【完結】R18 オオカミ王子はウサギ姫をご所望です。

ユリーカ

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第二章 ウサギの教育編

第二十一話 私は何も言ってないって!!

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 セレニティ嬢とはそれっきり?かと思いきや、翌日の午後に王宮の中庭に呼び出された。果し状と書かれた手紙が届いたのだ。

 軽装デイドレスで、という指定された膝丈ドレスの格好でトリスを連れて向かえば、そこにはすでにセレニティ嬢とアウル様、数人の侍女が立っていた。
 セレニティ嬢も膝丈デイドレスの軽装だ。真っ黒な髪をポニーテールに結い上げている。大きな黒目の猫目が強調されて、勇ましくもますます可愛らしい感じだ。

「なぜここにアウル様が?」
「俺も呼び出されたクチだ」

 そして胸元から手紙を覗かせて見せる。どうやらセレニティ嬢が仕組んだようだ。さすが筆頭公爵家、王太子を呼び出せるとはなんとも大胆で豪胆だ。

「えっと?これはどういう?」
「やられっぱなしでこの私が引き下がると思って?今日ここでどちらがアウレーリオ殿下にふさわしいか決着をつけますわ!!」
「決着?ふさわしい?」

 アウル様が嘆息し疲労感で目を伏せている。どうやら止める気はないようだ。

 ふさわしいも何もアウル様が選ぶのであって?
 あれれ?アウル様ももうとことんやりなさいと?

「はぁ?どのような方法で決めるのです?」
「アウレーリオ殿下の愛情の深さでしょ!」
「‥‥あい?じょう?」

 セレニティ嬢が私を睨みつけてドヤ顔で話し出した。

「私がアウレーリオ殿下に初めてお会いしたのは五年前のお茶会の時よ!アウレーリオ殿下が初対面で席までわざわざエスコートして下さったのは思い出深いわね!二年前の社交界デビューの夜会では殿下のファーストダンスに選んでいただいたのよ。すごいでしょう?」
「茶会で初対面は一応礼儀として皆をエスコートしてる。ファーストダンスは城からの指示だ」

 アウル様が無情なネタばらしをする。セレニティ嬢の耳には届いてないようですが。
 セレニティ嬢が私にも話せと無言の圧をかけてくる。

 え?これは何のマウンティング?

「えっと?初対面?私とアウル様とは十年前かな?」
「十年一ヶ月前だ!」
「うっわ、細か!えーっと、リーネントにお茶会でお招きした時が初めてでした‥‥っけ?」

 アウル様がそこでさらに不満げなツっこみを入れてくる。

「何で疑問形だ?!」
「念のため確認です。合ってます?」
「合っている!ここは断言しろよ!十の俺が初めての時にお前に言っただろ?すごく可愛いって!」

 うん、可愛い言ったね。耳を。
 セレニティ嬢から驚愕の声が聞こえる。

「ええええ?!」
「俺の初恋だ!どうだ驚け!」

 それも耳ね。やっぱりあの時にフェチになったんじゃ?
驚くセレニティ嬢になぜにアウル様がドヤ顔?これは何の暴露大会?

「そんな!聞いてません!」
「言ってない。帰るなと泣いて俺を引き留めるノワとその夏の間ずぅ———っと一緒に過ごした仲だ。その時にノワを生涯の伴侶と見初めたんだ。もうこれは運命だな!!」

 握り拳で意味不明に鼻息が荒いアウル様。

 それは私も聞いてない。あ、でもそういえば十年前から気に入っていたとは言われてたか。生涯の伴侶に決められるのはいいですが私がアウル様を好きにならなかったらどうなさるおつもりだったんだろうか?‥‥いや、それ以上は考えちゃダメだ。

 泣いて引き留めた?間違ってはいないけど聞きようによっては誤解を招きそうですよ?
 確かにあれは奇跡の出会いではあったけどさ、あの時にもう見初められていた?アウル様どんだけおませさん?
 そんでもって運命?アウル様意外にもロマンチストですね。明かされる新情報に私も驚きだよ。

 セレニティ嬢が驚愕で震えている。マウント取りに行っていた勢いはもうなくちょっと涙目だ。

 私が十年越しの付き合いとは思っていなかったとか?でも途中空白の数年はあるんだよね。だから言うほど長くないし。ちょっとかわいそうになってきたよ。

 というわけで援護射撃です。両手を合わせて驚いて見せる。

「あ!でも私はアウル様と踊ったことなかったですよ!ファーストダンスはすごい!ちゃんと踊ったのは最近かな?」
「え?あら?やだ、そうなの?」

 私のフォローにセレニティ嬢の機嫌がちょっと戻りかけたが、なぜかアウル様が私を追い詰める。

「俺の初めてのダンスの相手はお前だ!忘れたのか?十年前の離宮での夜会で踊っただろ?!」
「あれ?そうでしたっけ?」
「教師以外で踊ったのはあの時お前が初めてだった!俺はすっげー嬉しかったのになんでお前は覚えてないんだよ?!」

 離宮の夜会?踊った?
 ワルツっぽいのでくるくるまわってたやつ?
 えー?あったかなー?
 そしてなぜにアウル様がキレるん?

「んー?そう言われればそんなことがあったようななかったような‥‥でも子供同士だし?」
「子供でも他国王家とのダンスは公式!何なんだよお前は?!俺の初めては全部お前が相手と決めてるんだぞ?!俺とのことは全部覚えとけよ!」
「え?無茶言わないでください」

 アウル様からのまさかの初めて発言!!無駄に記憶力いいな。
 アウル様ロマンチスト乙女確定ですね。初めては全部相手が私?ホントですか?アレは百戦錬磨のくせに?そして何げに重い。

「ちなみにお前はダンスがすごく下手くそで足を踏まれまくった」
「そこは忘れるのが紳士ですよ、アウル様」

 アウル様の憎まれ口はサラッといなしてみせる。
 ロマンチスト乙女のくせに根に持つなー。そういうのは忘れていいのにハイスペックの無駄遣いだ。

 セレニティ嬢がさらに顔面蒼白になってしまった。そして涙目で私を睨みつけてくる。

「なっ何よ何よ!その程度でアウレーリオ殿下に愛されてると言うつもり?!」
「俺は!ノワを愛してるんだ!何度も言わせるなよ!」
「アウレーリオ殿下、どうかお気を確かに!初恋なんてものに惑わされてはいけませんわ!」
「ふざけんな!俺の気は確かだ!」
「いいえ!気の迷いです!初恋は実らないと相場が決まっています!」
「いい加減にしろ!勝手に俺を失恋させるなよ!!」

 あれれ?なんか雲行きが怪しくなってきたな。
 二人で言い争って、なんでこうなる?この二人、相性最悪なのでは?

 これ以上炎上されても面倒なので無難な正論で鎮火に努めてみた。

「二人とも落ち着いて下さい、いい歳して口喧嘩は良くないです。ここは仲良く‥‥」
「喧嘩じゃないわよ!あなたに言われたくないわ!黙りなさいよ!」
「黙るのはお前だ!俺は失恋してないぞ!」
「嫌です!こんなの黙っていられませんわ!目を覚ましてください!」

 もう何これ。わやくちゃになってきた。

 キレキレにキレたセレニティ嬢が追い詰められたのか、何やら暴挙に出てきた。人差し指を私に突きつけて赤面涙目で啖呵を切って見せる。

「もうこうなったら実力勝負よ!」
「じつりょく?」

 あ、マズい。手負い状態?窮猫きゅうびょうウサギを噛む?

「貴方を叩きのめして実力でアウレーリオ殿下を奪い返しますわ!!」
「は?!私は何もしてませんから!私がアウル様を奪ったみたいに言わないでください!!」

 奪い返す?何で私が悪役なのさ?
 その言葉になぜかアウル様が嬉々として反応する。

「よーし!売られた喧嘩は漏れなく全力で買え!そして目の前の敵を殲滅せんめつしろ!略奪した愛しい俺を全力で守れよ!俺が手塩にかけて育てた凶暴ウサギの実力を見せてやれ!」
「なんで?なんでアウル様が嬉しそうなんですか?!愛しい?略奪って?妄想酷すぎます!」

 アウル様奪われてないでしょ?!むしろ私がアウル様にしょっちゅう攫われてるし。
 なんだこの理不尽展開。私全然悪くないって!なんだか涙が出てきたよ!

 略奪?悦に入っちゃってさ!自分が取り合いされて嬉しいのか?最低ですね。しかも私はアウル様の手塩になんぞかかってないし?
 どさくさでしれっと私を凶暴扱いしおって!女の子同士の喧嘩を煽る王子ってどうなのよ?

 何の妄想かデレた鬼教官が私の背中をぐいぐい押して謎の檄を飛ばす。ホントに何で煽られるのか意味がわからない。

 ええ?実力って女の子同士で何するのさ?

 セレニティ嬢の前に押し出されたはいいけど、全然状況がわからない。その私の前に仁王立ちのセレニティ嬢が構えた。そしてオロオロする私にパンチを繰り出してくる。淑女にしてはなかなかに早い。だが見切れる速さだ。それを躱し私は唖然と声を上げる。

「え?実力ってホントの喧嘩?!」
「フフッよく躱したわね。アウレーリオ殿下は文武両道なお方。殿下の妻になるのならこの程度の格闘術は花嫁修行の一環です!」

 可愛い黒猫だと思っていたら凶暴とか。これがホントの猫パンチ?相性はアレだけど、むしろ大人しい私より戦闘狂アウル様にぴったりでは?

「アウル様愛されてますね。グラっときませんか?今からでも婚約解消受けますよ?」
「なんでお前が身をひくんだよ?!いいからさっさとしてこい!あんなのお前の手にかかれば秒殺だろ?!」
「まあ、太々しくも勝利宣言ですの?私を秒で倒すなんて百年早いですわ!返り討ちにしてやります!」
「返り討ち?笑わせてくれる。できるもんならやってみろ!!ノワ、あんな口二度ときけない程に殲滅だ!!」

 ここで私は脱力した。腰砕けものだ。

 だーかーらー!私は何も言ってないって!!
 この展開以前もあったよ。戦うの私なのにさ。なんでアウル様が私の代弁するの?そしてセレニティ嬢も当然の如く私に言い返すし。既視感がひどいです。

 誰も私の話を聞いてくれないしなぁ。


 悟りのような嘆息をしつつ、それでもセレニティ嬢から飛んでくる拳はゆるゆると躱す。アウル様のそれに比べれば止まっているかと思えるくらいの緩さだ。それだけ私の動体視力が鍛えられていたのだ。

 あー、ひょっとしてアウル様も私がこう見えてる?これは当たらないだろうな。可愛い仔猫が爪を立てて猫パンチを繰り出してる感じ?いっそ微笑ましいというか?

 私もだがご令嬢は基本体力がない。ふわふわ躱していたらやはりセレニティ嬢も息が上がってきた。

「ちゃんと戦いなさいよ!私が相手では不満なの?!
「いえ、全然お強いです。筋が良くていらっしゃいます。ご令嬢なのにすごいなぁと感服しておりました」
「その上から目線やめなさいよ!腹立つわね!」

 あ、そうでしたね。力の差がありすぎるとナチュラルにこうなっちゃうのか?アウル様はいつも上から目線で私を煽ってると思ったけどアウル様に悪気はないのか?私ってば誤解して怒って悪いことしたかな?

 そこを絶妙なタイミングで、全てを理解するアウル様の呑気な茶茶が入る。

「いや安心しろー!俺はお前をいつでもわざと煽ってるからなー!」
「悪意の塊でしたか!最低です!!!」
「お前戦闘中だろ?余裕だなー。流石俺の凶悪なウサギだ」

 そこをセレニティ嬢もツッこんでくる。

「何なのよあなた!私と戦ってるのに何の余裕?!」
「いやー?なんかやめません?これ不毛ですって。喜んでるのアウル様だけだし」
「なんだー?俺のウサギは俺のために喜んで戦ってはくれないのか?」
「しれっと私を戦闘狂扱いしないで下さい!!!」

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