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第三章 ウサギとオオカミの即位編
第二十八話 「距離優先?」
しおりを挟むえっと?これはどういう状況かな?
ある日の午後、私はアウル様の小脇に抱えられていた。そう、只今絶賛攫われ中である。絵物語のように華麗に。先日結婚したこの王太子に。
毎度毎度!全く意味がわからん!
せめてお姫様抱っこしてくんないかな。
私はその日も王妃教育の途中だった。が、教授たちがアウル様対策に設置したバリケードを鼻で笑い蹴破り飛ぶように柵を乗り越えて、アウル様は颯爽と授業中の教室に潜入した。
妨害役の並み居る准教授達を紙のように吹っ飛ばし、投げ網落とし檻トラップを難なく蹴散らして。軽々と私を抱え上げ、アウル様は鼻歌交じりに逃走。余裕こいて割れたバリケードを片付けてみせる嫌がらせ付きだ。
またやられたぁ!と教授たちの阿鼻叫喚が城内に響いた。
ま、王妃教育も行き詰まり感が酷かったし良かったかも。先生方、お疲れみたいだったし。ちょっと休んでいただいたらいいんじゃないかな?
王太子妃教育から急に王妃教育に切り替えられ、しかも期限が一年から一ヶ月に縮められた。正直もう無理である。先生方もわかってるんだろう。私もそう思う。
つまりもう手詰まりということだ。
最近は「出来る!元気があればなんでも出来る!」だの「トラだ!貴方はトラになるのだ!」だの精神論がひどい。そっちに走ったらもう終わりだってば。
「やれやれ、あいつらもとっとと諦めれば楽になるのにな」
「アウル様が言うことじゃありませんよね?」
期限をぶっこ抜きに縮めた張本人に私は顔を顰めて苦言を呈した。
まずは一年かけて王太子妃になるはずがいきなり結婚、間髪入れず国王即位からの王妃即位までのコンボを企てた悪辣腹黒王太子に荷物のように小脇に抱えられて私はため息をついた。
アッチの我慢ができず、ただただ初夜を迎えたいがためだけに。即位という言い訳で結婚をねじ込んだんだよね、この王子はさ。
後一ヶ月でアウル様の国王即位。
そんでもって私は王妃ですって。こんな私が。大国ファシアの王妃。笑っちゃいます。
もうね、私は諦めましたよ。どうにでもなれですわ。この王太子ですよ?色々と普通じゃないし。
教授たちもこの王子の被害者だ。なまじ真面目だから何とかしようとしてるけど時間的に物理的に無理だし。
私の教育より対アウル様の強奪防衛戦に熱が上がっているのはある種の現実逃避か?きっと今頃、次の防衛戦に向けて作戦を練ってるんじゃないだろうか。だけど今日の様子ではまだまだ手ぬるい。
あんな脆弱バリケードでは対アウル様には甘いと思う。板なんて身体能力異常なアウル様なら手刀だけで真っ二つだったよ。私でも蹴破れそうなやつだったし。
このハイスペック王子相手に本気でやるなら10万ボルトの強力な電気柵か、せめて有刺鉄線は必須だろう。罠だって天井から鉄球落とすとか落とし穴に竹槍とか。壁にも矢とか剣山仕込んじゃえば?そんでもって射程に入ったら痺れ粉トラップだ。
お、これなら何だかいけそうじゃん?次は私に防衛指揮を任せてくれるよう今度教授達に進言してみようかな。私が全力でボコボコにしてみせるよ。
「おい、今何か良からぬことを考えてたろ?」
「え?はい?いーえ?なーんにも?」
「そうか?何か毛が逆立つというか、ゾッとしたんだがな」
獣の野生のカン?考えただけなのに?
アウル様も侮れないわ~
そんなことを考えてふと気がつけば城の裏門まで連れてこられていた。
「さて、ここから出かけるぞ」
「出かける?」
「逢引だ」
「‥‥‥‥はぁ」
「おい!反応がめちゃくちゃ薄いな!」
薄くもなりますよ。こーんなにしょっちゅう掻っ攫われてあっちゃこっちゃでイチャコラして。夜だって性欲全開でエロエロイチャコラ盛っちゃってさ。
新婚だから仕方ないけど絶倫は聞いてないって。むしろ結婚したら性的に歯止めが掛からなくなったようにも思う。
それが今更純情ぶって逢引?順番がめちゃくちゃだよ。
「今日は街で祭りなんだよ。みんな大騒ぎだからどさくさで色々見て回れるぞ。まずはお前が行きたがってたケーキ屋にでも行くか?カフェが併設されてる店だ」
「行きます!!!!」
やだもう!それを早く言ってよ!!!
私の食いつきにアウル様が悪辣にニヤリと笑った。
「なら変装だな」
そして納屋的な小屋に連れ込まれ箱から街娘風の服とローブを渡してきた。
「お前のはこれな。髪型はそのままで。街にも行けるようトリスに指示しといた」
「相変わらずのすんばらしい根回しっぷりですね」
「当然だ。先を読んで常に準備する。そうすれば憂いなしだ」
城にいるのに久しぶりのツインテールだと思ったら外出用のウサギ耳隠し。そういうことだったのか。ホント周到だよ。
「じゃあ脱ぐぞ」
「は?」
「俺が手伝ってやる」
黒い笑顔のアウル様がにじり寄ってきて、私は思わず身をひいてしまった。
そこで理解する。渡された服は背中にボタンがついていた。今着ているドレスも後ろあき。
つまり一人では脱ぎ着できない。
このエロ変態王子!仕込みやがった!!!
「なッ 何言ってるんですか?!一人でやります!」
「ふーん。手が届くのか?無理だろ?遠慮するな」
「トリスは?!トリスを呼んで‥」
「今からトリス呼んだら街での時間が減るぞー?ケーキが減るぞー?いいのかー?」
「ぐッ!!!」
痛いところをつく。そこも計算尽くなんだろう。
「ほれ早よ来い。後ろ外してやる。お前の生着替え見てみたかったんだよな。夫婦なんだし問題ないだろ?」
「問題大ありです!!!」
生着替え?どこまであざとい変態なんだ?!悪びれもなく言いおって!毎朝なかなか自室に戻らないのは私の着替えを待ってたんか!!
激論の結果、ボタンの開け閉めだけアウル様に手伝ってもらうことで押し切った。背中のボタンを外したところでアウル様を小屋の外に叩き出す。
「つまらん。ウサギはいつ俺色に染まるんだよ?」
「そんな色には一生染まりません!!」
外でブツブツ文句を言うアウル様だったが、ワンピースのボタンは嬉しそうにはめていた。
近い将来この変態王子が私の着替えタイムに乱入する様子が未来視で見えるようだ。以心伝心に未来視。私もいろんな能力がアウル様に開発されてるよ。
「ちょっと時間押したな。距離優先で行くぞ」
いつの間にか街の青年風の服装のアウル様がそう言って私を横抱きにした。
「距離優先?」
なんの話だ?そう思った時は遅かった。
アウル様は私を抱き上げたまま城壁の階段を二段抜かしに駆け上がる。てっきり裏門から普通に出ると思っていた私は仰天した。そして———
アウル様は駆け上がる速度を緩めず城壁の壁の縁を飛び越えて、躊躇いなく宙に身を躍らせた。
「もう!絶対!二度とアウル様と出掛けません!!」
「最短距離だ。早く着いたろ?」
「距離優先が過ぎます!!」
最短距離?だからといって!街に出るのになんであんな恐怖の絶叫コースをあのスピードで通らなければならない?!死ぬかと思った!!
城壁を飛び降りたアウル様はその後、絶壁のような崖を滑り降り川を飛び越え森の中を高速で駆け抜けた。
私を横抱きにしたままで。
スピードが普段の比ではない。思わず私がアウル様にしがみついてしまったのは仕方がないとして。このエロ王子がそれにデレるのは許せん!確信犯じゃん!時間推しがなくてもコースは一択だったと断言できる!
むくれる私の頭を撫ででアウル様が苦笑する。
「そう拗ねるな。機嫌直せって。じゃあチーズケーキ行くか?」
「行きます!!!」
ご機嫌取りとわかっていたがチーズケーキには勝てなかった。私ってばチョロすぎる‥‥。
二人で街中を歩く。秋の収穫祭で街はお祭り騒ぎだ。あちこちで出店が出て笑顔が溢れている。
「はぐれるなよ?ほれ」
「けけ結構です!!」
アウル様はポケットに手を突っ込んでいたが、その腕にすがりつけと言わんばかりに肘を振って見せる。先ほどの行きがかり上、憮然と断ってしまった。
アウル様はそんな私に楽しそうに笑う。その大好きな笑顔に胸がキュンとした。自分で断ったのに断ってから後悔した。
あー、新婚だし逢引なんだからイチャイチャしてもよかったんだった。アウル様もう一回声かけてくれないかな?
前を歩くアウル様の広い背中を恨めしげに見つめた。
アウル様はシャツにズボン、ベストを羽織っている。輝く金髪は前髪をかき上げて、後ろでひとつに縛っている。着崩してるのに恐ろしくサマになっていた。変装用のメガネこそかけているが、輝く美貌は晒していた。
一方の私は町娘風のワンピースだがフード付きローブを頭からかぶり顔を隠している。
王太子が顔を晒して私がコソコソしなくちゃならない意味がわからない。
「お前は面が割れている。姿絵が爆発的に広がったからな」
「それならアウル様だって!!」
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ヤダヤダ!私の旦那様なのに!!
断ったのを忘れてするりとアウル様の肘に縋りついた。
「お?どうした急に?」
「‥‥‥はぐれたら‥‥困ります」
「うん?そうだな?まあ可愛いウサギは大歓迎だ。うんと甘えろ」
フードの上から頭を撫でられる。嬉しそうににやけるアウル様の笑顔に胸が熱くなるが、その笑顔に女の子たちからもため息が溢れたのは許せない。
私のための笑顔なのに!!
モヤモヤした思いでアウル様を引っ張ってケーキ屋に急いだ。
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