ慌てて見せる。

「ち!違うぞ?こいつが勝手に色々と言ってるだけだ!」
「勝手に?はぁ。そうですか?火のないところに煙はうんぬん‥と言いますが?」
「違う!誤解するな!こいつは公爵家の権力使ってあっちゃこっちゃで俺に付きまとってるだけだって!」
「へーほーふーん。付きまとってる?イチャイチャ?仲が良さそうですね?」
「だから!俺は相手にしていない!!」

 私もツンとしてみせたが、多分全然可愛らしくない。

 うーん?難しいな。どうやったらあんな風に愛らしくできるん?凄いなぁ。私もあんな猫欲しいなぁ。一匹譲って欲しいぞ。

 無視されたと思ったのかセレニティ嬢が憤慨して私を睨みつけてきた。

「アウレーリオ殿下になんて失礼な!弁えなさいよ!」
「弁えるのはお前だ!ノワは俺の婚約者だ!口を慎め!」
「なんでですか?アウレーリオ殿下の婚約者は私のはずでしょ?」
「へえー?そうなんですか?あらぁ!」

 おっと、衝撃の新事実。婚約者がもう一人ですか~ さすがアウル様、モテモテですねぇ。実はもっといたりして。

 さらにヌルく見上げれば、私を深く理解するアウル様がさらに慌てて見せる。滅多に慌てない方だからちょっと楽しくなってきた。

「だから違うって!俺が選んだのはお前だ!こいつとは以前から付き纏ってきて!あ、付き合いはお前のほうが長いからな?っていうか!お前!楽しんでるだろ?!」
「いえいえ?衝撃の事実に動揺しまくっておりますわ。ホホホ」

 まぁ?あのアウル様に限って浮気はないだろう。
 見た目はハイスペックだけど耳フェチ変態アウル様だし?あんなにネチエロドSオオカミだし?執着残念王子だし?

 あ、すごい。なんか変態って安心だなぁ。

 そんなことを呑気に思っていれば、アウル様が私の脳内を読んで不機嫌に顔を顰める。

「お前今さらっと俺をディスったな?お前は目を見りゃなんでもわかんだよ!」
「いえ、アウル様を信じていますと再確認しただけです。よかったですね」
「何が?ちっともよくない!俺は全然悪くないのに!」

 そしてアウル様が恨みとばかりにセレニティ嬢を突き放しにいった。

「お前が出てきたから話がややこしくなったんだよ!もういい加減にしろよ!」
「そ、そんな‥‥アウレーリオ殿下‥」
「その顔も演技だろ?!お前の猫はもう懲り懲りだ!もう俺には婚約者がいる。それなのに何度俺に近づくなと言えばわかる?悪意ならそろそろ公爵家に罰を出すぞ!」

 セレニティ嬢が涙目でサッと怯えた表情になった。王族が言う罰なら貴族令嬢にとって致命傷だ。それは流石に酷くないだろうか。

 私はセレニティ嬢を庇うようにアウル様の前に立ち塞がった。

「アウル様!こんな可愛い女の子に酷いことしないで下さい!」
「何でお前が庇う?!どっちの味方だよ?!」
「当然可愛い方です!」
「またそれか!!!」

 アウル様が顔を顰める。この展開はお気に召さないのかいつも不機嫌になる。

 ん?他の子を可愛いいっていったから拗ねてる?

「もう!アウル様も可愛いですから!そんなおっかないこと言わないで!」
「俺は可愛くない!だからなんでお前は‥‥」
「ね?アウル様?私がお願いしてもダメですか?」

 手を胸の前で組んで小首を傾ける。じっと目を見てお願いすればアウル様が目元を赤らめてグッと押し黙った。そして何やらブツブツ聞こえてくる。

「‥このウサギはッ可愛いのはお前だろうが!!俺を悶死させるつもりか?!」
「モンシ?問診?ご気分がすぐれないのですか?」
「また無自覚か!なんでもない!可愛いだけでなんでも許すなよ!」

 だって可愛いは正義だし?ファシアは色んな可愛い子がいて凄いよ。素晴らしいね!そんな子が怖がった顔なんて勿体無いよ!

 そんな思いで励ますようにセレニティ嬢に振り返ってその手を取った。

「ほら大丈夫。酷いことにはならないよ?だから怖がらないで、ね?」

 安心させようとにっこり微笑んで見せればセレニティ嬢が目を瞠った。そしてなぜか赤面でフルフル震え出す。

「あ‥‥あああ‥」
「あ?」
「‥‥‥貴方のこと!認めたわけじゃあないからねぇぇぇ!!!!」

 そして謎の絶叫後に涙目逃走。
 ドレスなのに?深窓の令嬢そうなのに?めっちゃくちゃ足早い。

 あれれ?なんで?余計怖がらせちゃった?

 背後のアウル様が目元に手を当てて脱力したような呆れた声を出した。

「お前‥‥スイーツ以外でもアレが出せるんだな」
「アレ?」
「『天使の微笑み』」
「ほえ?」

 意味がわからず聞き返せば、さらにアウル様が顔を顰めた。
 
「お前ホント無自覚にマウントするよな。もう王太子妃になるために生まれたヤツだ。無差別最終兵器。別の意味で心配になってきたぞ」
「なんですそれ?」
「ちょっとは手加減しろよ?お前の人タラシは一撃必殺なんだよ。あまり熱狂者ファンを作るなよ?」

 そんなことを言ってアウル様は遠い目でぼやいた。




 その後、セレニティ嬢の情報がアウル様から語られた。

 セレニティ嬢はファシア王国内で筆頭のストックデイル公爵家のご令嬢だった。

 歳の頃もアウル様に近い。見目麗しく頭の回転も早い。だからか期待されてしまい子供の頃からアウル様の婚約者になるように育てられてきたそうだ。そんな話も約束もなかったのにだ。どちらかといえば家の都合だろう。

 普通であればその目もあっただろうが、アウル様がこの通り一味違ったために、あれよあれよとこんな展開になってしまった。

「まさか他所から姫を掻っ攫ってくるとは思わなかっただろうね」

 国内のライバル令嬢は潰しまくり近隣にも政治的な婚姻が必要ない。公爵家的には娘を王太子の婚約者へ猛プッシュだろう。アウル様のあの条件がなければ婚約が整っていそうだ。
 そこへアウル様自身が婚約者を連れてきてしまった。フラグを無情にへし折るアウル様に公爵家の阿鼻叫喚が聞こえるようだよ。ちょっと同情する。

 公爵家の敗因はアウル様の性格を完全に把握できていなかったところだろうか。

 公爵家はお通夜状態らしいがセレニティ嬢本人はそう簡単ではないらしい。筆頭公爵家だったが故にアウル様も無下にはせずセレニティ嬢に適当に対応していたのが仇になったようだ。
 見た目は超イケメンで無駄にハイスペック。外面はよくしていたがために自分に優しくするイケメン王太子はセレニティ嬢の憧れとなったわけだ。

 中身は腹黒変態エロ王子なんだってば。
 結構滲み出てると思うんだけどなぁ?
 なんでみんな騙されるん?

 
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