【完結】R18 オオカミ王子はウサギ姫をご所望です。

ユリーカ

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第三章 ウサギとオオカミの即位編

第二十三話 「即位することになった」

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 あるうららかな日の昼下がり。アウル様が珍しく午後のお茶に誘ってくださった。一度ご公務に入ると多忙を極めるアウル様にしてはとても珍しいことだ。

 最近はゴタゴタすることもなく穏やかな日々だ。お妃教育の合間に王妃様のお茶会の采配をしたり、アルフォンス殿下の婚約者のテトラちゃんや末姫のアナスタシアちゃんとお茶したり、セレニティちゃん家にお泊まりに行ったり。

 お泊まりは意外にもあっさり許可が出た。お友達を作れ、というよりはストックデイル公爵家とのパイプを太くしろというミッションだけど、望むところだって!楽しく太くしているところだ。
 まあアウル様がお忍びでついてきたこともあったけどね。どんだけ過保護さ?ってセレニティちゃんには大笑いされた。

 そんな楽しい日々の中で私も完全に油断していた。この王子はとんでもなかったのだ。

 温室にエスコートされ中央にしつらえたテーブル席について早々、お茶も出てないのに人払いをした。そしてアウル様は私の顔をじっと見て迷わずど真ん中に直球をぶっ込んできた。

「即位することになった」
「‥‥‥‥‥‥‥‥は?」

 ソクイ?足囲?測位?
 えっと?あと何があったかな?ってどれ?

 茫然と思考を働かせる私にアウル様が逃げを許さんと言わんばかりに言い換える。

「王になることになった」
「‥‥‥‥‥どなたが?」
「俺が。他に誰がいる?現実逃避するな」

 現実逃避以前に思考が追いつかない。
 即位。即位ってあの?
 王太子のアウル様が王様になる?

 そこで一気に思考が繋がって悲鳴を上げてしまった。

「は?!ええええええええええ?!」
「俺のウサギはリアクションもいいな。すごくソソる」
「な?な?なな?!」
「急な話でな。すまない」

 アウル様はめっちゃくちゃ冷静だった。拍子抜けなほどに。殊勝にも謝ってはいるが自分のことだと理解されてるのだろうか?

「いろいろ事情はあるんだが、陛下のお加減が良くない。以前から公務も控えるよう医師から言われてたんだが、もうこれ以上は厳しいだろうということになった」
「‥‥‥‥‥‥‥‥はあ」
「よって急遽俺が即位することになった。まずは二週間後に俺たちが結婚しお前は王太子妃になる。さらに一ヶ月後に俺たちの即位式となる予定だ」
「‥‥‥‥‥‥‥‥はあ」
「ある程度の予想はしていたから準備はしていたが、そうはいっても衣装やら何やら慌ただしくなるだろう。お前もそのつもりでな。新しいスケジュールは後で持って行かせるから確認するように」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

 一気に説明されても動揺した私には全部右から左だ。

 国王陛下のお体がよくないとは聞いていた。それでも先日お見舞いに伺った際はいろいろお話もできてお元気そうに見えた。そんなにお体が酷かったんだと驚いてしまった。

「陛下は?!本当にお加減は大丈夫なのですか?!」

 ゾッと恐ろしくなり思わず立ち上がってしまった。慌ててアウル様を問い詰めれば、アウル様は一瞬目を見開いたが私を安心させるように微笑んだ。

「大丈夫だ、ありがとな。今は安定しているが、即位式まで面会謝絶となった。安静第一だからな」

 その言葉で安堵して私は息をついて腰掛けた。あのお優しい陛下にはお健やかにお暮らし頂きたいと思っているのだ。

 そこでやっとスケジュールに意識が向いた。

「で?二週間後に何でしたっけ?」
「挙式だ」

 心臓が止まりかけた。一年後くらいに結婚だと言われてたのが二週間後?!

「はぁぁ?!来年が二週間後?!急すぎます!!!」
「だからすまないと言った」
「無理無理無理!絶対間に合いません!」

 流石に急すぎる!すまないの一言では本当に済まないって!
 アウル様がそこをぐりぐり押してくる。

「何が?衣装やら式の手配やらは万全だ。来賓の調整が厳しいところだが。妃教育の件なら何度も言ってるがお前の場合実戦でどうにでもなる」
「私の心の準備が無理です!!」
「無理でも何でも二週間後に挙式だ。諦めろ。メンタルなら式後にたっぷりドロドロにケアしてやる」
「ドロドロケアは要りませんって!!!」

 ぎゃぁぁ!そんな!!
 アウル様のことは大好きだけど!結婚はやっぱり覚悟いるでしょ?!私ってばもう妻になっちゃうの?!婚約から三ヶ月位しか経ってないよ?王族とは思えない!普通にすっごいスピード婚じゃない?!

 激しく動揺する私を放ってアウル様はずんずん話を続ける。

「そういうわけでな。一人紹介しとこうと思っていた。そのために今日お前を呼んだわけなんだが」

 そう言ってアウル様が手をあげる。一人の背の高い男性がアウル様の背後から進み出てきた。
 歳の頃は随分若い。歳は私やアルフォンス王子殿下に近いかもしれない。アウル様は眩い金髪だがその方は銀色に近いプラチナブロンドだ。肩甲骨あたりまで伸びるストレートを一つに束ねている。そして顔も恐ろしく整っていた。佇まいからして貴族とわかる、それも上級の。

 だが雰囲気は冷たい。紫がかった青い瞳が極寒だ。雰囲気で言えば熱を帯びやすいアウル様とは対極的と言える。そしてその若さに似合わない威圧感も無視できない。

 歩み寄った青年を私は驚いて見上げた。

 実はアウル様の側に特定の誰かが控えることは大変珍しい。王太子なのだから側近が控えて当然なのだが、警戒心の強いアウル様はそういった者を側に置かないのだ。

 国政業務をこなす上級補佐官は、週替わりの輪番で当番制を取っている。これはアウル様独自のルールで、国王業務を代行されているアウル様の業務の効率を考えてのことらしい。
 災害や戦争など万一の非常事態時に側近業務の応援に入れるように、当番以外にも常に複数人が別業務をしながらスタンバイしているとのことだ。有事の際はアウル様の業務量は一気に増大するため固定担当が一人二人ではさばききれないということだ。汚職や癒着の防止にもなるとか。

 そういう意味でアウル様の側に常に控えている者は、私の知る限りでは宰相のクレマン卿とアルフォンス王子殿下のみだ。ちなみに近衛方はアウル様は側に置かない。ご自身が既にとんでもなくお強いためである。

 というわけで、アウル様に特定の誰かを紹介された時点で、私は内心大変驚いていた。
 それは相当にアウル様に信頼された者ということになる。

「一連の警護を任せる男だ。ミゲルという。警護の絡みでお前も顔を合わせることも多いだろう」

 青年が無言で頭を下げる。全然喋らない。
 無口さん?いや、どちらかと言うと———

 その様子にアウル様がはぁとため息をついた。

「いい加減機嫌を直せ」
「直せと言われて直るものではありません」
「悪いと言っている。お前以外に任せられないんだから仕方がないだろ」

 あーやはり不機嫌だったのか。納得。

 どうやら嫌々警護の任を与えられたようだ。素の顔かと思ったがご機嫌斜めだった模様。いや、これも素かもしれない。そんなわけで興味が湧いた。

「あの?どういった経緯で?」
「ちょっと思うところがあってな。この国で一番強いやつを警護に選んだんだが、本人のやる気がない」
「一番強い?でもやる気がない?それは致命的なのではないでしょうか?」
「普通ならな。まあ大丈夫だ。こいつの仕事は確かだ。この通り面倒くさがりだが、任された指令ミッションは必ず成し遂げる男だからな」

 その男、ミゲルさんは王太子であるアウル様相手に恐ろしく堂々と嫌そうな顔をしている。アウル様とは気心が知れているのか遠慮もなさそうだ。アウル様も気にしていない。

「他の近衛方もいるでしょうに。警護などわざわざ私でなくとも」
「いい加減腹を括れ。お前がいいと言っている。それと、即位したらお前には以前から話していた将軍職を与えるからな。今から覚悟しておけ」

 将軍職?軍部の指揮官じゃん?安易に与える役職ではない。扱いが軽過ぎる。

 私は目を瞠る。ミゲルさんは明らかに軍隊やさんではなさそうだ。弱小リーネントにだって将軍はいるからわかる。そんな方に将軍職?でもミゲルさんも纏う雰囲気は只者ではなさそうだけどね。

 アウル様はどういうお考えなんだろう?

「それはお断りしています。私はそれどころでは‥‥」
「そっちは協力すると言ってるだろ。ぷらぷらと放蕩しているならどうってことないだろ。非常勤でいいと譲歩までして何が不満だ?俺にここまで逆らうのもお前くらいだよ」
「人使いの荒い貴方が非常勤という事自体が信じられないもので」

 ミゲルさんが不遜にも冷ややかな口調だ。こっちがいっそヒヤヒヤしちゃいます。そこでアウル様が目を細め低い声を出した。

「オレの命だ、口ごたえは許さん」

 ミゲルさんはさらに嫌そうな顔をしたが、深いため息の後に渋々返事をした。

承知いたしましたイエッサー

 しばし二人は睨み合っていたが、結局ミゲルさんが折れてアウル様が押し切ったようだ。友人ではない。家来という関係でもなさそうだ。

 なんとも不思議な関係だなぁ。

「ではこれからもよろしくお願いいたしますね」

 にこやかに私がそう伝えれば、ミゲルさんが驚いたふうに口を開いた。

「初対面で私を信頼いただけるのですか?」
「アウル様が貴方を信頼されているのですから、私もそう致します」
「な?ノワは肝が据わってるんだよ。他所の令嬢と一緒にするなよ?」
「そうですね。確かにお二人はそっくりです」

 アウル様はそう言われて嬉しそうだが私はちょっと複雑だったり。

 嫌味かな?それは褒め言葉ではないでしょう?

 ファシアの慣例で式の二週間前から新婦は新郎に会えない。よってこのお茶を最後に挙式までアウル様に会えなくなった。

「くだらない慣習だが仕方ない。何かあればミゲルを送る。そちらも気をつけろ」
「気をつけろ?」
「俺がいないからと言って食いすぎるなよ?夜更かしもダメだ。あと血迷わないようにお前の周りから男を排除しておくからな」
「意味が色々わかりませんが。ミゲルさんも男性では?」
「あれは諸事情で大丈夫だ」

 そして名残惜しそうに私の耳を散々弄り倒しアウル様はご公務に戻られた。
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